文 /難波 猛

2000人を超える中高年のキャリア開発に携わってきた、ミドルシニア活性化コンサルタントの難波猛氏の著書『「働かないおじさん問題」のトリセツ』(アスコム)より、これからの時代に中高年がいきいきと働くためのポイントをご紹介します。

ネガティブフィードバックをうまく行うための5つの技術

前回は、ネガティブフィードバックの必要性を解説しました。ネガティブフィードバックは、とりあえずやればよいというものではありません。 最初のアプローチが悪く、ボタンのかけ違いが起きてしまうと、回復不可能な暗礁に乗り上げてしまうことになりかねません。実際に「この上司とは絶対に話したくない。自分の処遇にも納得ができないので、弁護士を立てる」という状態になってしまったという相談も過去にありました。

ネガティブな情報は、言う側も聞かされる側も気分のよいものでは無い分、伝え方には十分な配慮と準備が必要です。それらを踏まえた上で、ネガティブフィードバックをうまく行うために有効な5つの技術を紹介しましょう。

1.合意を得る
2.不協和をつくる
3.話すより聴く(傾聴)
4.行動と事実について話す(ファクトフルネス)
5.諦める(明らかに見極める)

1.合意を得る

ネガティブフィードバックの目的は、相手に行動を変えてもらい、期待以上の成果を創出してもらうことです。部下の行動変容に繋げるためには、特に次の点について「上司と部下の合意」を得ることが重要です。
「改善の必要性」
「置かれている状況」
「これから話し合いを行うこと」
「上司としては改善が必要だと考えている。改善できると期待している」または「部下としても改善が必要だと考えていて、改善したいと思っている」という合意が、面談成功の大前提になります。この点を、お互いが本気で合意できれば、建設的な話し合いが可能になります。

その際に、部下がいきなり「私、改善したいです!」となるケースは稀です。そもそも、そういう意識の部下は、自発的に改善へ努力しているので、厳しいフィードバックは不要でしょう。

まずは「本人が置かれている状況」に対して共通理解を得る必要があります。この点は、耳が痛くても「期待している成果が創出できていない事実」「今までと仕事の仕方が変化している現状」「このままだと、処遇を下げざるを得ない可能性」などを改めて伝えて、部下にも合意してもらう必要があります。

「改善の必要性」と「置かれている状況」への合意が得られたら、「一緒に解決策を話し合うこと」を改めて合意します。

合意を得るための話し方のコツは、「はい/いいえ」で完結してしまうクローズクエスチョンを避け、オープンクエスチョンを使うことです。研修等で上司にロールプレイをしてもらうと、上司がひたすら説明・説得を続けて、部下がしゃべるのは「はい」「分かりました」しか無い(それ以外答えようがない)、というケースも多いです。その場合、部下役の表情は、「YESと言わされた感」でいっぱいです。

本音や合意を得るための問いかけとしては、下記のようなものがあります。
「この点に関して、どのように考えていますか?」
「私はこう考えていますが、あなたの意見はいかがですか?」
「合意できた点と、合意が難しい点を教えてもらえますか?」
「改善に取り組んでほしいと考えていますが、合意していただけますか?」

本人の口から意見を述べてもらう(自分の意見を考えてもらう)ことが有効です。人から言われたことより、自分で言ったことの方が内発的動機付けを高める効果があります。合意を得るためには、一例として以下の手順でミーティングを進めていくとよいで しょう。

●「面談目的の共有」
● 「ギャップの存在の確認」
●「改善意欲の確認」
●「改善計画の検討」
●「改善期間の検討」
●「具体的な改善計画の決定」

このように細かいプロセスを通して、その都度「上司と部下の合意」を得ておけば、後々「言った」「言わない」「そんなつもりではなかった」といった齟齬を防ぐことができます。

合意できない点がある場合は、いきなり説得や論破に走るのではなく、「どんな理由で合意できないのか?」「他に良いアイデアはあるか?」を問いかけて、本人の本音を確認していきます。

フィードバック面談の最後には、毎回、どのような話について合意したのか、部下の口から説明してもらいましょう。そうすると、「言われたことを思い出す」→「言語化する」→「上司に説明する」→「自分の言葉を自分で聴く」というプロセスを踏むことによって、伝えた内容が自分の頭の中で言語化され、「長期記憶」「自分の宣言」として定着しやすくなります。上司がまとめてしまうと、効果が半減します。

また、このプロセスを踏んでおくことで、ある意味(表現は悪いですが)「言質を取った」という状況になりますから、仮に両者の間にボタンの掛け違いや改善が難航することがあっても、齟齬(そご)を早期に発見し、合意した点に立ち戻って軌道修正が可能になります。

「そもそも、改善やギャップがあること自体に合意しない場合、どうすれば良いですか?」という質問を、現場のコンサルティングでいただくことが多いです。「改善への合意」が得られない場合は、2つの点を本人と確認します。

一つ目は、「合意できない理由」です。本人が合意しないのは、上司の認識と何か違う点があるからです。「上司が分かっていない」「自分はできている」「総論は賛成だが各論で反対の点がある」「改善は無理だと思っている」等、本人の視点では色々な思いがある可能性があります。上司としては、そうした思いを頭ごなしに否定するのではなく、まずは真剣に聴いてみることを推奨します。お互いに誤解している部分や、一部は合意できる点が見つかる場合もあります。

二つ目は、「改善を目指さない場合、起こり得る可能性」です。 会社組織で働くということは、家族や義務教育、趣味の集いと違い、双方の合意による労働契約です。 人事制度の等級や職務記述書で期待されている成果が創出できない状態が続けば、降格・降給・雇用契約の解約などが起こり得ることは、厳しいですが理解してもらう必要があります。

2.不協和をつくる

部下にフィードバックするネガティブな情報には、「現状と期待のギャップ」が必ず存在します。伝えられる側の部下にしてみれば、そのギャップは目を背けたくなる耳の痛い事実や納得しにくい情報であることも多いです。嬉しい話ではないので、部下が不機嫌や反発を示すことは当然あります。

経営者や上司からネガティブフィードバックをするのが苦手な理由を聴くと、「厳しいことを言うと、部下が嫌な気持ちになる」「本人の感情を害さず気づいてほしい」「波風を立てず本人に変わってほしい」等のコメントが出ます。

しかし、上司から何も働きかけないのに部下が変化する可能性は原則としてありません(それがあり得るなら、そもそも「働かないおじさん」になっていません) 。部下の行動変容を促すには、「今のままでいたい」という気持ちと「今のままではまずい」という矛盾を、あえて突き付けて気づかせることが必要です。

自分の気持ちの矛盾に違和感を抱かせる。これが最初のステップになります。心理学で「認知的不協和」という理論があります。人は、自分の認知と異なる矛盾や違和感を自覚した場合、その状況に留まることが気持ち悪くなるので、何かしらの 行動を起こし矛盾を解消しようとし始めます。

その行動や反応は、必ずしも前向きな改善とは限らず、言い訳や他責や抵抗の場合もありますが、とにかく本人が「今の状態はまずい」と認識することで、話し合いの土壌ができます。伝える上司側は不協和を恐れるのではなく、矛盾や不協和を感じてくれた(フィード バックが伝わり始めた)ことを喜ぶべきかもしれません。

3.話すより聴く(傾聴)


「フィードバック」は、言い方が下手でも、本音で話せば必ず伝わります。 むしろ、「うまい聴き方」の方がはるかに重要です。 人間には「一貫性の法則」というものがあります。

人間は原則として「自分の言ったことと自分の行動が矛盾したくない」と考えます。 そのため、相手から一方的に言われたことは否定しやすくても、自分が言ったことは否定しにくいのです。 したがって、上司としては、まず本人の意見を心ゆくまで述べさせましょう。 まずは本人の言い分を真摯に傾聴(耳と心を傾けて聴く)し、「これ以上は言うことはない」「本音のすべてを言い切った」という状態まで付き合うのです。 このとき、部下の言葉から「不安・不満・恐怖・怒り」などのネガティブなサインを見つけたら「何か不安があれば教えてください」「お気持ちはこの場で全部吐き出してください」と促しましょう。

例えば、「あんな会議は時間の無駄」と主張する部下がいた場合、どこが無駄だと感じているのか、どうしたら意味のある会議にできるのか、本人に話をしてもらい、 自分事として考えてもらうのです。

このように自分で考えて、解決策を選ばせると、部下の側に「自分で言ったからには」という心理が働きやすくなります。

上司がこうして徹底的に傾聴すると、部下の心には、自分の気持ちを吐き出せたことによる解放感(カタルシス効果と呼ばれます)と、時間と感情を共有してくれた相手に好意を抱く単純接触効果(ザイアンスの法則と呼ばれます)が生じます。これがフィードバックを受容する土台を形成する上で大事なのです。

「この上司は、自分の意見を最後まで真剣に聴いてくれる」「自分は、こんなことを考えていたのか」という気付きが生まれると、上司のアドバイスを今までよりは素直に受け入れることができるようになります。

よく見かける上司側のまずい対応としては、「しゃべりすぎ」があります。 「沈黙を埋めたい」「部下の意見を聴くと、違う意見が出たときに面倒くさい」「とにかく説得して自分の思い通りに行動させたい」等の感情が、しゃべりすぎに繋がるのかもしれません。

上司が過剰にしゃべりすぎると、部下がじっくり考える時間が持てません。上司から必要な情報や質問を伝えた後は、部下の反応や内省をじっくり待つ姿勢が大事です。私自身、部下や研修受講者がしゃべり始めるまで 2分でも3分でも黙って待つこともあります。

「誤解があったら申し訳ないんだが……」
「こういうこともあって、ああいうこともあって……」
「どう思う?  こんな風に思うよね……」
「こういう指摘もしたけど、あなたにはこんな強みもあって……」
……などなど、少しの沈黙にも耐えきれず、部下の心理を無駄に先読みして話し始め、沈黙を埋めようとする人もいます。しかし、部下に考える時間と機会を与えない限り、フィードバックのボールが相手に渡ったことになりません。

立場を逆にして考えると、質問の後に沈黙が続けば部下もいろいろなことを考えざるを得なくなります。例えば、「自分から何か意見を言わないと、この面談は終わらない」「どうも、真剣に考えないといけないようだ」「上司は何を期待しているか」「自分はどうしたいのか」「今回はいつもと雰囲気が違う」などの考えが頭の中に去来するでしょう。こうした「問いを立てる」「じっと待つ」ことが重要です。

4.行動と事実について話す(ファクトフルネス )

経営者・人事・上司の方に「ミドルシニア社員の、どんなことに困っていますか?」 とお聞きすると、こんな回答が上がります。

「ベテランとしての責任感が不足している」
「受け身でなく、もっと仕事に主体性を持ってほしい」
「どこか協調性に欠けていて困っている」
「新しい仕事やスキル習得に対して、積極性が無いんだ」
上記のセリフは、部下の性格や意識に焦点を当てたものが多いです。

お気持ちは分かりますし、実際もそうなんだろうと思いますが、こうした「性格・ 意識」にフォーカスを当てた指摘や指導は、2つの面でリスクがあります。

パワハラになりやすい

厚生労働省のパワーハラスメントの定義は「職務上の地位や人間関係などの職場内での優位性を背景に、業務の適正な範囲を超えて、精神的・身体的苦痛を与える行為」とされています。特に、「人格権の侵害」と受け止められる言動は、相手に精神的苦痛を与える危険性が高くなります。

例えば、「責任感を持って 仕事をしてほしい 」という発言を受けた本人は、「責任感がない人間だと言われた」と受け止めてしまい、苦痛を感じる可能性があります。

改善に繋がらない

「性格・意識」にフォーカスを当てていると、具体的な解決策に繋がりません。例えば、「責任感を持って仕事をしてほしい」と上司に言われたとしても、「責任感のある仕事は何か?」「自分のどこが責任感不足と言われるのか?」が部下には分かりません。上司から「行動・事実」に基づいた具体的な指摘をしない以上、 部下が具体的な解決策を講じることは困難です。

「部下に責任感がない」と感じたのであれば、「いったいどういう行動や事実を見てそう感じたのか」を上司自身が掘り下げ、その行動・事実に基づいて話し合うことが重要です。

例えば、「プロジェクトの進捗状況を自分から確認しない。それが何度も続いた」 ということで責任感がないと判断したのであれば、その旨をきちんと伝えます。そうすれば、次回以降に「進捗状況は自分から確認する」という行動改善につながるでしょう。

行動面や事実に関して改善を求めた後は、以下のステップによって、具体的に改善していきます。

● 「不足している行動・ 事実を指摘する(ネガティブフィードバック)」
● 「フィードバックされた行動が改善する」
●「改善に対して承認・称賛する」
● 「褒められたことで、その行動を繰り返すようになる(承認欲求が満たされる)」
●「行動が変わり、上司や周囲の評価が変わる(責任感の欠如を感じなくなる)」
●「周囲の評価が変わることで、意識自体も変化する場合がある」

行動変容を促すには、「良い点は褒める」「悪い点は指摘する」の両輪が重要です。
極端に言えば、「良い行動は定着するまで何度も褒める」「悪い(不足している)行動は変わるまで何度も指摘する」根気強さが求められます。

「行動」ではなく「人」に焦点を当ててしまい、ローパフォーマーには常に厳しく、ハイパフォーマーには常に甘い対応をしてしまう上司もいます。

「成果が上がらないローパフォーマーには会議の時間厳守を求めるが、成果を出しているハイパフォーマーは会議の遅刻や欠席でもお咎めなし」等のダブルスタンダードな対応を上司が取ってしまうと、組織全体のモラルが低下してしまいます。

ローパフォーマーでも良い行動は褒める「ハイパフォーマーでも良くない行動は指摘する」といった明確で誠実な基準を上司が持っていると、組織全体が引き締まってきます。

5.諦める(明らかに見極める)

ネガティブフィードバックは、部下も上司もある程度ストレスがかかるコミュニケーションです。延々と続けているとお互いが疲弊してしまうことがあります。人事が期間もゴールも定めない改善活動を指示していた会社では、管理職が「ゴールのないマラソンを走っているようだ」と言っていました。

特に現在は、社員の働く年数も長くなっています。例えば、50歳の社員を65 歳や70歳まで、延々と指導し続けるのは、上司も部下も苦しいことだと思います。

現実問題として、誠実にネガティブフィードバックを行っても、改善しないことは起こりえます。
「求められるスキルや役割が、本人にはどうしても合わない」
「根本的に、上司と部下で信頼関係が再構築できない」 「本人がやりたい仕事が、会社の中では絶対にできない(存在しない)」
「ライフイベント等の影響で、仕事への情熱がどうしても持てない」

このような場合、ある段階でお互いに諦める(見極める)ことも必要になってきます。フィードバックを通じた行動改善の取り組みに関しても、3カ月から6カ月かけて本気で取り組むと、一定の効果が出て改善した行動が定着していく場合が多いです。 一方で、その期間を通じても改善の兆しが見えない場合、違う道を模索する必要がある、ということになります。

期待と成果のギャップを埋める対応策としては以下の選択肢等があります。

●「役割の変更(配置転換・異動)」
●「賃金の変更(降格・降給)」
●「所属の変更(出向・転籍)」
●「雇用の解約(退職勧奨・解雇)」

当然ながら、本人にとって、不利益な処遇の変更や、雇用契約の解約には、法律面での注意と心理面への配慮が求められます。

本人にとって難しすぎる役割や、興味が持てず苦手な職務を続けることは、長い職業人生を考える際に必ずしも幸せなことではないかもしれません。

実際、社内外の違う役割や環境に変わったことで、生き生きと働けるように変わった例を数多く目にしています。
私自身も、無理に背伸びをして部長をしていた時代より、好きな現場のコンサルタントとして活動している今の方が、仕事への充実感や幸福感がありますし、会社からの評価も得ています。

「もしも改善しなかった場合どうするか」の可能性については、改善計画を遂行する最初の段階で言及しておくことを推奨します。最初に聞かされていない場合、「だったら最初から教えておいてほしかった」「騙しうちだ」という不満に繋がってしまうかもしれません。

降給や退職などが伴う変更は、会社としての意思決定となります。上司だけで説明が難しい場合は、人事責任者や役員が同席して「会社の意向であること」を伝えるケースもあります。

「フィードバックは期間限定で行う」「フィードバックの結果、こうなる可能性がある」「会社・上司としては、厳しい状態にならないように、期間内での改善を期待したいし支援する」という情報をあらかじめ伝えておけば、後日のトラブルは避けることができます。


難波 猛(なんば・たけし)
人事コンサルタント。マンバワーグループ株式会社シニアコンサルタント。1974年生まれ。早稲田大学卒業、出版社、求人広告代理店を経て、2007年より現職。人事コンサルタント、研修講師として日系・外資系企業を問わず2000人以上のキャリア開発を支援。人員施作プロジェクトにおけるコンサルティング・管理者トレーニング・キャリア研修などを100社以上担当。官公庁事業におけるプロジェクト責任者も歴任。

             『「働かないおじさん問題」のトリセツ』難波 猛 著

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