地方による違いは、もっと分かりやすい。鉛筆のように太い蕎麦で知られる山形や、どじょう蕎麦と呼ばれる出雲の蕎麦通は、4番の状態を楽しむ人たちが多かった。
それに対して、江戸の白いさらしな蕎麦などを好んだ通人たちは、むしろ1番の状態を「喉越しが良い」と感じたはずだ。
だが、江戸がすべて、滑らかな蕎麦ばかりだったわけではない。
『藪蕎麦』の源流であり、江戸時代に一世を風靡した『蔦屋』の蕎麦は、初期の時代、生粉打ちで太めで、打ち方は最も“堅かった”という。そうであるならば、この蕎麦を食べるときの「喉越し」の楽しみ方は、4番になると考えるのが妥当だろう。
『蔦屋』の蕎麦は、その後、時代が下るにつれ、他の江戸の蕎麦屋のような、普通の太さに変わっていったという。江戸の町から4番の楽しみ方は、このようにして消えていったのだ。

蕎麦の好みは、様々だ。
「喉越し」ひとつとってみても、どんな喉越しの蕎麦を好むのか意見が分かれる。太い蕎麦が好きな人も、細くて滑らかな蕎麦が好きな人も、ニコニコしながら難癖を付けて、食べたら結局「美味しかった」でおさまる。そんなことをしながら蕎麦好きは、ますます蕎麦が好きになっていくのである。
蕎麦の魅力の本質は、太くても細くても、あるいは蕎麦掻きの状態でも、さらには蕎麦湯になっても美味しいという万能さ、懐の深さにあるのではないだろうか。

また喉が蕎麦を欲しがる季節がやってきた。たまには、どこかの店で4番の、豊かな田舎蕎麦の香りと、太い蕎麦の喉越しを楽しんでみたいものである。

DSC4454
(写真=出雲のどじょう蕎麦「割子蕎麦」)

中国山地蕎麦工房 ふなつ
島根県松江市外中原町117−6
TEL:0852-22-2361

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