大衆の食文化となった「焼き鳥」だが、素材や調理法、食し方の謎や疑問は少なくない。じつは奥深き焼き鳥の世界。思わず誰かに話したくなる豆知識の数々をここに紹介したい。

「焼き鳥」と「やきとり」は違う食べ物か

東松山では、鶏肉ではなく豚肉が定番。いわゆる「やきとん」だが、地域によってはこれを「やきとり」と呼ぶ場合もある。

「焼き鳥」と「やきとり」。音は同じだが、微妙に使い分ける専門家も多い。「焼き鳥」と書いた場合は文字通り、鶏肉を串に刺して焼いたものだ。一方、「やきとり」は鶏肉だけとは限らない。

「市内のやきとり店が群を抜いて多く“日本三大やきとり”と呼ばれているのが、東松山(埼玉)、室蘭(北海道)、今治(愛媛)です。東松山は豚の“カシラ肉”をピリ辛の味噌ダレで食べます。室蘭は豚ロース肉の間に玉葱を挟みます。今治は鶏肉ですが、串に刺さず、鉄板で焼いてから蒸し焼き”にします。美唄(北海道)、福島、長門(山口)、久留米(福岡)も“やきとりの町として知られています」(フードジャーナリスト・土田美登世さん)

馬肉や海鮮を串焼きにするところもあれば、長門はガーリックパウダーや一味唐辛子をかける。「焼き鳥」の枠を超え、“ご当地やきとり”が大いに盛り上がっているのだ。

なぜ串に刺して焼いているのか

創業100年の老舗『伊勢廣』の串打ちの様子。微妙に異なる肉の大きさや素材のバランスがほぼ均等になるように気を遣っている。

焼き鳥は串料理として定着しているが、理由もある。

「江戸初期には、野鳥の肉を串に刺して焼く料理方法が誕生していたようですが、中頃になると、豆腐に串を刺して味噌をつけた味噌田楽が、江戸市中で流行します。串に刺さったまま食べる、という食文化がこの頃、定着したのではないでしょうか」(土田さん)

当時の若い女性の様子を描いた浮世草子『世間娘容気(せけんむすめかたぎ)』( 江島其磧、1717年)には、炭火で焼いた田楽を食べる楽しみが綴られている。十返舎一九の滑稽本『東海道中膝栗毛』(1802~09年)でも、道中の名物として味噌田楽が登場する。

「やはり江戸の中頃に、タレをつけた鰻を串に刺し、炭火で焼く蒲焼きが人気となります。鰻を鶏にすれば、そのまま焼き鳥です」

焼きやすく食べやすい。和食の串文化が、焼き鳥に根付いているのである。

「串に刺すことを串打ちといいますが、職人の世界では、“串打ち3年、焼き一生”といい、串打ちは決して簡単な技術ではありません。焼き加減も串打ち次第で変わるほどです」

※この記事は『サライ』本誌2021年4月号より転載しました。年齢・肩書き等は掲載当時のものです。( 取材・文/角山祥道 撮影/宮地 工)

サライ4月号の特集は酒の肴の王様とも言うべき「焼き鳥」を取り上げ、古今東西数々の名店を紹介しています。

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