取材・文/藤田麻希

お寺や展覧会で仏像を間近にしたとき、私たちは「素晴らしい仏像ですね」とか「いいお顔していらっしゃる」と思わずつぶやくことがありませんか。そんな仏像に対する感動は、いったいどこから生まれるのでしょうか。

この壮大な問いに迫る展覧会、“「仏像の姿(かたち)」~微笑(ほほえ)む・飾る・踊る~”が、東京・三井記念美術館で開催されています。

不動明王立像 鎌倉時代 個人蔵

同館の清水眞澄館長はつぎのように企画の趣旨を説明します。

「仏教美術の展覧会といえば、大寺院や運慶や快慶などビッグネームの展覧会、あるいは地域別、時代別のものが多いですが、今回の展覧会は、角度を変えて“仏像とはなにか”という、彫刻の研究者ならずとも誰もが思うことを正攻法に考えて見ようと企画しました。

仏像は、仏師が施主の好みや提案を受けてつくりますが、注文をそのままにつくるわけではありません。諸々の制約の中で、仏像には仏師自身が秘めた“仏はこういう姿をしている”というイメージが反映されているはずです。また、仏教の始祖はインドの人間釈迦ですから、当然のことながら仏像には相応(ふさわ)しい人体表現が具わっていなければなりません。さらに、仏師は彫刻の作家として、立体造形の美、芸術性も追求するでしょう。すなわち、仏像には、仏のイメージ、人体表現、立体造形の美の3つが一体となってその形が存在すると理解できるのです。

この展覧会では、このことを実際の仏像を見ながら理解していただこうと、仏像の「顔」「装飾」「動きとポーズ」を切り口にしています。お出でいただいた方々が、それぞれご自身の感性で、仏師の工夫や技術、独創性、すなわち<仏師がアーティストになる瞬間>を発見していただければと思います」

十一面観音立像 鎌倉時代大阪・四天王寺蔵

仏像の「顔」は、仏としての存在を表す最も重要なところです。如来や菩薩が浮かべる優しい慈悲の表情、仏教の守護神である明王や天部が浮かべる威嚇、怒りの表情などに着目してください。眼や鼻や唇のかたち、眉の角度、頬骨の高さなど……、そのかたち、大きさ、配置によって印象が変わるのがわかります。掲載した大阪・四天王寺の十一面観音立像は、頬に丸みをもたせた、穏やかでやさしそうな顔立ちの像です。

次に「装飾」では、仏像自体の彩色、身につけるアクセサリー、衣のひだに注目して見てみましょう。そして仏像を安置する空間も、仏の福徳が感じられるように、台座や光背が美しく飾られています。

弥勒菩薩立像 鎌倉時代 個人蔵

こちらの弥勒菩薩立像は凝った装身具を身に着けています。特に冠には色とりどりのビーズのような飾り玉がついてゴージャスです。光背は、銅板の透し彫りでできており、6個の円相(当初は水晶を嵌めていたか)がはめ込まれた珍しいものです。衣のひだも、布のやわらかさや軽さがたくみに表現されています。

「動きとポーズ」でいうならば、仏像は西洋の彫刻に比べて動きが少なく、正面性が強いと言われますが、決して動きがないわけではありません。如来や菩薩のような、一見真っ直ぐ立っているように見える像も、ほんのわずかに足を踏み出すと、膝の曲げ方や腰のひねり肩の向きなどが極自然に連動しているのを見ることができます。

重文阿弥陀三尊像のうち両脇侍像 平安時代 大阪・四天王寺蔵

伽藍神立 像鎌倉時代 奈良国立博物館蔵

一方で、目いっぱいの大きな動作が目立つ像もあります。四天王寺阿弥陀三尊像の両脇侍像は、片足を後ろ斜めに蹴り上げ、上半身をひねり、踊っているように見えるユニークな姿です。また、かつて「走り大黒天」と呼ばれ、大黒天が疾走している姿に見立てられた伽藍神像は、禅宗寺院で祀られる道教系の像です。顔を上に向け、両手を大きく振り、走っている姿を、さらに風を受けてひらめく裾や袖、頭巾のような帽子が疾走感を演出しています。いい意味で、既存の仏像の概念を壊してくれるような珍しい像です。

有名な仏師の作ではなくても、仏像それぞれには個性があります。仏師がどこに工夫をこらしたのかを見つけ、さまざまに思いを廻らせると、より楽しめる展覧会です。

【「仏像の姿(かたち)」~微笑(ほほえ)む・飾る・踊る~】
■会期:2018年9月15日(土)〜2018年11月25日(日)
■会場:三井記念美術館
■住所:東京都中央区日本橋室町二丁目1番1号三井本館7階
■電話番号:03-5777-8600(ハロ-ダイヤル)
■公式サイト:http://www.mitsui-museum.jp/index.html
■開館時間:午前10時00分~午後5時00分(入館は4時30分まで)
■休館日:月曜日(ただし10月8日は開館)、10月9日(火)

取材・文/藤田麻希
美術ライター。明治学院大学大学院芸術学専攻修了。『美術手帖』などへの寄稿ほか、『日本美術全集』『超絶技巧!明治工芸の粋』『村上隆のスーパーフラット・コレクション』など展覧会図録や書籍の編集・執筆も担当。

 

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