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メンバーのマネジメントをする中で、「あのとき、どう言えばよかったんだろう?」「もっといい接し方はなかったんだろうか?」「やっぱり、こう言えばよかった」「こういう接し方があったかも」と悔やむ時も少なくないのでは。

正解はないのかもしれませんが、マネジメントの悩みのほとんどは、メンバーとのコミュケーションが原因といえます。しかし、次にメンバーとのコミュニケーションに正解はあるのか? という新たな問いが生じます。

リクルートとプルデンシャル生命にて営業とマネジメントを経験し、現在は営業コンサルタントとして多くの営業パーソンやマネジャー、リーダー層に対して、チームづくりのサポートを行っている川村和義さんの最新刊『コミュニケーションを変えればチームが変わる(CCCメディアハウス)』は、「新任マネージャー編」「中堅マネージャー編」「ベテランマネージャー編」の章で構成され、それぞれのマネージャーが陥りやすい悩みを改善へと導きます。今回は、サライ世代向けに「ベテランマネージャー編」の一部をご紹介します。川村さんとマネジャーの対話から自身を重ね合わせてみてください。きっと新たな気づきがあるはずです。

(以下、編集部にて1話完結に編集)

「メンバーを守ることこそが私の務めです」
~それでメンバーの何が守られるんですか?

[森田マネジャー(37歳)]
マネジャー歴7年投資用不動産会社の営業マネジャーとして、12名のメンバーを持つ。メンバー時代には、親分肌で豪快な上司のもとで、ときにパワハラとも感じるマネジメントを受けてきた。その上司を反面教師とし、つねに穏やか、メンバー思いでありたいと心がけている。チームは社内トップの業績を上げ続けていて、自分のマネジメントに、とくに疑問は感じていない。

*  *  *

川村 メンバーのマネジメントで、森田さんがもっとも大切にしていることって、なんですか?
森田 大切にしていることはいろいろありますけど、一つに絞るとしたら、なにがあろうとメンバーを支えることですかね。
川村 なにがあろうとメンバーを支えるって、どういうことですか?
森田 まあ、メンバーが困っているときに、一人にさせないってことです。
川村 その一人にさせないっていうのは、どういうことですか?
森田 一言でいえば、メンバーを守るってことですかね。
川村 守る? あれ、ますますよくわからなくなってきました。ところで、そのメンバーを守るって、どういうことですか?
森田 守るは、守るですよ。それ以上の意味なんてないじゃないですか?
川村 いやいや、守るって言葉の意味はわかってますよ。メンバーを守るために、具体的にどんな行動をとられているんですか?
森田 まあ、いろいろありますけど。お客さんの年収の問題でローンを組むのが難しそうなときに、なじみの銀行の支店長に無理を聞いてもらうとか。社内の他のチームのメンバーとお客さんがバッティングしたときに、そっちのマネジャーとうまく話をつけるとか。めったにありませんけど、クレームが入ったときには、メンバーの盾になってお客さんと向き合うとか。まだ他にもいろいろありますけど。
川村 なるほど。それが森田さんの考える、「メンバーを守る」ということなんですね。
森田 まあ、そういうことです。
川村 ……。そうですか……。
森田 えっ、なにか私、間違っていますか?
川村 いえ、いま森田さんが言ったような、銀行との交渉も、社内調整も、クレーム処理の同行も、僕は一度もやったことがないので。
森田 一度もない?
川村 はい、一度もありません。

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森田 川村さんのいた業界は我々とは違いますから銀行との交渉はないにしても、社内でのバッティングや、クレームはありましたよね?
川村 確か、何度かあった気がします。
森田 じゃあ、困っているメンバーが目の前にいるのに、マネジャーとして、なにもしなかったということですか?
川村 いえいえ、なにもしなかったというわけではありませんよ。ただ、森田さんのように、マネジャー自ら動くことはいっさいしなかったです。
森田 ……。
川村 ところで、そもそも森田さんが、メンバーを守る目的って、なんなのですか?
森田 それはもちろん、メンバーが自立するまで支えるのが私の仕事ですから。それこそが守るっていうことです。
川村 ああ、メンバーの自立が、最終ゴールなんですね。それは良かったです。僕とまったく同じですから。
森田 そこがわかっていただけるなら、私もちょっとホッとしました。
川村 いえいえ、ホッとするのはまだ早いような気がしますけど……。で、森田さんがやっている行動は、メンバーの自立のためになっているのですか?
森田 そりゃ、メンバーが自立して力をつけるまで、路頭に迷わせないよう手取り足取り支えるのは当たり前でしょ。
川村 はい。安心してください。森田さんのメンバーに対する愛情は十分に伝わっていますよ。ただ、僕が聞きたいのは、あなたの行動が、メンバーの自立というゴールに早く辿り着けることにつながっているのかどうか、ということです。
森田 だから、路頭に迷わせないように。
川村 ……。確かに、路頭に迷わせて、つぶれちゃったら困りますけど。ときに迷子になったり、公園のベンチで一人ポツンと佇んだり、泥まみれになってあちこちを擦りむいて帰ってきたほうが、メンバーってたくましくなりませんかね。
森田 川村さんは僕のことを、メンバーに対して過保護になりすぎていると?
川村 そうなりますね。マネジャーが本当に考えないといけないことは、銀行のローンが通らない案件を持ってくるメンバーに対して、それがスムーズに通るマーケットにどう導いてあげるか。お客さんからクレームが出ない人間関係を築く力をいかに付けてあげるか。社内でバッティングがあったときに、一つや二つ譲れる余裕をどうつくってあげられるか。そうなるように指導していくことが、マネジャーの仕事だと思っています。森田さんはどう感じますか?
森田 ……。確かに、おっしゃる通りです。ただ、川村さん、社内調整や銀行の話はともかくとして、お客さんから猛クレームが入ったときにも、メンバーと一緒にお詫びに行かなかったということですか?
川村 はい、一度も行ったことはありません。
森田 えっ? マネジャーとして、なにもしなかったんですか?
川村 まあ、なにもしなかったという言い方もできますけど、メンバーとじっくり話はしましたよ。まずは状況を正確に聞いて、たとえば森田さんがそのメンバーとするなら、「それで、森田はこの状況をどうしたいの?」「森田がお客さんの立場だったら、なにをやってほしいと思う?」「どうやったら、問題解決できると思う?」と尋ねるんです。メンバーは普通、どう答えると思います?
森田 「とにかく徹底的に謝るしかないと思います」じゃないですか。
川村 すると、「だよね、他にできそうなことはある?」って、また尋ねて、メンバー本人に解決策を考えてもらう。あとは、「わかった。その方向で、精一杯全力でやってみてよ」と言って、「あ、切腹最中の手土産も忘れずにな」と、一言添えますかね。ハハハ。
森田 ……。
川村 僕のやり方、なにか間違ってますかね?
森田 メンバー本人に考えさせるというのは、確かに大切だとは感じます。ただ、「とにかく上司を連れてこい! 責任者を出せ!」って言うお客様もいますよね。それでも川村さんは同行しなかったということですか?
川村 はい。
森田 それじゃ、お客様だって納得しませんよね。メンバーがポツンと一人で行って、どうなるっていうんですか?
川村 いやいや森田さん、クレームの内容にもよりますけど、たいていのお客様は、一旦上げた拳を下ろせなくなっているだけなんですよ。そこに、たかがマネジャークラスの人間が行って収まるなら、そもそもたいしたクレームなんかじゃないんです。だから、営業マン一人が行って、誠心誠意、思いっきり頭を下げて、今後の対応策さえしっかりしていれば、責任者なんて連れていかなくても、たいていのお客様は理解を示してくれるはずですけど。
森田 ……。
川村 だって、本当の責任者なんて社長しかいないんですから。
森田 確かに……。
川村 どうでしょうね。森田さんがクレーム対応に同行して、メンバーの盾となって問題解決するのと、メンバーが自分一人で考え抜いて、自ら矢面に立って解決してくるのと、どちらがメンバーの成長につながると思いますか?
森田 それは、メンバー一人にやらせたほうが……。
川村 ですよね。僕がなんのためにそうしてきたか、森田さんはもうおわかりですよね?
森田 誰にも頼らずに、独り立ちできるように。つまり、メンバーを自立させるためだと。
川村 はい。メンバー全員を自立させること、それこそが僕のもっとも大切な務めでしたし、森田さんの言葉を借りれば、守るということになるかもしれませんね。
森田 ……。私のやっていたことが、メンバーの自立を遅らせるだけで、守ることになどなっていなかったとは……。

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川村 ところで、本当に森田さんが守りたかったものって、いったいなんだったんでしょうね?
森田 ……。
川村 僕が感じていることを言ってもいいですか。
森田 は、はい……。
川村 これまで数多くのマネジャーを見てきましたけど、メンバーを守るというよりも、自分を守るために行動しているという人が少なくないんです。
森田 メンバーではなく、自分を守る……?
川村 はい。メンバーからすると、あれもこれもしてくれる、いいマネジャーに見えますよね。ただ、それ自体が目的になっちゃってる。
森田 いいマネジャーに見られたいと。
川村 はい。それで自分の立場を守ろうとする。
森田 ……。
川村 僕は、いいマネジャーに見られたいなんて思ったことは、一度もありません。ただ、いいマネジャーではいたかった。だからこそ、ときにメンバーから嫌われても、親身になってくれないと思われても、ほったらかしだと言われても、メンバーの自立につながる行動だけを選んでいました。
森田 たとえ嫌われても、メンバーの自立につながる道を選ぶと……。
川村 はい。
森田 ……。私も、いいマネジャーでいたいです。
川村 もちろん。森田さんがいいマネジャーになるためなら、僕は嫌われてもお付き合いしますよ。

社内調整やクレーム同行などは、メンバーを守っていることにはならない。過保護にせず、自ら解決させることで、メンバーが自立する。

*  *  *

コミュニケーションを変えればチームが変わる
3人のマネジャーとの対話から探り出す「メンバーの正解」とは?

著/川村和義
CCCメディアハウス 1,760円(税込)

川村和義(かわむら・かずよし)
株式会社オールイズウェル代表取締役社長。
1963年大阪生まれ。立命館大学経営学部卒業後、株式会社リクルート入社。求人広告営業としてトップセールスとなった後、川崎営業所を事業部No.1へと導く。94年プルデンシャル生命保険株式会社入社。ライフプランナーとして活躍した後、営業所長として2001年に年間営業成績でトップを獲得。2008年、2009年、支社部門でも2連覇。本部長を経て、執行役員常務。社内初のティーチングフェロー(学び・教育の専門職)となり、オンライントレーニングを使った教育の仕組みをゼロから構築。2015年株式会社オールイズウェルを設立し、現職。「夢と勇気と笑いと感動あふれる組織づくり」を支援するため、営業コンサルティング、リーダー研修、セミナーなどの活動を行う。著書に『ラーメンを気持ちよく食べていたらトップセールスになれた』(WAVE出版)がある。

 

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