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新蕎麦の味わい方【片山虎之介の「蕎麦屋の歩き方」第14回】

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新蕎麦と聞くと、ぱっと気持ちが明るくなる。淡いうぐいす色の艶やかな麺が目に浮かび、しなやかな食感が舌と喉に、よみがえってくる。
今年も、新蕎麦の季節がやってきた。

今の時期に出てくる新蕎麦は、蕎麦好きの方ならよくご存知の「秋新」だ。秋に収穫される新蕎麦のことで、夏の新蕎麦より風味がしっかり楽しめて、昔から蕎麦好きが首を長くして待った新蕎麦とは、この「秋新」を指す。

蕎麦がおいしいことで知られる、ある名店のご主人と話をしていたとき、こんなことを言われた。

「片山さん、私が修行していた、今から30年くらい前は、新蕎麦の時期になると、色もきれいで香りも立って、うわあっと感動するような蕎麦が出てきたものですが、最近は、ああいう蕎麦に出会うことが、とんとなくなりました。どうしてなのでしょうね」

うーん、どうしてなのでしょうと、お返事するしかないのだが、ほんとうに、どうしてなのだろう。

この蕎麦屋さんが店で使う蕎麦は、信頼のおける農家の方に委託し、「こういう蕎麦が欲しい」という目標を共有して、栽培してもらっている。

長年、そうした関係を続けてきた生産者なので、ご主人の望む蕎麦がどんなものであるかは、重々承知しているのだが、どうしてもご主人が、「うん、これだ」と納得できる蕎麦ができないのだという。

ご主人にとっては不満が残る材料を使って作る蕎麦なのだが、それはすばらしいおいしさで、だからこそ、この店は、遠方からも客が足を運ぶ名店として名を馳せているのだ。

「やっぱり、気候がおかしいせいなのでしょうかね。どこかに、昔のような蕎麦はないものでしょうか?」

ご主人は、当時の蕎麦と、今の蕎麦は、はっきり違うのですと、何度も言った。

新蕎麦については、わからないことがたくさんある。

ソバの実は生き物なので、畑で栽培されている最中も、収穫され、乾燥処理され、保存される段階でも、生物として変化を続けている。だから時間が経つと、香りが変化したり、味や食感が変わってくるのだ。

それは、時間が経つと、すべて悪いほうに変わるということではない。一概には言えないが、良い方に転ぶ要素もある。
だから、それぞれの蕎麦職人の考え方により、新蕎麦を、いつ、どのように麺にするかは様々だ。

今年も、天候は、おかしかった。

産地によっては、全滅に近い被害を被った地域もある。

手塩にかけて育てたソバが、すべて、数時間の豪雨でなぎ倒された生産者の無念さを思うと、胸が詰まる。

私たち、日本蕎麦保存会で栽培しているソバ畑も、収穫量は、通常の3分の1程度しか穫れなかった。

以前は、ただただうれしく食べていた新蕎麦だが、このごろは、うれしさと背中合わせに、不安を覚えることがある。

例年のように異常気象に見舞われ、その程度が年々激しさを増す産地の蕎麦は、来年もまた、食べることができるのだろうかと。

話を終え、供されたご主人の新蕎麦をいただくと、こちらの気持ちが集中したせいか、今年の新蕎麦は、香りも味も、ずいぶん強いような気がする。

気候ばかりでなく、世の中の状況がどんどん変わっていく今の時代、来年の蕎麦は、また違ったものになっているかもしれない。

今年食べる一枚の新蕎麦は、まさに一期一会。

2014年、秋新の味を、おいしく記憶に刻みたい。

文・写真/片山虎之介
世界初の蕎麦専門のWebマガジン『蕎麦Web』(http://sobaweb.com/)編集長。蕎麦好きのカメラマンであり、ライター。伝統食文化研究家。著書に『真打ち登場! 霧下蕎麦』『正統の蕎麦屋』『不老長寿の ダッタン蕎麦』(小学館)、『ダッタン蕎麦百科』(柴田書店)、『蕎麦屋の常識・非常識』(朝日新聞出版)などがある。

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