取材・文/池田充枝
マルセル・デュシャン(1887-1968)は、伝統的な西洋美術の価値観を大きく揺るがし、20世紀の美術に衝撃的な影響を与えた作家です。生涯を通じて「決して繰り返さない」「同じことをしない」よう、常に新しい表現方法を模索し続けました。
デュシャンは、途中から絵画制作を止めて「レディメイド」と呼ばれる、ある機能をもった物品を本来の用途から切り離し芸術作品として「意味づける」活動をしました。
さらには、言葉の実験や、遠近法や視覚に関する研究、企画者として芸術活動に携わるなど、多岐にわたる活動を通して、芸術あるいは芸術家の概念の垣根を打ち破っていきました。
マルセル・デュシャンの芸術と日本美術を比べて考える、という興味深い展覧会が開かれています。(12月9日まで)
東京国立博物館・フィラデルフィア美術館交流企画特別展 マルセル・デュシャンと日本美術 (会場:東京国立博物館)
本展は、第1部「デュシャン 人と作品」で、フィラデルフィア美術館が所蔵するデュシャンの油彩画、レディメイド作品および写真や関係資料など約150点でデュシャンの創作活動の足跡を辿ります。第2部「デュシャンの向こうに日本がみえる。」で、東京国立博物館所蔵の国宝、重要文化財を含む日本美術作品により、西洋美術とは異なった社会環境のなかで生まれた日本美術の意味や価値を問います。
本展の見どころを、東京国立博物館の広報室、鬼頭智美さんにうかがいました。
「フィラデルフィア美術館は、世界随一の質量を誇るマルセル・デュシャンのコレクションを有しており、同館の所蔵品だけで構成する展覧会を海外で開催するのは今回が初めてです。日本での会場はトーハクのみで、その後ソウル、シドニーに巡回します。
全体は4章構成となっており、第1章「画家としてのデュシャン」では、彼が初めて描いた油彩画から、彼が注目されることになった出世作《階段を降りる裸体 No. 2》までの絵画作品をご覧いただきます。
次の第2章では、彼の代名詞ともいえるレディメイド作品でも最もよく知られている《泉》の最初のレプリカや、彼が8年かけて取り組んだ最も重要な作品の一つ《彼女の独身者たちによって裸にされた花嫁、さえも》(通称《大ガラス》)を、日本で作られた公認の複製である東京版(瀧口修造、東野芳明監修、東京大学駒場博物館蔵)をお借りして展示、紹介します。
第3章では、ローズ・セラヴィとしての制作物や視角効果の研究により生まれた《ロトレリーフ》などの作品、そして最後の第4章では、彼が晩年の20年を費やして秘密裏に制作していた《遺作》を今回のために制作した映像で紹介し、各章でデュシャンの主な作品を通じて彼の生涯の芸術活動を通覧することができます。
作品だけでなく、アーカイヴから貴重な写真や書簡類も展示し、展覧会をぐるりとまわるとデュシャンという人とその芸術の全体像に触れることができる大変貴重な機会です。
デュシャンの創作活動を辿り、頭の中をのぞいた後は、第2部の日本美術の世界へ。写楽のリアリスム、日本の絵巻の時間表現など日本美術の核心を紹介します。現代では西洋美術を鑑賞するのと同じようにみている日本美術を、デュシャンの発想・創作の軌跡を頭に置いてみると、新たな見方が鑑賞者それぞれに生まれるのではないか、という試みです。ぜひこの展覧会で、アートを考えて、楽しんでいただきたいと思います。」
芸術の秋に「考える美術」!! ひと味違った展覧会を、ぜひ会場でご体験ください。
【開催要項】
東京国立博物館・フィラデルフィア美術館交流企画特別展「マルセル・デュシャンと日本美術」
会期:2018年10月2日(火)~12月9日(日)
会場:東京国立博物館 平成館
住所:東京都台東区上野公園13-9
電話番号:03・5777・8600(ハローダイヤル)
展覧会公式サイト:http://www.duchamp2018.jp/
開館時間:9時30分から17時まで、金・土曜日、10月31日(水)、11月1日(木)は21時まで(入館は閉館30分前まで)
休館日:月曜日(ただし10月8日は開館)、10月9日(火)
取材・文/池田充枝