空前の人手不足が続く中、企業が“できる人財”を採用することは困難な状況になっています。そこで、日本マクドナルドの「ハンバーガー大学」で学長や、「ユニクロ大学」部長を務めた 有本 均氏の著書『全員を戦力にする人財育成術 離職を防ぎ、成長をうながす「仕組み」を作る』から、採用した人をできる人財に育てる方法を紹介します。
文 /有本 均
企業が人を育成しなければならない理由
前章では、人財育成が企業にとって重要である理由、その背景、また「教育」「評価」「労働環境」の3つを整備することによって「人が辞めない理由」を作ることが育成の大前提である、ということを解説しました。続いて、より具体的な育成の手法について話を進めていきます。
人財育成について企業の方から相談を受けたとき、まずお話しするのが「グローイング・ピラミッド®︎」についてです。なぜ企業が、少なからぬ手間とコストをかけて人を育成しなければならないのか。その理由について、しっかりと腹落ちしていないと、育成を徹底できない恐れがあるからです。とはいえ、理解していただきたいのは決して難解なことではなく、ごく当たり前の理屈です。
下の図をご覧ください。企業として一番大事なのは利益を出していくことであり、利益を上げるためには売上を伸ばす必要があります。また、売上を伸ばすためには、お客様の満足度を上げていくことが必要でしょう。
そして、お客様の満足度を上げるのは、商品のみならず、その商品を販売する人にも左右されます。つまり、人を育てることが必要であり重要である、ということです。このピラミッドの中で、人財育成は、一番大事な土台の部分。
当然ながら面積も最も広い。ですから、ここに時間とコストをかける必要があるのです。このことは、私たちのメイン顧客であるサービス産業の方でしたら、素直に納得していただけると思いますが、実はあらゆる業種に共通する普遍的な真実でしょう。B to Cの会社であればお客様は一般消費者ですが、B to Bであれば法人顧客。商品やサービスを提供する対象は違っていても、その接点が社員やアルバイトという「人」である限り、やはり人財育成は欠かすことができません。
ポジションに応じた人財育成
どんな企業でも、人財育成の対象は多様です。新入社員からリーダー層、管理職層など、あらゆる階層について、そのポジションに応じた育成が必要になります。現場レベルでの育成の目的をハッキリ理解してもらうために、サービス業のクライアントに、店長を対象にした「ピラミッド」を作ってもらうことがありますが、やはり店長の役割として 売上・利益のために顧客満足度を向上させる必要があり、そのために人財育成が欠かせない。同じことを店長にも理解してもらうのです。つまり、店にとって働く人を育てることは、店長にとって利益を上げるために必要な「タスク」である、ということを。
そうは言っても、教える人もいないし、業務が多忙をきわめる中で、なかなか時間も取れない。だから、話としてはわかるけれど、育成などは手に余る……。そんな本音を漏らす方もいます。しかし、グローイング・ピラミッド®のロジックで言えば、人を育成することを諦めてしまうとすれば、利益を上げることを放棄することになります。それは、企業としては採れない選択肢のはず。
では、どう考えるか。状況的には難しいかもしれないけれど、できることは何か、どうすればできるか、と考える必要があります。例えば自分自身ではできないのなら、他の人が育成を担当すればいい、というように。
全員がトレーナーになれる可能性がある
自分自身が店長時代に行っていたことの例をお話しすることもあるのですが、極端に言えば、昨日入ってきたアルバイトでも、指導役=トレーナーになれます。初日にマックフライポテトの作り方をマニュアル通りに覚えてできるようになったとすれば、その人は次の日に新人が入ってきたら教えることができるのです。作業のスピードは遅いかもしれませんが、基本は教えることができます。
つまり、全員がトレーナーになることができるので、人財育成の効率は圧倒的に高くなるのです。「育成」という言葉を聞いて、特別な人が優れた教え方をするのが育成ではないのか、と構えてしまう方もいるかもしれませんが、その必要はありません。そうではなく、やり方はいろいろと工夫できるのです。いずれにしても、人財育成なくして顧客満足度は向上しないし、そうであれば売上も利益も伸びていかない。
そんな風に、このピラミッドの重要性を説明した上で、育成は「仕組み」にできますよ、と言ってご紹介するのが、次回で解説する「グローイング・サイクル®」です。
有本 均(ありもと・ひとし)
株式会社ホスピタリティ&グローイング・ジャパン 代表取締役会長、グローイング・アカデミー学長。1956年、愛知県生まれ。早稲田大学政治経済学部入学後、大学1年生からマクドナルドでアルバイトを始め、1979年、日本マクドナルド株式会社に入社。店長、スーパーバイザー、統括マネージャーを歴任後、マクドナルドの教育責任者である「ハンバーガー大学」の学長に就任。2003年、株式会 社ファーストリテイリングの柳井正会長(当時)に招かれ、ユニクロの教育責任者である「ユニクロ大学」部長に就任。その後、株式会社バーガーキング・ジャパン代表取締役など、外食・サービス 業の代表、役員を歴任する。2012年、株式会社ホスピタリティ&グローイング・ジャパンを設立。 日本マクドナルド、ユニクロ等を経験して得た「人財育成のノウハウ」を活かし、世界中のサービス業の発展を目指す。
『全員を戦力にする人財育成術 離職を防ぎ、成長をうながす「仕組み」を作る』
有本 均 著 ダイヤモンド社