東京・世田谷区の閑静な住宅街にある五島美術館で、動物をモチーフとした所蔵品を集めた展覧会が開催されています。

東急電鉄(東京急行電鉄株式会社)の元会長・五島慶太(ごとうけいた)の収集した美術品を核とし、「源氏物語絵巻」をはじめ数々の国宝・重要文化財を有す五島美術館だけあって、展示されている作品は一級品ばかりです。

伝徽宗皇帝「鴨図」南宋時代・13世紀 五島美術館

伝徽宗皇帝「鴨図」南宋時代・13世紀 五島美術館

伝徽宗皇帝(きそうこうてい)筆「鴨図」は、足利将軍家が所蔵した美術工芸品「東山御物(ひがしやまごもつ)」の一幅です。羽繕いをする雄鴨が、墨を貴重とした色彩で丁寧に描かれます。

この作品の筆者と伝わる中国北宋時代末期の皇帝・徽宗は、政治よりも芸術の世界に親しんだ人物。美術品のコレクションを築き、みずから筆を執り、絵も描きました。

このような中国から渡ってきた「唐物」は、茶人やコレクターにとっての垂涎の的でした。

尾形乾山「四季花鳥図屏風」(左隻)江戸時代・寛保3(1743)年 大東急記念文庫

尾形乾山「四季花鳥図屏風」(左隻)江戸時代・寛保3(1743)年 大東急記念文庫

尾形光琳(おがたこうりん)の弟、尾形乾山(おがたけんざん)が81歳で描いた「四季花鳥図屏風」も、華やかで目を惹きます。柳、桔梗、萩や菊、雪の枯れ芦など、四季の草花に白鷺を絶妙な構図で配した屏風です。

乾山といえば、絵付けをほどこした焼き物で知られていますが、じつはこういった絵画にも才能を発揮しているのです。

五島美術館・大東急記念文庫学芸部さんによると、「五島慶太が亡くなる3ヵ月前に購入した作品で、川端康成が所有していたことでも知られている」とのことです。

牛もいます。重要文化財「駿牛図断簡」は、牛を描いた鎌倉時代の絵巻の一部です。貴族の乗り物である牛車をひく牛は、名牛が選ばれることが多く、人々の関心を集めていました。そこで、古今の有名な牛、言わばスターの牛を描いた絵巻が登場したのです。顔を写実的に描く似絵(にせえ)という肖像画に用いる技法を、動物を描くときにも使っているのが見所です。

他にも古墳時代の埴輪もあり、南宋時代の絵画もあり、室町時代の蒔絵の硯箱もあり、昭和の日本画もあり。時代、ジャンルの垣根なく、動物たちが集合しています。

「五島美術館では初めての、動物をテーマとした展覧会です。時代を越えたさまざまな動物の造形に注目してほしいと思います。

また、江戸時代に子ども向けに出版されたといわれる赤本や、熟練した技巧を駆使した象牙彫、海老を意匠としたインドネシアの絣(かすり)など、初出品の作品も多数展示しています」(五島美術館・大東急記念文庫学芸部)。

50年以上の歴史を誇る五島美術館ですが、約5,000点もの所蔵品を有すため、今まで一度も披露したことのない作品もあります。これらの作品にもご注目ください。

【夏の優品展―動物襲来―】
■会期/2016年6月25日 ~ 2016年7月31日
■会場/五島美術館
※五島美術館のサイトはこちら
■住所/東京都世田谷区上野毛3-9-25
■電話番号/03・5777・8600(ハローダイヤル)
■料金/一般1000円 大高学生700円 中学生以下無料
■開館時間/10時から17時まで(入館は閉館30分前まで)
■休館日/月曜日(ただし7月18日は開館)、7月19日(火)
■アクセス/東急大井町線(各駅停車)上野毛(かみのげ)駅下車徒歩5分

取材・文/藤田麻希
美術ライター。明治学院大学大学院芸術学専攻修了。『美術手帖』などへの寄稿ほか、『日本美術全集』『超絶技巧!明治工芸の粋』『村上隆のスーパーフラット・コレクション』など展覧会図録や書籍の編集・執筆も担当。

 

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