文・写真/馬場吉成
“臭い食べ物”といって思いつくものを挙げてもらうと、かなり上位に名前が出てくる「くさや」。新島や八丈島をはじめとする伊豆諸島の特産品で、名前は知っているが食べた事は無いという方も多いのではないでしょうか。
「くさや」は、何十年、何百年と使い続けられてきた漬け汁「くさや汁」に新鮮なムロアジ、トビウオ、シイラなどの青魚を漬けた後、天日で干して作られます。
実際そのにおいはかなり強烈で、魚河岸でそのにおいから「くさいや」と言われ、それが訛って「くさや」となったという説も有るほどです。
しかし、そのにおいの向こう側に魚の強い旨味があり、噛めば噛むほど発酵した深い味が感じられます。
くさやの歴史は古く、江戸時代には幕府に献上品として納められていた記録が残っています。
実は江戸幕府は、伊豆諸島の島々に対し、米の代用として特産品である塩を年貢として献上することを命じました。急な斜面が多く、稲作や畑に適する土地が少なかったためです。
魚も特産品でしたが、運搬方法に苦労します。塩水に漬けて干物にして江戸まで運搬する方法を思いつくものの、塩は貴重な物で大量には使えません。やむなく、魚を漬ける塩水を減った分だけ足しながら使いまわす事にしました。
出来た干物はにおいが強く傷んでいるようにも思えましたが、食べてみるとおいしい。その後この作り方が広まります。諸説ありますが、くさやはこのようにして生まれたと言われています。
くさやの食べ方としては、焼いて食べるのが一般的です。ただし、焼くときにかなり強烈なにおいが出るので、集合住宅や住宅街で焼くのは避けた方がいいでしょう。
焼いて手ごろなサイズに切られた物が瓶詰や真空パックにされて販売しているので、そちらを買ってくれば手軽に食べられます。
では、くさやを使ったオススメの料理を紹介します。クセの強いにおいを持ったもの同士を合わせ、ハーブで間をとりもつ「くさやのブルーチーズ和え」です。
用意する材料は以下のとおりです。
【「くさやのブルーチーズ和え」材料】
●くさや: 15g程度
●ブルーチーズ: 25g程度(くさやと見た目同じぐらいか少し少ない量)
●イタリアンパセリ、ディル:各大さじ1/2程度(生の物でも可)
まずくさやを細かく刻みます。切る時はまな板の上にクッキングシートを敷いておけばまな板ににおいが移りません。
刻んだくさやとブルーチーズ、ディル、イタリアンパセリをボールに入れます。
よく練って混ぜ合わせます。混ざったらスプーンで形を整え、クラッカー等に盛り付けます。
ブルーチーズの香りがくさやの香りを包み、くさやの香りはあまり感じられなくなります。最後に余韻として感じられる程度。乳製品の旨味の後に魚の強い旨味がやってきます。そして、その二つの旨味をハーブの爽やかさが上手くつなぎ、バランスよく感じられます。
ワインもいいですが、この「くさやのブルーチーズ和え」にはコクのある純米の酒がオススメ。今回合わせたのは山形県長井市の鈴木酒造店長井蔵の『磐城寿 純米原酒 赤ラベル』です。穏やかな米の甘味と共に程よく旨味を感じ、柔らかい酸がくさやのブルーチーズ和えとよく合います。燗酒もよし。
ちなみにこの酒を醸している鈴木酒造店は、かつて福島県浪江町に蔵がありましたが、震災の津波により全て流失してしまいました。その後、資金を借りて、廃業する山形の酒造の設備を買い上げ、試験場に奇跡的に残っていた自家酵母を使い、磐城寿を醸しています。いつかまた、浪江で醸された磐城寿が飲める日が来ることを期待します。
文・写真/馬場吉成
webライター。日本酒、料理、マラソン、