相続税の申告を専門家に頼らず自分で行おうとする方は数多くいらっしゃいます。しかし、被相続人の財産の確定、財産の評価、申告書の作成など、申告手続きまでにすべき内容が数多くあります。
そこで今回は、日本クレアス税理士法人の税理士 中川義敬が、長年にわたる相続税申告のサポートを通じて得た幅広い知識や経験に基づき、相続税の申告手続きの流れや必要となるものについてご説明いたします。
目次
自分で相続の申告はできる?
相続税の申告手続きの流れ
相続税の申告に期限はある?
相続税の申告に必要なもの
まとめ
自分で相続の申告はできる?
「令和2事務年度 国税庁実績評価書」によると、令和2年における相続税の申告件数は約12万件。しかし、そのうち税理士に依頼せずに自分で申告した割合は、約14%でした。よって内容が簡易な申告の場合や時間が確保できる場合には、自分で申告することを検討してもよいかもしれません。
例えば、相続財産の大部分が預貯金である場合は、主に預金残高が相続財産額となり、難しい土地の評価などを行う必要がありません。そのため申告内容の難易度が下がります。また、相続人が自分1人の場合には、万が一申告内容が誤っていても、他のご家族に迷惑がかかりません。その様な場合は、申告に挑戦してみても良いと思います。
相続税の申告手続きの流れ
身内に相続が生じた場合の、相続税の申告手続きの流れについてご説明いたします。
被相続人の財産の確定
相続が発生したら、まずは被相続人の財産を特定しなければなりません。相続税申告を行うためには、当然被相続人が所有していた財産を漏れなく申告する必要があります。しかし、相続人が被相続人の財産をすべて把握しているケースは多くありません。
特に預貯金や投資信託などといった金融資産の特定作業は、非常に骨が折れる作業となるでしょう。例えば、10の金融機関に預貯金を所有していた場合には、全ての金融機関に預貯金の照会を行う必要があります。ですから、被相続人は万が一のことを考えて、生前に自ら所有する資産の一覧表をご家族のために作成しておくことをお勧めいたします。
財産の評価
土地や建物といった不動産、株式などの相続税評価額を、国が定めるルールに基づいて計算し数値化する必要があります。被相続人の財産評価額の多寡に応じて、相続税が計算されます。
遺産分割
相続税申告を行うためには、被相続人の財産を誰が引き継ぐのか決める必要があります。被相続人が生前に遺言書を遺していれば、その遺言に基づいて財産の振り分けを行うことができます。しかし、遺言書がない場合、相続人同士が遺産分割協議を行い、財産の振り分けを行うこととなります。
相続税申告
財産の確定、財産評価、遺産分割が完了すれば、いよいよ申告手続きとなります。申告書を完成させるためには、記載すべき個所や数多くのルールがあります。まずは最寄りの税務署に尋ねる。もしくは、国税庁のHPに掲載されている「相続税の申告のしかた」をご参照いただくことをお勧めします。
相続税の申告に期限はある?
相続税申告には期限があり、被相続人が亡くなったことを知った日から10か月以内に申告を行う必要があります。期限には若干余裕がありますが、10か月以内に申告と同時に納税を行う必要があるため、納税額が多額になる場合には、期限に関してより留意が必要となってくるでしょう。
相続税の申告に必要なもの
相続税申告を行うためには、それぞれ以下の書類を用意しなければいけません。
相続人の身分を証明する書類
・被相続人の出生から死亡までの連続した戸籍謄本
相続税申告を行うために相続人が誰なのか確認しなければなりません。相続人を確定するために、被相続人の出生から死亡までの連続した戸籍謄本を取得する必要があり、被相続人の出生まで遡ることになります。そのため、場合によっては複数個所の市区町村より戸籍謄本を取得することとなります。
・相続人全員の戸籍謄本
被相続人の戸籍謄本とは異なり、現在の本籍地の戸籍謄本で足ります。
・相続人全員の個人情報書類
マイナンバー(個人番号)カードを発行している場合は、カードのコピーが必要です。カードを発行していない場合には、通知カードのコピーと運転免許証や健康保険証などの身分証明書のコピーが必要となります。
相続財産の評価書類
・相続開始時点での残高証明書
預貯金や上場株式、投資信託などといった金融資産については相続開始時点での預貯金残高、株式残高により財産評価を行います。
・過去3年分の通帳コピー
基本的に相続財産は相続開始時点での財産額により構成されます。しかし財産を相続した人が、相続開始から遡って3年以内に贈与を受けていた場合には、その贈与財産も相続財産に含まれることとなります。よって相続税の申告の際には、相続開始時点での残高証明書のみならず、最低でも過去3年分の通帳コピーを確認し、被相続人が相続人に贈与をしていないか確認する必要があります。
・不動産の登記事項証明書や固定資産税評価証明書、測量図など
不動産の財産評価を行うために必要な書類です。手もとにない場合には、法務局や市区町村により発行することができます。
・生命保険金の支払明細書や年金保険の保険証券
生命保険金の支給を受けた場合や、被相続人から私的年金の受給権を相続する場合にも、申告内容に反映させる必要があります。手もとにない場合には、保険会社にお問い合わせください。
・借入金や入院費・光熱費などの立替費用、葬式費用に係る資料
被相続人から銀行借入金を引き受けた場合や相続後、被相続人の代わりに入院費、光熱費を立替えた場合、または葬儀費用やお布施を負担した場合には相続税申告において相続財産から差し引くことができます。よって、債務や葬式費用に関する資料も必要になります。
・その他
場合によっては遺言書や遺産分割協議書、相続人全員の印鑑証明書が必要となるケースがあります。
まとめ
相続財産が少額な場合や相続人に時間がある場合には、自分で相続税申告を行うことも可能です。しかし、誤った申告書を提出してしまったり、提出書類に不足があったりすると申告後に税務署から問い合わせが来る恐れがあります。よって相続税申告が煩わしい場合には、相続に詳しい税理士にご相談していただくことをお勧めいたします。
構成・編集/松田慶子(京都メディアライン ・https://kyotomedialine.com)
●取材協力/中川 義敬(なかがわ よしたか)
日本クレアス税理士法人 執行役員 税理士
東証一部上場企業から中小企業・個人に至るまで、税務相談、税務申告対応、組織再編コンサルティング、相続・事業継承コンサルティング、経理アウトソーシング、決算早期化等、幅広い業務経験を有する。個々の状況に合わせた対応により「円滑な事業継承」、「争続にならない相続」のアドバイスをモットーとしており多くのクライアントから高い評価と信頼を得ている。
日本クレアス税理士法人(https://j-creas.com)