京都は不思議な街だ。日本料理の源流ともされる京料理を擁し、伝統と格式は揺らぐことはない。しかし、街を歩けば、韓国料理、スペインバル、イタリアン、フレンチ、そしてそれらの融合料理とあらゆるものがありどれも驚くほど美味しい。融通無碍な食への姿勢もまた、底知れぬ古都の懐の一端なのだ。

心と身体に染み入る韓国家庭料理

MUL(ムル)|中京区梅屋町

手前は、キュウリ、牛蒡、人参、玉子、たくあん、カニカマ、ほうれん草、はんぺん入りの「チャンの野菜キンパ」600円。奥は「カムジャタン」1400円。自然派ワイン900円~。

令和4年8月に開業した『MUL(ムル)』は、有機野菜などを用いた韓国料理を味わえる店だ。持ち帰りもできる韓国の巻き寿司キンパの優しくも本格派な味わいは、わずかの間に京都中に広まった。

料理を手がけるチャンさんこと大塚綾乃さんは、祖母から母へと受け継がれた韓国の味を、幼い頃から食べて育った。手作り市でキンパを販売していたところ、その味に感動した店主の齊藤浩文さん(43歳)に、実店舗での営業をすすめられた。

「大塚さんが料理長を引き受けてくれなければ、この店を出すことはなかった」と齊藤さんは話す。
 
1階では自然派ワインを軽く飲み、欧州の骨董家具を配した自然感ある2階席でじっくり料理を味わうなど、その時の気分で使ってほしいという。

「塩などの調味料は極力控えて、昆布やいりこなど出汁の旨味で調味します。それこそが韓国の家庭料理の味なんです」(大塚さん)

ジャガイモとスペアリブを辛味噌で煮込んだカムジャタンや、さつまいもの澱粉麺のチャプチェは、ワインのおともに最適。8種の野菜を具材にしたキンパも含め、心身に響く素直な味に魅せられる。

さつまいもの澱粉の麺と玉ねぎ、人参、パプリカ、ニラ、きくらげ、韓国はんぺんを炒め煮にした「チャプチェ」900円。
料理長の大塚綾乃さん(右)は、幼い頃から祖母や母に料理を学び身に付けた。接客担当の村上容生さん(左)との息の合うもてなしも評判。

MUL(ムル)

店舗1階は流木のオブジェと木のデッキを置いた公園のような安らぎ空間。

京都市中京区梅屋町475-1
電話:070・9050・1212
営業時間:15時~22時(土曜・日曜は11時30分~14時、17時~22時) 
定休日:水曜、不定休あり
交通:阪急電鉄京都河原町駅から徒歩約3分

※この記事は『サライ』本誌2023年10月号より転載しました。(取材・文/中井シノブ 撮影/大道雪代)

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