文 /難波 猛

2000人を超える中高年のキャリア開発に携わってきた、ミドルシニア活性化コンサルタントの難波猛氏の著書『「働かないおじさん問題」のトリセツ』(アスコム)より、これからの時代に中高年がいきいきと働くためのポイントをご紹介します。

なぜ報酬と成果のギャップが生じるのか

「働かないおじさん」に近い意味で、一時期ネットの話題になった「Windows2000」という言葉があります。「年収2000万円をもらっている窓際族」という意味だそうで、誰もが知っている有名なOSのことではありません。

日本では若手時代の給与を低めに抑え、勤続年数とほぼ比例して大きく上がる賃金形態を採用している企業が少なくありません。このような賃金形態の会社の場合、ミドルシニアの社員が給与の伸び以上の成果を上げられないと、報酬と成果にギャップが生まれてしまい、「働かないおじさん」や 「Windows2000」のような問題が顕在化してしまいます。

【企業事例】
A社では、2年以上連続して最低評価になっている50代の営業職を集め、改善に向けて3日間の研修をお手伝いしました。 実施の背景としては、法改正や業界の環境変化により、営業活動の変革が必要となっていました。会社としては強い危機感を持ち、賃金体系や求められるコンピテンシー(行動特性)を変え、今まで以上に「新しい環境で成果を創出してくれる人には高く報いる」「成果の創出が難しい人には処遇が厳しくなる」というメリハリを利かせた方向に舵を切っていました。

研修の冒頭で、人事部長から直々にある通達がされました。 「皆さんの今の状態が今後も続くようであれば、会社としては処遇を下げざるを得ない。ただし、会社としては処遇低下が目的ではなく改善を期待したい。一年間を改善期間として猶予し、改善機会も提供するので、それまでに本気で変わってほしい」

この通達の後、弊社が対象社員と数日間の研修で付き合うことになりました。対象社員たちは当初、諦めと反発ムードでした。低評価が続き、出世レースから外れ、60 歳定年まであと10年を切った状態です。

「今更、無理」「厳しいこと言っても、どうせ何とかなる」
「多少給与が下がっても、 定年まで我慢すれば良い」
「会社は、体よく自分たちを辞めさせたいのだろう」
「今の上司と働く限り、評価は上がらない」
といった投げやりな発言が、研修の中でも聴かれました(研修中は人事には退席してもらい、本音を開示しやすくしました)。

こういう否定的な状態に対して、理詰めの説得や会社側に立った論破は効果が無く、余計にガードが固くなるだけです。本人の内省(自分と向き合うこと)が重要です。

研修では、内省を促すために色々な問いを、個人・グループで考えて話し合ってもらいました。
「あなたは今の状況に対してどう感じていますか」
「このままの状況が続くと、どうなると思いますか」
「自分としては、どういう状態になれると嬉しいですか」
「会社は、なぜ手間と金をかけて研修機会を用意したと思いますか」
「今までの仕事人生で、嬉しかった瞬間はどんな時ですか」
「その瞬間や気持ちと現状のギャップはありますか」
「ギャップを埋めるために、どんな行動が必要だと思いますか」

現状に対して少し投げやりになっている人は確かにいます。しかし、本音で「自分の人生がどうなってもいい」「仕事で評価されなくても構わない」と思っている人はいません。

会社が一方的に指示を出すのではなく、将来を自分自身で考えてもらうことが重要になります。難しい取り組みではありましたが、本人たちも少しずつ真剣に自分の人生や今後の変化に対して向き合ってくれるようになりました。事前に上司からも「あなたに期待していること」という手紙を書いてもらい、研修後半で渡すなどの工夫も行いました。

その後、改善プランを自ら立ててもらいました。そのプランをもとに上司と話し合い、相談を受けた上司も定期的に面談をしながら、「できたことは褒める」「できなかったことは指摘する」「必要に応じてアドバイスを送る」という取り組みを、3~ 6カ月という長期間にわたり粘り強く続けました。

改善に向けた活動で重要なのは、彼らを頭ごなしに否定しないことです。たしかに、今でこそ低評価の状態ですが、かつては会社の業績を支えた重要な戦力だった人たちです。その自負を本人も持っている場合が多いです。だからこそ、法改正や環境変化により以前のように活躍できない現状に、上司以上に本人が不満や閉塞感を感じているのです。彼らの過去の活躍や今後の改善を信じたうえで、変わらなければいけないこと、変われば活躍できることを丁寧に説明し続けました。

その結果、ある受講者は、若手社員に混じってそれまで全く出ていなかった朝の勉強会に自発的に出て勉強し始めました。

それまでは営業所でもベテランということもあり、情報交換や相談できる相手もおらず孤立気味でした。しかし、余計なプライドを一旦捨てて若い人と一緒に新しい営業スタイルを学ぶことによって、「あの人変わったよね」「本気で頑張ろうとしている」とだんだんと周りの見る目が変わり始め、新しい人間関係もでき始めたのです。

そして3~6カ月が経過すると、徐々に成果が出始め、改善期間とされた1年が 経った頃には、「今のグレードで求められているパフォーマンスが出始めているので、これまでと同じ処遇で活躍してください」と前向きな評価が下されたのです。

その企業では、受講者の7割が翌年にはミドルパフォーマー以上の評価を受けることになりました。残念ながら3割の方は成果や改善が不十分で処遇を下げることになりましたが、会社の本気度と改善のチャンスをもらったこともあり、その措置に納得していました。

このケースがうまくいったのは、人事や上司が本気で向き合ったのが大きなポイントでした。人事部長が直々に厳しくも率直な通達をするのは異例なだけに、会社側の本気度が伝わりました。また、上司も「この年上部下に、どうなってほしいのか」を真剣に考えたうえで手紙を書き、研修後は3~6カ月の間毎週面談を行いました。

費やされた時間とエネルギーは大変なものになりますが、その労力をかけてでも、 本気の期待と危機感を会社側が伝えたのも成功要因だったのでしょう。


難波 猛(なんば・たけし)
人事コンサルタント。マンバワーグループ株式会社シニアコンサルタント。1974年生まれ。早稲田大学卒業、出版社、求人広告代理店を経て、2007年より現職。人事コンサルタント、研修講師として日系・外資系企業を問わず2000人以上のキャリア開発を支援。人員施作プロジェクトにおけるコンサルティング・管理者トレーニング・キャリア研修などを100社以上担当。官公庁事業におけるプロジェクト責任者も歴任。

             『「働かないおじさん問題」のトリセツ』難波 猛 著

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