写真は’23年度版の『シン・コゾノ』(ファーストエディション)で、右が甕貯蔵の黒ラベル。左は4種類の樫樽で貯蔵後にバッティングした銀ラベル。ともに26度1.5L入り。’24年度版セカンドエディションは黒ラベル3300円。銀ラベル3410円(各予価)。

麹、酵母、蒸留、熟成…。可能性に満ちた革新の酒

鹿児島県大崎町にある天星酒造の小薗崇樹さん(37歳)は、芋焼酎のまだ見ぬ地平に挑み続ける研究肌の杜氏 だ。その名を知らしめたのは、’23年に発売された『シン・コゾノ』という2タイプの焼酎。甕貯蔵の黒ラベルと、ウイスキー樽貯蔵の銀ラベルである。

「甕貯蔵はロックに限ると思っていましたが、割らずに40〜45℃の直燗にしてもいいとお客さんが教えてくれました」(小薗さん)

その馥郁(ふくいく)とした第一印象は、これまでのどの芋焼酎にもない味わい。喉越しの余韻も小説や映画の名作さながらに心地がよい。瞬く間に売り切れたところからも評価の程がわかろうというものだ。

『シン・コゾノ』は毎年味が変わる。それは小薗さんが今いちばんやりたい造りを具現化した焼酎だからだ。この11月から販売される’24年度版はどんな特徴なのだろう。

「1年目は伝統寄り。2年目の今回はだいぶ冒険しました。芋はひめあやかと、べにはるかという2品種を同時に併せて仕込んでいます。ひめあやかは掘って3か月。べにはるかは1年寝かせて糖度を最大限に引き出したものです。麹は黒麹の泡盛株と白麹エクセレントを同じ製麹(せいきく)ドラムで育てました。使った酵母はウイスキー酵母です」

これだけではない。小薗さんは黄麹と焼酎酵母でも一次醪を作り、これらを二次醪の段階で合わせている。3種の麹と2種の酵母でひとつの原酒を造っているわけだ。

芋焼酎の醪は粘度が高い。「発酵しだすと桜島の噴火のように対流が始まりますが、仕込みの最初や移動時は櫂(かい)入れが欠かせません」

狙うは協奏効果の面白さ

狙いは協奏効果。黒麹泡盛株はバニラやシナモンの香りを生む。白麹エクセレントは熟成後半年で劇的に酒質が伸びる。黄麹は焼酎に不向きとされてきたが、温度管理さえ慎重にすれば日本酒の吟醸香のような華やかさを出せる。酵母も同様の可能性を秘めている。持ち味を重ね合わせることで、新たな味の音色を作る試みだ。

蒸留にも凝る。半分は常圧蒸留、もう半分は中減圧蒸留で行ない、できたものを混和している。

「常圧と減圧の中間の温度で蒸留できる中減圧蒸留も取り入れることで、最初の香りの印象と余韻とのバランスを整えています」

アイデアは頭の中に無限にある。あれはどうだろう、これも試してみたい。芋焼酎探究者の旅は続く。

蒸留後、高級アルコール類のフーゼル油が浮く。雑味の原因なので柄杓で除去するが(手曳き)、取りすぎるとうま味が消えてしまう。

●天星酒造 電話:099・477・0510

取材・文/鹿熊 勤 撮影/宮地 工

※この記事は『サライ』本誌2024年8月号より転載しました。

『サライ』2024年8月号特集は「本格焼酎は“香り”で味わう」

 

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