謙虚さとは「学ぶ姿勢を持ち続けること」【 コミュニケーションを変えればチームが変わる】

メンバーのマネジメントをする中で、「あのとき、どう言えばよかったんだろう？」「もっといい接し方はなかったんだろうか？」「やっぱり、こう言えばよかった」「こういう接し方があったかも」と悔やむ時も少なくないのでは。

正解はないのかもしれませんが、マネジメントの悩みのほとんどは、メンバーとのコミュケーションが原因といえます。しかし、次にメンバーとのコミュニケーションに正解はあるのか？　という新たな問いが生じます。

リクルートとプルデンシャル生命にて営業とマネジメントを経験し、現在は営業コンサルタントとして多くの営業パーソンやマネジャー、リーダー層に対して、チームづくりのサポートを行っている川村和義さんの最新刊『コミュニケーションを変えればチームが変わる（CCCメディアハウス）』は、「新任マネジャー編」「中堅マネジャー編」「ベテランマネジャー編」の章で構成され、それぞれのマネジャーが陥りやすい悩みを改善へと導きます。今回は、サライ世代向けに「ベテランマネジャー編」の一部をご紹介します。川村さんとマネジャーの対話から自身を重ね合わせてみてください。きっと新たな気づきがあるはずです。

（以下、編集部にて１話完結に編集）

「マネジャーとして謙虚でありたい」
～その謙虚とはいったいなんですか？

［森田マネジャー（37歳）］
マネジャー歴７年投資用不動産会社の営業マネジャーとして、12名のメンバーを持つ。メンバー時代には、親分肌で豪快な上司のもとで、ときにパワハラとも感じるマネジメントを受けてきた。その上司を反面教師とし、つねに穏やか、メンバー思いでありたいと心がけている。チームは社内トップの業績を上げ続けていて、自分のマネジメントに、とくに疑問は感じていない。

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川村　社内には現在マネジャーが10人いらっしゃるようですね。トップマネジャーである森田さんが、他の９人のお手本となるような、ロールモデルになろうと考えたことはありませんか？
森田　はあ？　ちょっと待ってください。私はそんなタイプではありませんし、そんな立場にもありませんから。
川村　タイプ？　立場？　それって、どういうことでしょう？
森田　ですから、一介のマネジャーにすぎないってことです。
川村　一介のマネジャーだと、ロールモデルにはなれないということですか？
森田　そうは言いませんけど、とにかく私がロールモデルにならなくても、きっと社長が誰かを指名して、その役を務めさせてくれますから。
川村　指名されたら、やるってことですか？
森田　まあ、そうかもしれませんが。
川村　自ら出すぎたマネはしたくないということですね。
森田　まあ、できれば謙虚でありたいと思っていますから。
川村　えっ、そういうのって謙虚って言うんですか？
森田　……。私なりには、そう思っていますけど。
川村　ちなみに、森田さんのイメージする謙虚な人って、どんな人なんですか？
森田　それは……、どちらかといえば控えめで……出しゃばらずに……自己主張もあまりせず、おとなしいイメージじゃないですか。
川村　森田さんはそういうタイプだということですね。
森田　まあ、そうだと思いますけど。川村さんとは違うタイプですから。
川村　それは、もしかして僕が、謙虚じゃないということですかね。よく言われます。ハハハ。

川村　先ほど、自分はそんなタイプとか立場じゃないとおっしゃいましたよね。じゃあ、ここで森田さんに一つ質問があるんですが、たまたま乗り合わせた電車の中で、お年寄りの男性が突然、バターンと床に倒れたとしましょう。森田さんは、とっさになにか行動をとりますか？
森田　いや、あまりにも突然の質問で、その場の様子によりますし、実際に立ち合ってみないと……。
川村　ですよね。とっさにはなかなか動けないですよね。でも、その方がかなり苦しんでいたらどうします？　冷静な行動をとるのは難しいと思いますが、「なんとかしなきゃ」という気持ちにはなりますよね。
森田　ええ。もちろん、気持ちはそうです。
川村　もし僕がその場にいても、森田さんと同じ心境だと思うんです。でも、そのときにたまたま、こういう人が現れたとしたら、どうでしょう？　「大丈夫ですかーっ!?」と駆け寄って、倒れた男性に大きな声でコミュニケーションをとって、「すみませーん！　お医者さんか看護師の方はいらっしゃいませんか！」と大声で周囲を見ながら声をかけて、「次の駅で降ろしますから、どなたか救急車を呼んでもらえませんか！」「どなたか私と一緒に肩を貸してくださる人はいませんか！」と呼びかける。そんなふうに、一瞬のうちにその場を仕切るような人がいたとしたら、どう感じますか？
森田　すごいと思います。
川村　ですよね。僕も同感です。自分にもそこまでのことをできる力があるとは思えませんが。
森田　私にも、できるとは……。
川村　で、森田さんにお聞きしたいんですけど、この人って、たまたま困っている人を放っておけないタイプだったり、たまたま普段の仕事もレスキュー隊員という立場だったりすると思いますか？
森田　……。まあ、そんなことはないと思います。
川村　ですよね。きっと、タイプとか立場とか、まったく関係なしに動いていますよね。
森田　ええ……。
川村　大事なことをもう一つお聞きしますけど、この人って、誰かに「ああしろ、こうしろ」と言われて動いたんですかね？
森田　いえ……。自らの意思でやっています。
川村　ですよね。この人は自ら、お年寄りの男性が倒れたっていう問題を自分事として捉え、当事者意識を持ち、勝手に責任感や危機感を感じていますよね。
森田　はい……。
川村　そして同時に、緊張感やプレッシャーの中で、自ら手を挙げ、目の前の問題を解決すべく、周りの人を動かしていったと思うんです。
森田　確かに……。すごいリーダーシップですね。
川村　はい。森田さん、気付いてくれましたね。僕はこういう人こそ、リーダーシップがある人だと思うんです。本来のリーダーシップというのは、「あなた、リーダーシップを発揮しなさい」と他人から言われて発揮するものじゃありません。自らの意志で、発揮するものなんです。
森田　……。
川村　ちなみに、この人って、森田さんの言う謙虚な人のイメージではないですよね。出しゃばって、勝手にまわりの人へ指示を出してますから。
森田　まあ、一般的には謙虚とは言えないかもしれませんが……。
川村　じゃあ、こういう人は謙虚じゃないと、否定しますか？
森田　いえいえ、滅相もない。こういう、いざというときに二の足を踏むような謙虚さなら、私はそんなものいりません。
川村　いいですね、森田さん。カッコよく決めましたね。人助けができたり、人の役に立てたりするのなら、つまらない謙虚さなんていらないと。
森田　はい、そこは共感します。
川村　森田さん、やっと謙虚な人になってくれましたね。
森田　はぁ？　どういうことですか？
川村　謙虚な人というのは、ただ慎ましくしているとか、出しゃばらないとかではなくて、学ぶ姿勢のある人なんです。
森田　謙虚な人＝学ぶ姿勢のある人……。
川村　そういう意味では、誰がなんと言おうと、僕も自分としては、謙虚であるつもりなんですけどね。ハハハ。
森田　……。

謙虚さとは、「出しゃばらないこと」ではなく、「学ぶ姿勢を持ち続けること」である。

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コミュニケーションを変えればチームが変わる
３人のマネジャーとの対話から探り出す「メンバーの正解」とは？
著／川村和義
CCCメディアハウス　1,760円（税込）

川村和義（かわむら・かずよし）
株式会社オールイズウェル代表取締役社長。
1963年大阪生まれ。立命館大学経営学部卒業後、株式会社リクルート入社。求人広告営業としてトップセールスとなった後、川崎営業所を事業部No.1へと導く。94年プルデンシャル生命保険株式会社入社。ライフプランナーとして活躍した後、営業所長として2001年に年間営業成績でトップを獲得。2008年、2009年、支社部門でも２連覇。本部長を経て、執行役員常務。社内初のティーチングフェロー（学び・教育の専門職）となり、オンライントレーニングを使った教育の仕組みをゼロから構築。2015年株式会社オールイズウェルを設立し、現職。「夢と勇気と笑いと感動あふれる組織づくり」を支援するため、営業コンサルティング、リーダー研修、セミナーなどの活動を行う。著書に『ラーメンを気持ちよく食べていたらトップセールスになれた』（WAVE出版）がある。