出汁は日本料理の根幹をなすもの。きちんと出汁をひき、料理に用いるとおいしさの奥行きが広がり、余計な調味料要らず。煮干しの出汁と椎茸の出汁を料理家の栗原心平さんに教わる。
講師 栗原心平さん(料理家・45歳)
「煮干しと椎茸、それぞれの出汁そのもののおいしさを味わうためのレシピと分量です」
栗原心平さんは幼少期、父親に頼まれて土瓶蒸しをつくるたびに、「何度も作り直しをさせられました。手順通りに出汁をひいたつもりですが、それは旨味が出ていない、お湯のようなものでした」
この失敗をもとに、料理の肝は素材の味わいを出汁に出し切ることと、メインの具材との組み合わせにあることに気がついた。
相乗効果と後追い効果
「出汁そのものの旨さを味わい、飲み干すための吸い物をつくります。煮干しの出汁が持つ、ほのかな甘みと強いコクは、動物性の素材、とくに海老と相性がよい。椎茸の出汁は、穏やかではかない旨味が持ち味。豚肉や魚介に合うので、豚ひき肉をだんごにしたお吸い物を。ひと口吸うと豚だんごの旨味が広がり、淡く滲むように椎茸の旨味が追いかける。椎茸の出汁が素材のおいしさをやさしく底上げしてくれるのです。
煮干しや椎茸に限らず、よい素材を使えば使うほど、旨味と香りが高まるため、出汁がおいしければ少ない塩で味が決まります。塩は味見をしながら少量ずつ加え、自身の好みの塩梅を見つけましょう」
【レシピ1】煮干しの風味で海老の旨味を際立たせる「海老しんじょうのお吸い物」
煮干しの出汁をひく
【材料】(2人分)
水……250ml
煮干し(いりこ)……10g
ひき方
1.鍋に水と煮干しを入れ、3時間以上かけて戻す。すっきりとした味わいが好みなら、煮干しの頭と内臓を外してもよい。
2.煮干しが柔らかくなったら、蓋をして火にかける。沸いたら弱火にして10分ほど煮出す。
海老しんじょうのお吸い物
【材料】(2人分)
出汁……250ml
【A】
むき海老……50g
はんぺん……10g
酒……大さじ1
薄力粉……小さじ1
塩……小さじ6分の1
酒……大さじ2分の1
みりん……大さじ2分の1
塩……小さじ4分の1
薄口醤油……小さじ6分の1
絹さや(茹でたもの)……2枚
つくり方
1.むき海老は背わたがあれば取り除く。フードプロセッサーに【A】を入れ、滑らかになるまで攪拌(かくはん)する。
2.煮干し出汁に酒、みりん、塩を入れ火にかける。しっかりと沸いたら、【1】を四等分にして丸めて加え、蓋をして弱火で1分30秒ほど煮る。
3.【2】の海老しんじょうに火が入ったら、薄口醤油を加えてひと煮立ちさせる。
4.塩を加えて味を調える。器によそい、斜め半分に切った絹さやをのせる。
【レシピ2】椎茸出汁のおいしさを実感できる、豚肉のコク「豚だんごのお吸い物」
椎茸の出汁をひく
【材料】(2人分)
水……250ml
干し椎茸……10g
ひき方
1.ボウルに水と干し椎茸を入れて、3時間以上かけて戻す。
2.椎茸が柔らかくなったら、椎茸を絞ってボウルから取り出す。
豚だんごのお吸い物
【材料】(2人分)
出汁……250ml
戻し終えた椎茸(傘)……10g分
【A】
豚ひき肉……100g
長ねぎ(みじん切り)……15g
酒……大さじ2分の1
塩……小さじ6分の1
片栗粉……小さじ1
酒……大さじ2分の1
みりん……大さじ2分の1
薄口醤油……小さじ6分の1
塩……適宜
白髪ねぎ(※)……適量
※長ねぎの白い部分を長さ5〜6cm幅に切り、繊維に沿って縦に切り込みを入れる。芯を除き、水にさらした薬味のこと。
つくり方
1.出汁をひいた椎茸の石突きを取り除き、半量はみじん切りにする。
2.ボウルに【A】と【1】のみじん切りにした椎茸を入れて、手で粘りが出るまでよく混ぜる。四等分にして丸く成形する。
3.小鍋に出汁と酒、みりんを入れて中火にかける。沸いたら【2】の肉だんごを加え、蓋をして中弱火で8分ほど煮る。
4.【3】に、椎茸の残り(傘の部分)と薄口醤油を加えてひと煮立ちさせる。味を見て、足りなければ塩を適宜加えて調える。
5.器によそい、白髪ねぎをのせる。
※この記事は『サライ』本誌2024年2月号より転載しました。( 取材・文/武内しんじ 撮影/貝塚 隆 )