文・写真/山本益博
かき氷の季節ですね。この季節になると私が必ず出かけるのが、麻布十番の『浪花家総本店』です。この店は「たいやき」で有名ですが、かき氷をいただくにも最適な場所なのです。
なぜかというと、1階の店内には空調設備がありません。近年は扇風機もありません。よりによって、店では真夏でもたいやきを焼いていますから、熱い空気が漂っています。ご主人をはじめ3名のたいやき職人さんは、そんな暑さはどこ吹く風と、黙々とたいやき作りに専念しています。
そんな環境でたいやきとともにいただくかき氷が最高なのです! 眉間がキリキリと痛くなることがありません。
ところで「たいやき」に「天然」と「養殖」があるのをご存知でしょうか? 一度にいくつも並べて焼ける型を使って焼いたたいやきは「養殖」、一つ一つ、型に粉とあんこを詰め込んで焼き上げるのを「天然」というのだそうです。『浪花家総本店』はもちろん、「天然」たいやきです。
このたいやきとかき氷を一緒に注文していただくのが『浪花家総本店』ならではの楽しみ方なのです。
まずは、名物の「やきそば」をいただき、しばし、たいやきが出来上がるのを待ちます。かき氷は、品書きに魅力的な氷白玉、氷あずきなどがずらりと並んでいますが、注文するのは「氷宇治」です。この「たいやき」と「氷宇治」の組み合わせこそベストセレクションであります。
たいやきを左手でつまみ、右手にはスプーンを持ち、たいやきを一口かじっては、スプーンで氷宇治を掬って食べます。温かいものと冷たいものが口中で合体、ほど良い温度になって、喉元を過ぎてゆきます。そう、冷たい麺を温かいつゆにつけていただく「つけ麺」感覚と同じですね。
この温かいものと冷たいものを同時に口に運ぶ料理を生み出したのは、私の知るところ、スペインは「エル・ブリ」のフェラン・アドリアではないかしらん。ひとつの器に、冷たいスープを底に、温かいスープを上部に流してグリンピースのポタージュを味わう趣向を生み出しました。1990年代後半のことです。この「たいやき」と「氷宇治」の組み合わせ、フェランが食べたらなんというでしょうね。
お店のご主人、女将さんも公認、お墨付きの真夏のお楽しみです。
【今日のお店】
『浪花家総本店』
住所:東京都港区麻布十番1-8-14
営業時間:11:00~19:00
火曜日、第3火水連休
電話:03-3583-4975
http://www.azabujuban.or.jp/shop/food/219/
文/山本益博
料理評論家・落語評論家。1948年、東京生まれ。大学の卒論「桂文楽の世界」がそのまま出版され、評論家としての仕事をスタート。TV「花王名人劇場」(関西テレビ系列)のプロデューサーを務めた後、料理中心の評論活動に入る。