取材・文/鳥海美奈子
世界に冠たるフランス・ブルゴーニュワイン。とりわけ銘釀地として知られるコート・ドールには、26の村があります。そのなかにはジュヴレ・シャンベルタン、ヴォーヌ・ロマネ、ムルソーなど誰もが一度は耳にしたことのあるワイン産地が連なっています。
なかでもニュイ・サン・ジョルジュは、男性的なワインの代表格です。そのうち、生産されるワインの98%が赤ワイン。ニュイ・サン・ジョルジュの赤ワインは色調が濃く、チェリーやカシスといった赤い果実やスパイスの香り、味わいにははっきりしたタンニン(苦味)があり、力強い構成力を持っています。
ニュイ・サン・ジョルジュには、いくつかの有名ドメーヌがあります。例えば、長熟型の重いワインを生み出すドメーヌ・アンリ・グージョ。あるいは力強さとしなやかな口当たりを両立したワインが特徴のドメーヌ・ジャン・ジャック・コンフュロン。そして、ニュイ・サン・ジョルジュのなかでも、ひときわ繊細でエレガントなワインを造るのが、今回ご紹介するドメーヌ・ド・ラルロです。
このドメーヌの歴史は、18世紀末まで遡ることができます。フランス革命後に建物や畑を所有したあとは何度か所有者が変わり、現在はフランスの大手保険会社AXAアクサ・ミレジムが購入し、ワイン造りを行っています。豊富な資金のもと新しい設備を導入したりと、このドメーヌの評価を守り続けているのです。
来日したドメーヌ・ド・ラルロの醸造責任者であるジェラルディンヌ・ゴドさんにお話を伺いました。
女性であるジェラルディンヌ・ゴドさんはブルゴーニュ大学で微生物学や醸造学を学び、様々なドメーヌで研鑽を積んだあと、2014年にこの名門ドメーヌの醸造責任者に抜擢されました。
「フランスのワイン造りは、長いあいだ男性が担ってきました。日本酒造りと同じように、20世紀中頃までは女性は差別的な扱いを受け、現場に入ることは忌み嫌われていたのです。それでも近年は女性醸造家が増える傾向にあり、その繊細な感性で良質なワインを産みだしています。私もそのひとりと言えると思います」
現在、ドメーヌ・ド・ラルロの畑は15ha。2000年からぶどう栽培にビオディナミ農法を採用、除草剤などの化学合成農薬はいっさい使用していません。醸造の際も人為的な介入はなるべくせず、ぶどうの良さを生かします。その結果、ワインにはニュイ・サン・ジュルジュのテロワールがはっきりと表現されているのです。
とりわけこのドメーヌの代名詞ともいえるのはプルミエ・クリュ(1級)に格付けされる「クロ・ド・ラルロ」ならびに「クロ・デ・フォレ・サン・ジョルジュ」の畑のワインです。このふたつの畑はブルゴーニュの全生産者のなかでも、ドメーヌ・ド・ラルロだけが持っているモノポール(単独所有畑)なのです。
クロ・ド・ラルロの畑は険しい傾斜で、土壌は岩や石で構成されています。この区画ではニュイ・サン・ジュルジュにはめずらしく白ワインも造られています。白い花や白桃、アプリコットの香りがあり、上品ながら肉感的な味わいです。赤ワインは反対に、シルキーで密度のある舌触り、女性的でエレガントなスタイルに仕上がります。
もうひとつのクロ・デ・フォレ・サン・ジョルジュは白い石灰岩土壌、ピンクがかった石灰岩土壌、赤い粘土石灰岩土壌など、場所によりさまざまです。テロワールごとに別々に醸造して、最後にそれらを混ぜ合わせてワインとしてリリースします。ベリー系の果実の深みに満ち、筋肉質な味わいのなかにナチュラルなニュアンスも存分に感じられます。
ジェラルディンヌ・ゴドさんが醸造責任者となってから、より洗練され、ナチュラルさが際立つようになったドメーヌ・ド・ラルロのワイン。今後、ますます注目を浴びることでしょう。
取材・文/鳥海美奈子
2004年からフランス・