「町中華」はすでに日本の郷土料理のひとつといえる。その土地、土地の名産食材や気候風土、独特の食文化によって育まれ、地元民に愛される「町中華」の魅力とは何か。日本各地で進化を続ける名店にて、その真髄を探る。
中華なのに“ちらし”、もちろん酢飯ではない

北海道帯広市のご当地食としては「豚丼」が知られるが、もうひとつ、市内の中華店を中心に提供される、知る人ぞ知る料理がある。その名は「中華ちらし」。
中華丼のような見た目であるが、食べてみればまったく違う。肉と野菜、魚介を炒めた具材が、ご飯を隠すほどたっぷり盛られる。ご飯に甘塩っぱいタレがほどよく染みて食欲を刺激する。「ちらし」といっても酢飯ではない。
現在、帯広市内の10数店で中華ちらしが出されているが『ラーメンKiRiちゃん』もそのひとつだ。主人の桐山耕一さん(60歳)は、中華ちらしの由来をこう語る。
「もとは市内の料理店で、まかないとして出されていたものです。それが評判となり、働いていた料理人たちが独立して店を出すときに、メニューに盛り込み広がっていったと聞いています」
それが1970年代前後のこと。のちに、桐山さんはその料理人のひとりが開いた系列店で、中華ちらしを習ったという。
「寿司のちらしのように具沢山でおいしく、お腹いっぱいになります。帯広にいらしたらぜひ召し上がってみてください」(桐山さん)
ラーメンKiRi ちゃん


北海道帯広市大通南8丁目いなり小路
電話:080・1867・3115
営業時間:11時30分〜14時(月曜〜金曜)、18時〜翌1時30分
定休日:日曜、祝休日
交通:JR帯広駅より徒歩約10分
変化を遂げる中華ちらし
中華ちらしに作り方の定型があるわけではなく、店により少しずつ変化をしていく。台湾出身の湯乾釧(たんけんせん)さん(63歳)が経営する『東海楼』では、エビが入り餡かけ仕立てになった「台湾式中華ちらし」を提供する。たっぷりの卵を使った餡がかかりコクのある味わいだ。
「帯広に来て中華ちらしを知り、私の故郷の台湾料理とミックスさせて作りました」(湯さん)
桐山さんが作る“正統派”の中華ちらしとはまた違う見た目だ。同じ起源をもつ料理が、地域の中で変化をしていくのは興味深い。『東海樓』には、点心や北京ダックなどの本格中華もあるが、どれも手頃な値段で近隣の人たちから親しまれている中華店だ。
「これからも、気軽に寄ってもらえる帯広の町中華でありたいと思っています」と湯さんは語る。



中華台湾料理 東海樓

北海道帯広市西7条南9丁目51
電話:0155・20・1658
営業時間:11時30分〜14時、17時〜21時(最終注文20時)
定休日:月曜(祝休日の場合は営業、翌日休み)
交通:JR帯広駅より徒歩約12分
※この記事は『サライ』本誌2025年3月号より転載しました。

