【ゆらぎの扉】「怒りが抑えられない」58歳女性の更年期不調を支えた容姿への投資“美容外科に2千万円”は安いのか〜その１〜

40代後半から50代半ばの女性が、「新しいことに挑戦」する様子を目にすることが多い。離婚や結婚、移住や家の購入、転職や独立、最近は留学やリスキリング（学び直し）、もそこに加わる。しかし一方で、心身の“ゆらぎ”に悩む世代でもある。更年期による心や体の乱れ、育児や介護やお金の不安、家族のために献身しても“当たり前”と思われる虚しさ。世間からの疎外感を覚える人もいるだろう。“ゆらぎ世代”の女性が感じている“現実”を、25年間に1万人近くのインタビューを行ったライター・沢木文が紹介する。

最近、美容外科医が増えているとの報道が目立つ。厚生労働省が3年に1度実施する『医療施設静態調査』の最新版（2024年）を見ても、美容外科の診療所数は、2020年は1404施設だったのに、3年間で2016施設と4割増えている。

これには、医師が従来の保険診療では稼げない現実と、利用者が増加していることが重なったことが推測されている。2つの要素が重なり、「直美」（ちょくび）という言葉を見かけるようになった。これは、医師が国家試験に合格した後、2年間の臨床研修後、“直接”美容外科に就職することを意味する言葉だ。

東京23区内に住み、フリーランスでバイヤーやPRの仕事をしている由紀代さん（58歳）は、「若々しく綺麗でいたい、現役でありたいもの。更年期で揺らぎ始めてから、美容外科に助けられてきた」と言う。

女子大生ブーム、プレゼントの最高額は100万円

由紀代さんは、見た目は40代半ばに見えるほど、若々しい。髪を巻き華やかな容姿をしている。中学から大学まで世田谷にキャンパスがある一貫校で過ごし、青春期の華やかさの余韻をまとっている。

「当時の女子大生ブームに乗り、雑誌やテレビの“ミス・キャンパス”特集の常連でした。編集者やテレビマンと六本木や西麻布で、毎日のように遊んでいた。当時、財布を出した記憶はありません。みんなが奢ってくれた。“地中海通り”（西麻布交差点から天現寺橋交差点の外苑西通りの愛称）のレストランも学生時代に全制覇しました」

1966年生まれの由紀代さんは、バブル経済を謳歌した世代だ。華やかで明るく、「なんとかなるでしょ」と笑い飛ばす雰囲気を多くの人が慕う。

「と言っても、私の実家はもともと貧乏。父の一発逆転ができるところを見てしまうと、楽天的になる。何もかも失っても“あの貧乏時代に戻ればいい”と思えるのは強み」

由紀代さんの父は貿易関連の会社を経営しており、「一山当てた」という。

「私が中学校の時に、世田谷の豪邸に引っ越したんです。それまで住んでいた区営の平屋にはお風呂もなかった。ときどき、ご飯も麦混じりでしたしね。両親ともに大学は出ていませんでしたが、英語が堪能で、帳簿も読める努力家。結果を出さなくては社会から疎外されるので、女子大生ブームでも勉強は頑張りましたよ。大学も10番以内の好成績で卒業しています」

だからこそ、新聞社系の広告代理店に就職できた。そこで多くの経営者と知り合ったという。

「そこでもチヤホヤされ、ブランドのバッグや服を山ほどもらいました。私は親から“遠慮するな。なんでも楽しく美味しくいただけ”と言われていたので、“ありがとう！　うれしい”と受け取っていると、どんどんいいものがやってくる。当時、最高金額のプレゼントは、あるブランドの100万円のバッグ。あれはさすがに“いただけません”と辞退しました」

送り主は、仲良くしていた不動産関連会社の当時50歳の社長だった。辞退すると彼は「妻に買ってきたんだけど、ダブっちゃったんだ。使ってよ」と。その男性は天真爛漫な由紀代さんを面白がり、自分の取り巻きのように連れ歩いていた。

「若くてちょっときれいな子を連れて歩いて、見せびらかす。そういう人がいっぱいいた時代だったんです。私はゴルフも好きだから、すごく大切にされました。奥さんも寛容な方で、優しかった。“結婚するならこういう人がいいな”という人そのもの。大人の男性と遊び歩いていたら、あっという間に30歳になっていたんです」

【結婚への激しい圧に退職し、家業に入るが……次のページに続きます】