セイコーの技術者たちは、正確に時を刻む時計の追求に余念がありませんでした。
昭和40年代初頭、既に日本の機械式腕時計の技術は世界最高水準にありましたが、昭和44年(1969)、満を持してセイコーから世界初のクオーツ腕時計「クオーツアストロン」が発売されました。
クオーツ腕時計は、水晶に電気を流すとクオーツ(水晶)が等間隔で振動する性質を利用し、1秒という時間を刻む時計です。それまでの一般的な機械式腕時計は“日”差数十秒でしたが、「クオーツアストロン」は“月”差±5秒まで、一気に精度を高めることに成功しました。
それでも既に驚くほどの高精度だったのですが、さらに昭和53年(1978)には、2個の水晶を使うことで“年”差±5秒という精度を実現させた「スーペリアツインクオーツ」という画期的な製品を生み出します。
さらに平成24年(2012)には、太陽光や室内灯の光を使って発電し、GPS衛星から電波を受信して時刻を修正する腕時計「GPSソーラーアストロン」が発売されます。これで電池交換も不要になり、実質、ほとんど時間がずれることはなくなりました。
もちろん、こうした最新技術はセイコーのほか、シチズン、カシオなど日本メーカーが相次いで送り出しています。総合的に見て、日本の独壇場と言っていいでしょう。
その一方でセイコーの技術者たちは、精度ではクオーツに劣るものの、職人の手仕事の味わいが感じられる機械式腕時計の技術革新にも、余念がありませんでした。
重力によるメカニズムへの影響を最小化する「トゥールビヨン」や、時刻を鐘の音で報せてくれる「ミニッツリピーター」など、職人技の粋を集めた機能を搭載した腕時計を次々と世に送り出していきました。
じつはセイコーは、一度は国内向けの機械式腕時計の生産を取りやめ、クオーツ式の量産のみに舵をきったこともあります。とはいえ、質の高いクオーツ式のムーブメント(動力機構)の歯車などの組み立てには、機械式で培われた手仕事が不可欠でした。
のちに高級機械式時計「グランドセイコー」を復活させることができたのも、腕時計に携わる職人技がしっかりと残されていたからにほかなりません。
東京・東向島にある「セイコーミュージアム」には、「グランドセイコー」に搭載される機械式ムーブメントを、三次元の立体画像で観察できるコーナーがあります。伝統的な機械式と、クオーツ式と、そしてぜんまいの力で発電してクオーツを振動させるという、いいとこ取りの「スプリングドライブ」という3つのムーブメントを自社で生産できるのは、世界でもセイコーだけです。
『サライ』9月号の「メイド・イン・ニッポン」特集でセイコーの工場見学におとずれた山下裕二先生がコメントしているように、最新技術と昔ながらのアナログの技術が共存していることが、現在のセイコーの強みなのです。
【セイコーミュージアム】
■住所:東京都墨田区東向島3-9-7
■電話:03-3610-6248
■開館時間:10:00~16:00
■休館日:月曜、祝日、年末年始
■交通:東武スカイツリーラインから徒歩約8分。東京メトロ浅草駅からタクシー約10分。
■公式サイト:http://museum.seiko.co.jp/
文:山内貴範
※「メイド・イン・ニッポン」を特集した『サライ』9月号が発売中です。美術史家の山下裕二さん(明治学院大学教授)が、岩手県雫石町にあるグランドセイコーの組み立て工場を訪ねました。