取材・文/藤田麻希

禅宗の始祖、達磨がダイナミックに描かれたこの《達磨図》。一般的な達磨図に比べ、画面を占める頭部の割合が大きく、ギロリと大きな目玉で観る者に迫ってきます。

静岡県指定文化財 白隠慧鶴≪達磨図≫明和4(1767)年 清見寺蔵

左端に書かれた「直指人心見性成仏(じきしにんしん・けんしょうじょうぶつ)」という語は、「みずからの心を直視し、本来の自分に備わっている仏性に目覚めなさい」という意味の、禅の根本となる教えです。

この絵を描いた白隠慧鶴(はくいん・えかく、1685~1768)は、絵師ではなく禅僧です。禅が衰退していた江戸時代中期に臨済宗を立て直し、「五百年間出」(500年に一人)の名僧と称えられました。

現在も臨済宗の僧侶は、白隠が記した『槐安国語』をテキストにし、白隠がつくった「白隠禅師坐禅和讃」を唱えています。白隠の弟子筋とも言えるでしょう。

静岡県指定文化財 白隠慧鶴筆 東嶺圓慈賛≪白隠自画像≫松蔭寺蔵

貞享2年(1685)に駿河国駿東郡原宿(現・静岡県沼津市原)の裕福な問屋(流通取次業)に生まれた白隠は、幼少期に母と出かけた近所の寺で地獄についての講義を聞いて恐れおののき、それをきっかけに15歳で原の松蔭寺で出家。諸国を行脚し、32歳で松蔭寺に戻って住職となり、42歳で悟りを開きました。

禅僧としての白隠の名声は高まり、68歳のときには臨済宗の大本山妙心寺に登って講演するまでになりました。そして後半生は、民衆を教化することに生涯を捧げました。

静岡県指定文化財 白隠慧鶴≪蛤蜊観音図≫禅叢寺蔵

白隠にとって書画は、禅の精神をわかりやすく伝えるための手段でした。初期作として30代の作品も残っていますが、60代後半からますます筆をふるい、新しい絵画表現に取り組み、84歳で亡くなるまでのあいだに1万点以上ともいわれる膨大な数の書画を描き、人々に与えました。

画題は、達磨などの高僧、釈迦や観音、布袋などの七福神や、コミカルな戯画など、多岐に渡っています。独学による前例のない様式は、一度見たら忘れられない唯一無二の存在感を放ちます。

白隠慧鶴≪お坊坐禅≫高林寺蔵

そんな白隠が没してから250年にあたる今年、白隠の故郷静岡にある静岡市美術館で展覧会「白隠禅師250年遠諱記念展 駿河の白隠さん」が開催されています。同館学芸員の吉田恵理さんに同展について伺いました。

「本展は、静岡の寺院や在家居士のもとに大切に残された作品、さらにかつて静岡にあった書画も里帰りする、地元静岡ならではの展覧会です。

私は、最晩年の姿を現した等身大の木像の前に立つと、今にも「喝!」が飛んできそうな気がして、震え上がりそうになります。白隠の自画像を見ても、まるで怒られているような何か強い力を感じます。特に80代の書画には、私たちを叱咤激励しているような不思議な力があるように思います。白隠がどんな人なのか、その作品がどんなものか、ぜひ皆さんの目で確かめに来ていただければ幸いです」

全国の寺院や個人が所蔵する白隠の書画135件が、一堂に会す貴重な機会です。ぜひ足をお運びください。

【展覧会情報】
『白隠禅師250年遠諱記念展 駿河の白隠さん』
■会期:2018 年2月10日(土)~3月25日(日)
■会場:静岡市美術館
■住所:静岡県静岡市葵区紺屋町17-1葵タワー3階
■電話番号:054-273-1515(代表)
■公式サイト:http://shizubi.jp/exhibition/future_180210.php
■開室時間:10時~19時(入場は閉館の30分前まで)
■休館日:月曜

取材・文/藤田麻希
美術ライター。明治学院大学大学院芸術学専攻修了。『美術手帖』などへの寄稿ほか、『日本美術全集』『超絶技巧!明治工芸の粋』『村上隆のスーパーフラット・コレクション』など展覧会図録や書籍の編集・執筆も担当。

※記事中の画像写真の無断転載を禁じます。

 

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