京都は不思議な街だ。日本料理の源流ともされる京料理を擁し、伝統と格式は揺らぐことはない。しかし、街を歩けば、韓国料理、スペインバル、イタリアン、フレンチ、そしてそれらの融合料理とあらゆるものがありどれも驚くほど美味しい。融通無碍な食への姿勢もまた、底知れぬ古都の懐の一端なのだ。
祇園最大級のカウンター席で味わう和食とイタリアンの融合料理
饗宴|東山区清本町
ずっと行きたかった京都の名店、それも1店ではなく2店同時に、その料理を味わえるとしたら。そんな至福はなかなかない。
令和5年5月に祇園北側に開業した『饗宴』は、予約困難といわれる和食店『富小路やま岸』と紹介制の和イタリアン『やまぐち』の融合料理を味わえる店だ。双方の店主が、お互いの料理や立ち位置に敬意を表して意気投合し、それぞれのレシピを持ち寄ることで、この稀有な店を誕生させた。
夢のような店の料理長を託されたのは、金本大史さん(39歳)。神戸のホテルや京都の老舗料亭で修業を積み、『星のや京都』で海外にも通用する味を身に付け、『ワインと和食みくり』では料理長を務め、20年以上の料理人生を歩んできた。
その料理は、約10品のおまかせコース。先付け2種の後、温前菜、お造り、お椀、焼き物、パスタ、ご飯物、デザートが出る構成だ。『富小路やま岸』の懐石仕立てのお造りやお椀もあれば、『やまぐち』のトマトソースパスタもある。和食とイタリアンが一皿になった料理も組み込まれ、客は両方の味に舌鼓を打つ。それも、月ごとに内容が変わるから、「また来月も」と思わせられるのだ。
お造りとして出される鰹のたたきには、にらのピュレのほか、バルサミコ入り土佐醤油と燻製塩が添えられる。藁焼きの香ばしい鰹に、にらの香りやバルサミコの濃厚な酸味がほどよくからまり、和伊の持ち味と共演力を実感できる。
炊きたてで運ばれる土鍋ご飯は、ときに2種用意されることもある。この日は秋の味覚・きのこと魳(かます)に加え、人気の生姜と万願寺唐辛子のご飯も。どちらも締めの一品とはいえ、ワインにも合うから、またその相性に心が満たされるのだ。
もうひとつ、注目を集めるのが、祇園で最大級といわれるカウンターの長さ。カウンター用にと、20mほどもある大木の一枚板が準備されたが、京都の狭い交差点を曲がり切れず、仕方なく半分に切って搬入されたという。カウンターの前には、1000本以上のワインを保存するセラーを備え、食と酒、両面の超上質を目指す。
饗宴
京都市東山区新橋通大和大路東入清本町2-354
電話:075・532・0428
営業時間:17時30分~21時30分、バータイム21時30分~24時
定休日:日曜、月曜
交通:京阪電鉄祇園四条駅より徒歩約5分、同三条駅より徒歩約7分
※この記事は『サライ』本誌2023年10月号より転載しました。(取材・文/中井シノブ 撮影/伊藤 信)