取材・文/藤田麻希

国宝 十便宜図のうち 池大雅筆 公益財団法人川端康成記念會(4月24日~30日展示)

18世紀の京都で活躍した池大雅(いけのたいが/1723~76)は、南画(なんが)の大成者として知られています。

南画とは、中国の絵画のジャンルの一つである南宗画の略称。18世紀頃、狩野派が衰退しつつあった日本で、新しい絵画のジャンルとして中国の南宗画に対する関心が高まり、そのスタイルを吸収しながら、日本独自の絵画様式に発展させた「南画」のジャンルが築かれました。柔らかい線や点を重ねることが特徴で、世俗を離れて山奥や田園で暮らす文人など、ほっとするような世界が描かれます。

まずは、大雅の驚くべき技を見ていきましょう。

柳渓渡渉図 池大雅筆 千葉市美術館(通期展示)

こちらの「柳渓渡渉図」は、一見、何の変哲もない山水画のようですが、じつは、筆ではなく指や爪に直接墨を付けて描かれています。中国から伝わった「指墨画」というジャンルの作品です。とても指で描いたとは思えないほど、細かく描きこまれていますが、木の葉を表す点描などに、指ならではのふわっとした筆致がうかがえます。大雅は、江戸を訪れたとき、客の前で指墨画を描くところを披露し、大変な評判を博したそうです。今で言うところの、パフォーマンスアートもお手の物でした。

また、大雅は旅と登山が大好きでした。26歳のときに、江戸を経て、東北方面に行って塩竈や松島を訪れ、その景色に感銘を受けました。富士山に少なくとも3回は登っていますし、立山や白山も踏破。北陸や伊勢、出雲も旅しました。そんな旅の経験があったため、大雅は風景を描くときに、それが実在する場所であっても、そうでなかったとしても、現実感の豊かなものにすることができたのです。

三岳紀行図屏風(部分) 池大雅筆 京都国立博物館(通期展示)

「三岳紀行図屏風」には、浅間山をはじめ、旅で訪れた際に描いたスケッチが貼り付けられています。これをもとにして本画になった例もあり、大雅の研究の程がうかがえます。

もう一つの大雅の作品の特徴に、鮮やかでみずみずしい色彩が挙げられますが、ここにも秘密が隠されています。大雅は天気の良い日には、外に出て庭の白い砂地の上で絵を描きました。そのため、独特の鮮やかな発色の色が画面に登場したのです。屋外制作といえば、印象派を思い浮かべますが、それに先立つこと100年前の日本で大雅が実践していたとは、興味深いですね。

重要文化財 瀟湘勝概図屏風 池大雅筆(通期展示)

さて、現在、そんな池大雅の85年振りとなる、大規模回顧展《池大雅 天衣無縫の旅の画家》が、京都国立博物館で開催されています(~2018年5月20日まで)。同館研究員の福士雄也さんは、次のように展覧会について述べます。

「今では、大雅という名前を知っていたとしても、その作品を頭に思い浮かべられる方は少ないのではないかと想像しています。若冲や応挙が人気を博し、最近は、文人画や南画は冬の時代といいますか、全般的に人気があるとは言えません。しかし、だからこそ南画の魅力を伝えたいと思い、今回の展覧会を計画しました。中国の新しいスタイルを元になしながら生まれた、日本ならではの南画の魅力をぜひ味わっていただきたいと思います」

大雅は弟子も多く、後の時代の画家に与えた影響力も大きな重要な画家です。作品をまとめて見られる、またとない機会になっています。

【開催概要】
『池大雅 天衣無縫の旅の画家』

会期:2018年4月7日(土)~ 5月20日(日)
会場:京都国立博物館 平成知新館
京都市東山区茶屋町527
電話:075-525-2473(テレホンサービス)
http://www.kyohaku.go.jp/jp/
開館時間:午前9時30分から午後6時まで(入館は午後5時30分まで)
※ただし会期中の毎週金・土曜日は午後8時まで(入館は午後7時30分まで)
休館日:月曜
※ただし4月30日(月・休)は開館、翌5月1日(火)は休館

取材・文/藤田麻希
美術ライター。明治学院大学大学院芸術学専攻修了。『美術手帖』などへの寄稿ほか、『日本美術全集』『超絶技巧!明治工芸の粋』『村上隆のスーパーフラット・コレクション』など展覧会図録や書籍の編集・執筆も担当。

※記事中の画像写真の無断転載を禁じます。

 

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