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【懐かしの母校食堂 第1回】開成中学校高等学校×フィレンチェ(東京・西日暮里)

文/鈴木隆祐

イラスト/若菜由三香

オタク系開成生の根城『フィレンチェ』で名物ママの繰り出すザ・喫茶洋食に癒される。

開成高校といえば、押しも押されもしない日本の私学の雄である。高校からも受験でき、1学年400名というスケールメリットもあるが、東大合格者はこの10年、150名を下回ったことはなく、一番多い年で2012年の203名。卒業生の半数に達するとは驚きだ。

いわゆる御三家のうち、麻布や武蔵には制服も校則による拘束もない。一方、開成はガリ勉集団と誤解されがちだが、制服着用こそ義務づけられていても、生徒の自主自律を重んずる点では似たようなものだ。それは卒業生の取材を通じてもつかんでいる。昨今の代表的OBであるマネックス証券の松本大さんなど、そんな誤解を解きたいのだと、インタビューにも応じてくれた。

「調べたんだけど、ぼくの通った喫茶店なんかはみんななくなっちゃったね。そういや、連絡網で閉店情報が届いて、駆けつけた店もあったよ」

この3〜4年に限っても、西日暮里でも喫茶の岬、定食のくりやなど、開成生も利用していた店がなくなってしまった。そもそも駅ガード下には焼きとんの名店・喜多八などの居酒屋がひしめく界隈で、ランチ時のメシには事欠かないのだが、高校生がふらっと立ち寄るのに向いた店など、今ではチェーンしかない。

現に西日暮里駅前の交叉点には三竦(すく)み状態で、餃子の王将・日高屋・吉野家が向かい合っている。松本さんも「今は復活したけど、王将も一度撤退したんだ。だから現存するソウルフードというと、結局は吉野家になるね」と、会社の応接室に持参した持ち帰り用の牛丼並を一気に平らげ、「これは誰にとっても青春の味だよね」と苦笑した。

「制服姿なんで、そのまま雀荘やパチンコ屋に行けば、もろバレてしまう。だけど、ぼくらのような落ちこぼれに寛大な店もあって、そこで私服に着替えさせてもらい、ちょっとタバコも一服し、おもむろに繰り出すわけです」

こうした不良分子が一定数存在する学校は強い。彼らはそんな地元の店にたむろし、無駄に大人ぶっているわけでもないのだ。しずしずと世間の動きや思惑をそこで吸収し、後々の仕事にもフィードバックさせている。

そして『フィレンチェ』こそ、特にオタク系の開成生には根城。各種ボードゲームやプレステなどで遊べるので、直行する帰宅部生の中にはいまだ通い続ける者もいる。そんな一人に店に来てもらって証言を得たが、「回りを見ているうちに、自分でもできると過信」してしまい、東大を目指し三浪した挙げ句、工学院大学にようやく潜り込んだのだとか。

「考えてみれば、自分の人生のピークは開成に入れたことだったのかも」

そう肩を落とす彼だが、ママの郡司俊江さんがかける「元気そうじゃない?」の声ですぐ破顔一笑となった。どんな優秀な生徒・学生でも、社会に出れば壁にぶつかる。そんな時に立ち寄れる、こんな寛ぎの空間があるのとないのでは大違いなのだ。

「嵐の二宮君主演の『弱くても勝てます』ってドラマがあったでしょ。あれはウチがモデルなのよ。設定は変えてるけど、開成の軟式野球部の話だし、そこの生徒達が溜まり場にしてる喫茶店って言ったら…もうウチしかないんですよね」

ベストセラーになった原作もまだ読んでいないが、この店の有り様にも通ずる、いいタイトルだ。そして、この店一推しのスパゲッティピザを頬張れば、満々と力が漲ってくる(気がした)。チーズの下にはケチャップ多めのナポリタンが潜み、塩気と甘みのバランスにガツンとやられる、これぞ青春の濃度と言えよう。

【学校データ】
開成中学校高等学校
男子校/創立:1871年
住所:東京都荒川区西日暮里4-2-4
出身者に村山知義、田中美知太郎、滝沢修、中村伸郎、きだみのる、福永武彦、渡邉恒雄、蜷川幸雄、逢坂剛、橋爪大三郎、岸田文雄など。

【店データ】
フィレンチェ
住所:東京都荒川区西日暮里5-35-4 新和ビル1F
営業時間:[月~土]11:30~23:00、[日]12:00~19:00

電話:03-3805-2744

文/鈴木隆祐
1966年生まれ。著述家。教育・ビジネスをフィールドに『名門中学 最高の授業』『全国創業者列伝』ほか著書多数。食べ歩きはライフワークで、『東京B級グルメ放浪記』『愛しの街場中華』『東京実用食堂』などの著書がある。近著に『名門高校 青春グルメ』がある。

 

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