酒販店などで好みの日本酒を手に入れたら、自宅でじっくり楽しみたい。そのために、酒と器の相性を知っておこう。

実は、同じ酒でも、違う器で飲むと、全く印象が異なることがあるのだ。

日本酒と器に造詣の深い料理家の稲垣知子さんが次のように話す。

「酒器の種類、形状によって、まず香りの届き方が変わります。口径が大きく開いているタイプは香りが閉じこもらず、比較的穏やかに感じます。口径が狭く閉じているタイプは、ストレートに鼻孔に向けて香りが上がりますから、その分強く感じられるのです」

●指導 稲垣知子さん(料理家)
フランス料理、フランス菓子を学んだのち、料理家に。日本酒への造詣も深く、郷土料理との組み合わせの勉強会なども行なう。

また、口中で、酒がまずどのあたりに触れるかで、感じ取りやすい味が変わるという。

「甘みを感じる部分は、比較的前面にあり、酸味は口の両端で、苦みは比較的奥の方で感じやすくなります」

口径が広いタイプは、酒を口に運んだとき、酒が舌の両側に広がりやすく、口径が狭いタイプは舌の中心を細くまっすぐ喉の奥に向かって流れる。それで味の感じ方が変わるというのだ。また、口造りの形状や厚さによっても味が変わるというが、原理は同じだ。

「外側に反った端反りは、より口の奥に酒を運びます。内側に向かう姥口は、前面に酒を落とすような構造なのです。また、口造りが厚いほど、酒が器のへりを乗り越えるのに時間がかかり、まとまってぽてっと落ちるのです」

それでは以下に、日本酒をさらにおいしく味わうための酒器選びのポイントを4つ、ご紹介していこう。

■ポイント1:酒器全体の形状

まずは酒器の形状の違いによる差だ。

【平杯】は、口径が大きく開いているため、酒の香りを閉じ込めない。また、酒を口に流し込むとき、比較的角度がつきにくく、舌の上にスムーズに広く流れ込み、舌の奥や両端にも分散されることで、酒全体の味を拾いやすい。

【ぐい呑み】は、ふくよかな胴が、香りや味わいを膨らませるような印象だ。写真の器のように、口に歪みのある沓形杯と呼ばれるものは、唇をどの部分にあてて飲むかで、味の感じ方が変わるのも面白い。

【筒型杯】は口径が狭いことから、酒が舌の中心に細く流れるためシャープな印象になりやすい。胴に膨らみがなく、酒が空気に触れる部分が少ないので、味の膨らみが抑えられ、引き締まったように感じられる傾向にある

【ワイングラス】で注目すべきは、口径と胴の大きさ。口がすぼまっていると、グラスの空間に溜た まった香りをとらえやすい。胴が大きいと味や香りを増幅させる。胴の細いフルート形は、味を鋭角に伝える傾向にあり、日本酒には向きにくい。

 

■ポイント2:口造りの形状

次に、実際に口に当たる「口造り」の形状をみてみよう。ここも酒の印象を左右するポイントだ。

外側に向かって反りがある口造りを【端反り】(はぞり)という。口に酒を流し込んだとき、より広範囲に行き渡らせるような造りだ。また、このような形状のものは、酒の中にある酸味を拾いやすくする傾向がある。

内側に向かってすぼまっているのが【姥口】(うばぐち)。酒を口に流し込むとき、へりにたまってから、まとまってぽてっと口中に落ちる。その分甘さが際立つ印象だ。また、器のサイズに比べて、口径が狭くなる。

■ポイント3:飲みくちの厚さ

次は飲み口の厚さだ。この厚みでも味が変わる。

【飲み口が薄い】と、その分抵抗なく酒が流し込まれるので、口中で広がりやすく、酸味や渋みをバランスよく拾える。

【飲み口が厚い】と、へりを乗り越えるのに時間がかかり、塊になって口の前面に入るので、甘さが際立つ。

■ポイント4:酒器の素材

素材でも味は変わる。だから素材選びは重要だ。

【ガラス】【磁器】は、味に変化が起こりにくいので繊細な酒に向く。【陶器】は、肌の目が粗いほど、生酒などの荒さが消えるが、繊細さは失われやすい。【錫】は、熱伝導率が高いので、冷酒の清涼感や燗かん酒ざけの温度を、手や唇で物理的に感じ取りやすい。

「ガラスや磁器の器は、酒の味をあまり変化させません。しかし、肌の目が粗い陶器は、器が香りや甘みを吸い取って、感じにくくさせる傾向があります」

以上、酒器選びのポイントを4つご紹介した。

これらを踏まえた上で、酒の長所を活かすように、器を用いれば、好みの一本の魅力をさらに引き出すこともできるだろう。

「たとえば、味が少しぼんやりしているなあ、と感じたら、口径の狭いものを使えば、メリハリが出ます。ちょっと硬いな、と思ったら、口径も器も大きなものを使うと、味に膨らみが出ます。また、お燗だったら個人的には平杯をお薦めしますね。口が小さいと、燗で立ち上がったアルコールを一番に感じてしまうのですが、平杯なら、適度にアルコール感を逃がしながら楽しむことができます」

器との組み合わせで、無限に広がる酒の味の可能性。自宅で好みの一本を傍らに、ゆっくり研究にふけりたい。

※この記事は『サライ』本誌2017年1月号より転載しました。年齢・肩書き等の情報は取材時点のものです。

 

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