取材・文/沢木文
仕事、そして男としての引退を意識する“アラウンド還暦”の男性。本連載では、『不倫女子のリアル』(小学館新書)などの著書がある沢木文が、妻も子供もいる彼らの、秘めた恋を紹介する。
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57歳で熟年離婚後、恋愛を楽しむ
今回、お話を伺った、大久保憲和さん(仮名・65歳)は、都内の有名私立大学を卒業後、外資系のPCメーカーに就職。40代で独立し、ビジネス系のコンサルタントとして活躍している。大学の同級生だった妻とは8年前に円満離婚。お互いに“戦友”として、たまに食事をしたり、酒を飲んだりしているという。
筆者は、憲和さんに「熟年離婚後の夫婦のありかた」をテーマにお話を伺う予定だったが、話を聞くうちに「最後の恋」の話になった。
憲和さんは、現在は50代後半のバツイチの女性と交際している。
「彼女との交際は5年になるかな。向こうも仕事が忙しいけれど、毎週末に会っているね。ゴルフしたり、別荘に行ったり、旅行したりして、とても満たされていると思う。この年になると、同じくらいの世代の女性がいいよね。若い女性は100%金目当てだし、話も合わない。離婚後は、ちょっと浮足立っている時期があって、ずいぶんいろんな女性と付き合った。40代の女性の多くは関係を持つと、結婚を迫られることが多かった。たぶん、私が50代後半だったから、舐められたんだと思う。若さの優位性みたいなもの振りかざしてきて、『若い私があなたに付き合ってあげているの』という態度が見えていた人もいる。そういうのにうんざりしながらも、いろんな女性と付き合い続けていた」
そんなとき、今の彼女と出会う。場所は有志が集まるワインの会。彼女はタンゴを習っていて、憲和さんはアルゼンチンの音楽や映画に詳しかった。
「私は、ピアソラが好きなんだよね。ピアソラは、アルゼンチンの作曲家であり、バンドネオン奏者。彼が来日した時、ライブにも行くくらい好きだった。まあ、彼女とは、そんな話で盛り上がって親しくなった。お互い独身だし、仕事の内容も似ている。大人の恋の相手として“ちょうどよかった”んだよ。だから、どちらからともなく食事に誘って、一緒に旅行に行く仲になっていた」
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