「町中華」はすでに日本の郷土料理のひとつといえる。その土地、土地の名産食材や気候風土、独特の食文化によって育まれ、地元民に愛される「町中華」の魅力とは何か。日本各地で進化を続ける名店にて、その真髄を探る。

中華なのに“ちらし”、もちろん酢飯ではない

中華ちらし。豚バラ肉とハクサイ、ネギ、ニンジン、キクラゲ、イカなどを素早く炒めタレをからませる。850円。

北海道帯広市のご当地食としては「豚丼」が知られるが、もうひとつ、市内の中華店を中心に提供される、知る人ぞ知る料理がある。その名は「中華ちらし」。

中華丼のような見た目であるが、食べてみればまったく違う。肉と野菜、魚介を炒めた具材が、ご飯を隠すほどたっぷり盛られる。ご飯に甘塩っぱいタレがほどよく染みて食欲を刺激する。「ちらし」といっても酢飯ではない。

現在、帯広市内の10数店で中華ちらしが出されているが『ラーメンKiRiちゃん』もそのひとつだ。主人の桐山耕一さん(60歳)は、中華ちらしの由来をこう語る。

「もとは市内の料理店で、まかないとして出されていたものです。それが評判となり、働いていた料理人たちが独立して店を出すときに、メニューに盛り込み広がっていったと聞いています」

それが1970年代前後のこと。のちに、桐山さんはその料理人のひとりが開いた系列店で、中華ちらしを習ったという。

「寿司のちらしのように具沢山でおいしく、お腹いっぱいになります。帯広にいらしたらぜひ召し上がってみてください」(桐山さん)

ラーメンKiRi ちゃん

店はスナックや居酒屋などが連なり、昭和レトロを醸す「いなり小路」の一角にある。50mほどの通り抜けに20の店が軒を連ねる。
店内はカウンター7席のみ。ギョーザやチャーハン、おつまみも人気。店名にはラーメンとあるが、町中華の店として親しまれている。

北海道帯広市大通南8丁目いなり小路
電話:080・1867・3115
営業時間:11時30分〜14時(月曜〜金曜)、18時〜翌1時30分
定休日:日曜、祝休日
交通:JR帯広駅より徒歩約10分

変化を遂げる中華ちらし

中華ちらしに作り方の定型があるわけではなく、店により少しずつ変化をしていく。台湾出身の湯乾釧(たんけんせん)さん(63歳)が経営する『東海楼』では、エビが入り餡かけ仕立てになった「台湾式中華ちらし」を提供する。たっぷりの卵を使った餡がかかりコクのある味わいだ。

「帯広に来て中華ちらしを知り、私の故郷の台湾料理とミックスさせて作りました」(湯さん)

桐山さんが作る“正統派”の中華ちらしとはまた違う見た目だ。同じ起源をもつ料理が、地域の中で変化をしていくのは興味深い。『東海樓』には、点心や北京ダックなどの本格中華もあるが、どれも手頃な値段で近隣の人たちから親しまれている中華店だ。

「これからも、気軽に寄ってもらえる帯広の町中華でありたいと思っています」と湯さんは語る。

台湾式中華ちらし。ご飯にのせれば、エビがのる豪華で一味違う「ちらし」が完成。旨味にあふれ気がつけば完食。935円。「青島(チンタオ)ビール」は605円。
豚肉、タケノコなどを丁寧に千切りにして、ニラ、キクラゲを加え餡かけの卵でとじるのが湯さん流。
一番人気はタラバガニを使った「かにチャーハン」。この道約半世紀、来日後、横浜中華街で修業した湯さんの自信作。1100円。

中華台湾料理 東海樓

北海道帯広市西7条南9丁目51
電話:0155・20・1658
営業時間:11時30分〜14時、17時〜21時(最終注文20時)
定休日:月曜(祝休日の場合は営業、翌日休み)
交通:JR帯広駅より徒歩約12分

※この記事は『サライ』本誌2025年3月号より転載しました。

サライ2025年3月号は大特集『「ガチ中華」VS「町中華」』

 

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