2000人を超える中高年のキャリア開発に携わってきた、ミドルシニア活性化コンサルタントの難波猛氏の著書『「働かないおじさん問題」のトリセツ』(アスコム)より、これからの時代に中高年がいきいきと働くためのポイントをご紹介します。

文 /難波 猛

「WILL・MUST・CAN」のフレームワークについては、人事やキャリア開発に関わっている方ならご存知の場合も多いでしょう。少し詳しい方なら「もっと斬新で格好良いフレームは無いのか?」「デジタルでロジカルなアセスメントの方が便利」などと思われるかもしれません。

ただ、実際のコンサルティング現場で、「こうした当たり前のことを、上司も部下も驚くほど考えていないし、話し合えていない」「シンプルで分かり易い方が、日々のコミュニケーションで共通言語化しやすい」「真剣に、この3つの充実に向けて取り組むと、かなり効果が出る」と痛感しています。

WILLは「やりたいこと」や「ありたい姿」など、本人の意思や欲求や価値観を 意味します。
MUSTは「やるべきこと」や「周囲からの期待」など、周囲からの期待役割や ニーズを指します。
CANは「できること」や「得意なこと」など、本人の能力、スキル、強みです。

キャリア研修やカウンセリングでは、本人にこれら3つをそれぞれ円として図示してもらい、その円の重なり方や大きさによって、仕事に対するやる気・期待・能力と いった「自分の状態」を把握してもらいます。

この図を初めて描くときは、円の大きさや重なり方について厳密に考える必要はありません。最初は本人の感覚に任せて図を描いて大丈夫です。

活用方法としては、自分で考えた状態を上司やキャリアカウンセラーと話し合い、 重なりや大きさを広げていく方法を一緒に考えていきます。

WILL・MUST・CANが大きくかつ重なっている人は、ハイパフォーマーとして活躍している場合が多いです。本人が仕事にやりがいを感じていて、その仕事が周囲から期待されており、実際それを遂行する能力もあるという、理想的な状態です。

出典 『「働かないおじさん問題」のトリセツ』

一方、ローパフォーマーはWILL・MUST・CANのいずれかが「小さい」、または「離れている」など、ズレが生じた状態になっていることが多いです。このようなギャップが生じる原因は、本人側に問題がある場合もあれば会社側にある場合もあります。「成果が出ないのは、本人の責任だ」などと上司が一方的に決めつけると、建設的な問題解決に繋がりません。

問題を解決するためには、上司(または人事)から「お互いに改善できることがあるかもしれない。一緒に考えよう」と謙虚かつ真剣に対話する姿勢が大切です。その上で「何がギャップなのか」「ギャップをどう解消するか」「どのような状態になりたいか」について、本人と上司で共有しながら検討し、人事が両者を支援する三者の連携 が、ローパフォーマーを減らすことに繋がります。

ここからは「WILL・MUST・CANがなぜズレるのか?」を解説します。

WILL(やる気や意欲)が低減する理由

普通は、入社当初からいきなりWILL(やる気や意欲)が無い人はいません。
少なくとも、自分の意志で採用選考を受けに来て「御社で○○の仕事をしたい」 「こういう点に魅力を感じています」と言っていたはずです。

WILLが減退してしまう本人側の原因

理想と現実のギャップ(自分が期待していた仕事、状態、成果、評価が得られないなど)。また、 心身の衰えや不調、飽き、人間関係、家庭問題なども、意欲が減退してしまう原因になる場合があります。

WILLを減退させてしまう会社側の原因

コミュニケーション不足(本人の志向を把握していない、本人が望まない仕事や役割を与えているといったミスアサイン、そもそも話自体をしていない、など)。動機付けを高めるには、「やるべき仕事が自分のやりたいことや、ありたい姿に繋がっている」ことと、「プラスでもマイナスでも、自分の行動に対してフィードバック」があることが重要です。

若手には細かく話を聞いてフィードバックしていても、ベテランの部下には小まめなコミュニケーションができていない(やっていない)上司が見受けられます。「ベテランなので 、 やる気なんてあって当然だし本人次第」「今更 やりたいことや希望を改めて聞くのも違和感がある」と言う上司は存在します。

しかし、いかにベテランであっても、やる気を保つためには上司や周囲からのフィードバックは不可欠です。実際、大手企業の管理職向けの研修でも、「やっぱり、人から褒められたいよね」「楽しい仕事と、楽しくない仕事はあるよ」「後から振り返って、やり切ったと言える会社生活を歩みたい」 など 、 若手社員と変わらない気持ちの吐露を多数聞きます。

会社内での立場が上がると、周りからの承認機会や素直に自分の欲求や意志を吐き出す機会が減ってしまっていることもあるので、 人事や会社側が工夫して機会を設けてあげる必要があるかもしれません。

MUST(期待役割)のずれはなぜ起きる ?

年齢も勤続年数も高いミドルシニア社員の場合、CAN(能力)以上にMUST(期待役割)がずれているケースが多数見られます。MUSTがズレていると、どんなに本人が頑張っても、価値ある成果を出すことはできません。本人は頑張っているつもりなので、会社や上司から評価されないと被害者意識や不満足感を持ちやすくなります。

経験や能力もあるはずなのに成果が出なかったり、やる気はあるけれど空回りしていたりする人の場合、本人側、会社側の双方に原因がある場合があります。

MUSTがずれる本人側の原因

期待の誤解(理解や情報不足。 経営方針や事業戦略などの情報が古い。 上司との確認不足など)。また、自分の都合よく期待を解釈していることもあれば、自分の立場や雇用を守りたいという気持ちから、周囲の期待を「誤解」でなく「曲解」している場合も あります。

MUSTがずれる会社側の原因

説明不足(戦略や方向性の変化や更新を個に落とし込んでいない。 期待する働き方や成果を明示していない )。 また全体通知のみで本人の理解を確認していないなど 、 確認不足が原因の場合もあります。

たまに「若手じゃないんだから、会社の期待は言わなくても理解しているはず(理 解するべき)」という経営者や上司がいますが、相手が超能力者でもない限り、言わなければ以心伝心で分かるはずがありません。期待役割を伝えていなかったり、上司が言語化できていなかったりする場合、責任は本人ではなく、はっきり言って上司や人事の怠慢です。

特に中期経営計画や事業構造改革、経営体制の変更などで、会社の戦略やビジネスモデルが大きく転換する際には 、一方的な通達やWEBの案内だけでなく、対面で今後の期待役割を伝えた上で、どう理解したか本人の口で言語化してもらうほうがよいでしょう。

MUSTに関しては、テレワークやAI化が進んでいる現在、「動画で経営メッセージを発信」「チャットツールで資料を共有」「経営者や上司が言いっぱなし」などで終わらせてしまい、社員個人に届いていない場合が見受けられます。

例えば「価値あるソリューションを顧客に提供する」などの抽象度の高い言葉は 同床異夢(同じ言葉に対して違う解釈をしていること)が起きやすいので、「価値とは何か?」「ソリューションとは具体的にどういうことか?」「顧客とは誰か?」「あなたは何をすべきか?」などをしっかりと話し合って、細部を確認しておくと後からお互いに「こんなはずじゃなかった」という齟齬が起こるリスクを回避できます。

ベテランなのにCAN(能力やスキル)が不足する社員が増加

CAN(能力やスキル)の不足は、一般的には新入社員や中途入社者、配置転換した社員に発生しますが、最近は技術の進展や戦略変更に伴い、経験豊富なベテラン社員でも能力的についていけないケースも増えています。

ベテラン社員が能力的に不足する場合、単にOJTなどの教育だけでは解決しない場合があります。

CANが不足する本人の原因

「変化対応力」と「学習意欲」の減退。

意欲は高いが業務遂行に必要なスキルや知識が不足している場合は、 教育や本人の努力で解決しやすいです 。一方 「変化自体に抵抗感がある(面倒くさい、失敗がない、今までのやり方に固執したい)」場合、まずは「変化の必要性」「小さな変化での成功体験 」「変化しないことのリスク」 等を上司や人事が伝えていく必要があります。 また 「新しいことを学ぶことへ抵抗感がある (面倒くさい 、興味がなく頭に入らない 、 意味が無いと思っている)」場合、いくら eラーニングなどで教育機会を与えても、学習効果が高まりません。

CANが不足する会社側の原因

「注意指導の不足(成長してほしいこと 、 改善が必要なことなどを伝えていない )」がまずは原因として挙げられます。また、「不適材不適所(本人の興味や強み、またはキャリアを考慮せずに業務や職務の配置を行う)」 ことも本人に興味がないことを学ばせる (やらせる)ことになり、学習意欲を低下させやすくなります。

「変化し続ける能力」「学び続ける意欲」は、これからの時代はますます重要になると考えられています。

『LIFE SHIFT』(リンダ・グラットン、アンドリュー・スコット/東洋経済新報社)では、人生100年時代を切り開く大きな資産として「変身資産」を挙げています。ダボス会議のレポートでは、「今後の労働市場でトレンドになると予測されるスキル」の2番目に「積極的な学習と学習戦略」が挙げられています。

しかし、新しい技術や変化が次々に生まれる中で、ベテラン社員に向かって単に 「変化しなさい」「スキルアップしなさい」「勉強しなさい」と強制するのは継続的な効果が低いといえます。そこで、戦略的に学習を促す工夫が必要となります。

●「好きなことの方が、基本的に学習効率が高い(興味がある情報の方が、脳の扁桃体が活動して海馬が長期記憶しやすくなるそうです)」
● 「 新しいことを学習 ・ 習熟すると 、試したり発信したりアウトプットをしたくなる(陽明学で 「知行合一」と呼ばれます )」
●「新しいスキルを使って少し背伸びすることに挑戦して達成できると、強い高揚感を味わう(前述したフロー体験)」

「好きなことに関係する新しいことを学ぶ → 新しい知識を使って、少し背伸びした → 仕事に挑戦する → できたことが快感で好きになる → 周囲から認められる → できたことに関係する新しいことを学ぶ」というサイクルをつくることが効果的です。

* * *

難波 猛(なんば・たけし)
人事コンサルタント。マンバワーグループ株式会社シニアコンサルタント。1974年生まれ。早稲田大学卒業、出版社、求人広告代理店を経て、2007年より現職。人事コンサルタント、研修講師として日系・外資系企業を問わず2000人以上のキャリア開発を支援。人員施作プロジェクトにおけるコンサルティング・管理者トレーニング・キャリア研修などを100社以上担当。官公庁事業におけるプロジェクト責任者も歴任。

             『「働かないおじさん問題」のトリセツ』難波 猛 著

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