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空前の人手不足が続く中、企業が“できる人財”を採用することは困難な状況になっています。そこで、日本マクドナルドの「ハンバーガー大学」で学長や、「ユニクロ大学」部長を務めた 有本 均氏の著書『全員を戦力にする人財育成術 離職を防ぎ、成長をうながす「仕組み」を作る』から、採用した人をできる人財に育てる方法を紹介します。

文 /有本 均

人間力を高めることが人財育成の基本

「お前の飯のタネは、人を育てることだ」。店長になったときに言われた一言です。

マクドナルドの人財教育の根本は、「人間力を高めること」にあります。調理技術や店舗オペレーション能力が重要であることは言うまでもありません。しかし、それらの根本にあるのは、人間力である、というのです。当時の企業としては画期的な考え方ではないかと思います。オペレーションは、教えればできるようになります。

しかし、人が体現する接客をはじめとするサービスは、まさに人間力そのものがモノを言います。持って生まれた個性というものもあり、人間力はそう簡単には涵養(かんよう)できないものです。しかし、前述のように、この人間力でさえ、教育と評価を仕組みにすることで向上が可能なのです。

現場の教育はゴールを明確に

日本企業のマネージャーが人を育てるのが下手なのは、会社が育成のゴールを明確に決めていないことがあると思います。リーダーが部下を教えるといっても、どういう状態にするかは、人によって違うでしょう。そこには大きな個人差があります。苦手な人は永久に苦手、というものかもしれません。

現場の教育は、ゴールが明確です。「いつまでに、これができるようになってほしい」という要求が明確だから、教える側も教えやすい。私が在籍していた当時の日本マクドナルドの場合、アルバイトであれば、30時間という教育の区切りがあって、その間に何と何ができるようになるか、というゴールがありました。

期間で言うと、1週間から10日です。その後も、期間は決められていませんが、ランクがあり、それぞれクリアするべき基準があります。それぞれ基準があるので、教える側はわかりやすいのです。

そのように、社員もアルバイトも、新人教育が終わった後の教育がしっかりしています。現場では、気がついたときに気がついた人が教える、ということもあります。営業時間内でも、教えることは負担にはなりません。教えることに慣れているからです。

ゴール設定とサポートを仕組み化せよ

そのような教える文化がない企業でも、決して難しく考える必要はありません。ステップ1として「どうなってほしいか」「どういうことができるようになってほしいか」、それをまず会社で決めることです。

と言うのは、人財育成にはゴールが必要だからです。正社員でもアルバイトでも入社(あるいは入店)からステップごとのゴール設定を決め、周囲がそれをサポートしていくというように、仕組み化することが必要です。

誰に対して、どのように教育するかは、会社の考え方と方針によって違いがあるでしょう。しかし、人を選べない時代だからこそ、限られたメンバー全体の底上げを図ることが大事です。つまり「選抜型教育」ではなく、誰もができなければならないことを身につける「義務教育」が大事ですし、その重要性はこれから増していきます。人不足の時代に、基準より低い人を入れ替える、という選択はないのですから。

サービス業を例にとれば、義務教育とはつまり、「身だしなみ」「挨拶」「言葉遣い」から始まる、最低限、身につけなければならないことです。これらの水準が低い人たちは、お客様に迷惑をかけているかもしれない人たち、とも言えます。だからこそ、なんとか彼らを上に持っていかないと、長期的な業績に影響していきます。

教えたことを実践してもらうよう要求する

ゴール設定と同時に、「要求する」ことも、育成のカギとなります。つまり、教えたことをちゃんと実践してもらう、ということです。これについてはグローイング・サイクルの説明をする中で再度、述べますが、この「要求する」ことがしっかりとできていない企業は少なくありません。「要求しない」ということは、「教えても、やりっぱなし」ということです。

研修やOJTなどを通して一通りのことを教えたとしても、やりっぱなしでは身につきません。「いや、それについては教えましたよ」と言って済ませていてはダメなのです。きちんと要求しないし、しかも評価という見返りもない、だからやらない、という連鎖から逃れることができません。やってくれるように要求し、やったら評価する。そうすれば、誰でもやるようになるのです。

教育はコストではなく投資である

企業にはいろいろなタイプがあり、育成が大事だ、と口では言うものの、それほどの実践はしていない、という企業もたくさんあります。育成に関して一番大事なのは、経営者の考え方です。これに尽きるでしょう。業績が悪化したとき、真っ先に削られるのが教育費であるというのも、よくわかります。教育費は変動費である、と考えれば、それはコスト削減の対象になるからです。

そうではなく、経営者が人財育成を投資と考えられるかどうか、それがポイントです。「そんなことを言っても、せっかく投資をして教育しても、退職されてしまうのではかなわない」という会社側の声もよく聞かれます。確かに、手をかけて育成に努めたとしても、辞める人はゼロにはならないかもしれません。

では、「どうせ辞めるから教育はしない」というのが正しいか。会社にとってメリットになるのでしょうか。今、働いている社員たちが育つことが業績に直結するのです。まず、そのことを考えるべきでしょう。コストをかけて教育をして、辞める社員がいたとしても、別にマイナスになるわけではありません。大きな目で見れば、その人は成長してくれているわけですから、他の会社に送り出せばいいのではないでしょうか。それ以前に、きちんとした育成の仕組みがあって教育と評価ができていれば、辞める人は少なくなります。

教育の効果は、必ず離職率を下げます。ですから、教育してもどんどん辞めていくというのは、ちょっと矛盾を感じるのです。その教育は、的を射ていないのではないでしょうか。

私たちの人財育成の考え方は非常にシンプルです。企業が人財育成に投資をする理由、それは情緒的な話ではなく、最終的に「利益を獲得するため」に他ならないと私たちは考えます。ビジネスにおいて、売上、利益を上げるためには顧客満足(CS)が不可欠であり、それは「人によってしか」向上しないのです。接客をするのも人。スタッフをマネジメントするのも人。ですから当然のこととして、利益のベースとなるのはしっかりとした人財育成であり、これなくして長期的な利益の獲得、企業の発展はありません。

人財育成の本質は、前に述べた「教育」「評価」「労働環境」の3点です。これをしっかりやることによって、離職率も下がりますし、採用状況は必ず好転します。一人の人を奪い合う売り手市場の状況の中、「人に選ばれる会社」になるためには、これも繰り返しになりますが、そこで働くことによって成長できるかどうか。それを軸に企業を選ぶ人がとても多いのです。

「教育」「評価」「労働環境」を整備して、「辞めない理由」を作ること。そして、いつ、どこまでできるようになるかというゴール設定をし、教えたことを実践するように、しっかり要求すること。加えて、やったこと、できたことについては、きちんと評価すること。これが人財育成の基本であり、まず実行しなければならない大前提です。


有本 均(ありもと・ひとし)
株式会社ホスピタリティ&グローイング・ジャパン 代表取締役会長、グローイング・アカデミー学長。1956年、愛知県生まれ。早稲田大学政治経済学部入学後、大学1年生からマクドナルドでアルバイトを始め、1979年、日本マクドナルド株式会社に入社。店長、スーパーバイザー、統括マネージャーを歴任後、マクドナルドの教育責任者である「ハンバーガー大学」の学長に就任。2003年、株式会 社ファーストリテイリングの柳井正会長(当時)に招かれ、ユニクロの教育責任者である「ユニクロ大学」部長に就任。その後、株式会社バーガーキング・ジャパン代表取締役など、外食・サービス業の代表、役員を歴任する。2012年、株式会社ホスピタリティ&グローイング・ジャパンを設立。 日本マクドナルド、ユニクロ等を経験して得た「人財育成のノウハウ」を活かし、世界中のサービス業の発展を目指す。

『全員を戦力にする人財育成術 離職を防ぎ、成長をうながす「仕組み」を作る』
有本 均 著 ダイヤモンド社

           

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