温泉の熱を利用して栽培。皮の黄色い「アムさんメロン」

阿部工務店●青森県五所川原市

ビニールハウス内で育つアムさんメロン。3月にハウス内に定植し、5月末~6月に収穫する。10棟で約2400個を出荷。
アムさんメロンは完熟すると皮が黄色くなり、出荷。追熟の必要がない。糖度は18度以上あり、青肉でコクのある甘み。
4月に定植したハウス内では、ミツバチにより、ほぼすべての花でしっかりと受粉。交配から10日前後で実を付ける。

林檎の産地として知られる青森県だが、じつはメロンの生産量も全国5位を誇り(※農林水産省作物統計調査による)、その主要生産地は津軽地域だ。

五所川原市にある阿部工務店は、本業である建設業のかたわら、11年前から温泉熱を利用したメロン栽培を始めた。これは自社が保有する温泉施設の廃熱を利用したものだ。その経緯を社長の阿部祐一さん(61歳)は次のように話す。

「温泉の源泉温度が60℃ほどと高く、入浴に適した温度にするため温泉施設の裏手に土地を購入し、温泉配管を引いて温度を下げていました。この廃熱を使って地域の特産品でもあるメロンをビニールハウス内で栽培できないかということで、弘前大学との共同研究により事業を興しました」

初年は源泉をそのまま使い不具合を起こしてしまい、以降は熱交換器を用いてハウス内の暖房に利用、メロン栽培に不慣れだったスタッフも、今では安心してすべてを任せていると話す。

地下500mから湧く温泉の湯を熱源として、熱交換器を用いてハウス内を暖房する。地中熱なので、葉が乾燥しにくいという。

2玉25万円の最高値

阿部さんが栽培する「アムさんメロン」は津軽のオリジナルブランドで、熟すと果皮が黄色くなり、完熟状態で収穫する。すぐに食べられるため地元での消費がほとんどという。露地栽培に先駆けて、6月初めに行なわれるハウス栽培メロンの初競りで、阿部さんのメロンは昨年、2玉5kg、25万円の高値が付いた。温泉熱利用でどこよりも早く生長するだけでなく、栽培方法にも秘密がある。

「実生から育て、接ぎ木をしません。ひと株に1玉か2玉、その分栄養が凝縮されます。ミツバチによる自然交配と低農薬農法、連作障害を防ぐために定期的に土を入れ替えます」(阿部さん)

また阿部さんは、農業はもっと注目されるべきだと話す。若者が参入しやすい環境や新しいビジネスモデルを考えなければいけないと。そこで模索したのが、規格外メロンを使ったメロン酢の商品開発だった。食酢の製造では一般に高温殺菌を用いるが、54℃の低温殺菌でメロンの風味を残した。弘前大学の研究センターや県の技術センターとともに進める産学官連携事業である。甘く美味しいメロン作りとともに農業の六次産業化を目指している。

メロンを使った加工品開発で生まれた「走れメロ酢」1100円。メロンの甘い香りがあり、ドレッシングの素材にお薦め。購入は要問い合わせ。
阿部祐一さん、昭和36年生まれ。昭和58年に会社を設立し、建築・土木・不動産部のほか、日帰り温泉事業など幅広く経営。

阿部工務店

青森県五所川原市字雛田198-1
電話:0173・34・8836
営業時間:9時~17時
定休日:土曜、日曜、祝日
アムさんメロンはほぼすべて弘果弘前中央青果で取引され、周辺のスーパーなどに並ぶ。取り寄せ不可。

取材・文/関屋淳子 撮影/宮地 工
※この記事は『サライ』本誌2022年8月号より転載しました。

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