文・写真/御影実(オーストリア在住ライター/海外書き人クラブ)
モーツァルトやシュトラウスなどのオーストリア人の作曲家だけではなく、ベートーヴェンやブラームスなど、ヨーロッパ中の音楽家が活躍した、音楽の都ウィーン。
そんなウィーンには、数々の音楽家の史跡が残されています。その中でも、街角や公園に立つ作曲家像を探し、その場所に像がある理由、台座や造形の持つ意味など、トリビアや秘密をご紹介します。
●モーツァルト像
オーストリアが生んだ天才音楽家といえば、ヴォルフガング・アマデウス・モーツァルト。ザルツブルク出身のモーツァルトは、25歳の時ウィーンにやってきてから亡くなるまでの10年間に、歴史に残る数々のオペラや交響曲を完成させました。
そんなモーツァルトの大理石像は、ウィーン王宮近くのブルク庭園に堂々とそびえたち、手前にはト音記号の形の花壇が美しく整備されています。
この像の前で写真を撮る観光客は後を絶ちませんが、じっくり像の足元を眺めてみる人は少ないようです。
台の正面部分には、若干薄く消えかかっていますが、オペラ「ドン・ジョヴァンニ」の一場面が描かれ、台座の裏部分には、神童と呼ばれた子供時代のモーツァルトが、姉のナンネールとピアノを連弾するレリーフが彫られています。6歳でウィーンを初めて訪れ、「女帝」マリア・テレジアの前で御前演奏した時、まさにこのような様子だったのでしょうね。
この像は当初、モーツァルトの作品が多数上演されたケルントナートアー劇場の前(現在のカフェ・モーツァルト)に立っていましたが、第二次世界大戦での空襲の被害もあり、現在の位置に移設されました。
●市民公園のシュトラウス像、シューベルト像など
ウィーンで音楽家像にまとめて会うのには、市民公園がお勧めです。ここではまず、観光客に人気のワルツ王ヨハン・シュトラウス2世の、黄金に輝く像が出迎えてくれます。
「美しき青きワルツ」など、数々のウィンナーワルツを作曲した、ヨハン・シュトラウス2世。この像から見えるクアサロンという建物では、舞踏会の際に自ら指揮を取り、自分の作曲した曲を多数演奏していました。
この像は1921年に、現在のように黄金に輝く姿で除幕式を迎えました。しかし、1935年には損傷が激しかったため、金箔は取り払われ、真っ黒なシュトラウス像となりました。再び修復され、現在のような金色の姿になったのは1991年と比較的最近の事です。
また、この像は日本とも関わりがあります。1990年の大阪花と緑の博覧会の際に、この像の最初のレプリカが展示用に作られました。まだ本家が金箔に覆われる前ですので、当然レプリカも黒いシュトラウス像です。ウィーンのシュトラウス像が黄金色に戻った今でも、大阪の鶴見緑地には、昔の面影を残す黒い像が立っています。
また、この市民公園には、フランツ・シューベルトの像もあります。シューベルト像は、五線紙とペンを持っていて、台座のアレゴリーは、音楽の空想(前)、演奏(左)、歌(右)となっています。
ほかにも市民公園には、アントン・ブルックナー、フランツ・レハール、ロベルト・シュトルツの像がありますので、散策がてら探してみてください。
●ベートーヴェン像
ベートーヴェンはドイツのボン出身ですが、ウィーンを愛し、この街で活躍した音楽家として、深く足跡を刻んでいます。
そんなベートーヴェンの像はウィーンにいくつかありますが、そのうち二つをご紹介します。
一つ目は、ベートーヴェン広場にあるこちら。座った姿のブロンズ像で、台座には、縛られたプロメテウスと月桂樹を持った勝利の女神像があり、9つの天使像は、第九のアレゴリーとなっています。
この像、現在は大きな道に正面を向けていますが、建造当初は180度反対向きでした。この広場周辺の街並みが変わり、大通りが作られてから、ベートーヴェンが見る景色もかわったのですね。
もう一つのベートーヴェン像は、街から少し離れた緑豊かな公園の中にあります。
このハイリゲンシュタット公園は、ベートーヴェンが遺書を書いた住居からも近く、難聴の治療のために、当時ここにあった温泉に湯治に通っていたゆかりの地です。
この像は、散歩中のベートーヴェンの姿を再現していますが、後ろ手に帽子を持ち、ポケットには五線紙が入っているのが見て取れます。散歩好きなベートーヴェンは、この辺りを散策しながら、作曲の構想を得たと言われています。
●ハイドン像
モーツァルトと深い親交のあったハイドンは、オーストリアの貴族に楽長として長く仕え、晩年をウィーンで過ごしました。
ハイドン像も観光地から少し離れた辺りにありますが、ウィーン随一のショッピングストリート、マリアヒルファー通りに面した教会の前に立っています。
この像は元々、ハイドンが楽長を勤めた貴族エステルハージー家の屋敷の前に建てられる予定でしたが、その近くの別の場所に立てられた後、さらに移設され、今はこの教会の前から、人が行きかう通りを見下ろしています。
●ブラームス像
ブラームスもドイツ人ですが、ウィーンで数々の作品を残した、ウィーンにゆかりの深い作曲家です。
ブラームス像は、カールス教会の前に広がるレッセル公園の茂みの中の静かな場所に、堂々と置かれています。
足元には、古代ギリシャの竪琴を持った音楽のミューズが横たわり、ブラームスは恍惚と耳を傾けているように見えます。
ブラームスの最期の家が、この公園から一筋入った建物だったため、ここに像が立てられたのですが、この場所に行ってみると、もう一つ立地の妙に気が付きます。このブラームス像の目の前に、世界的に有名な音楽の殿堂、楽友協会が目に入る位置にあるのです。毎年新年には、ブラームス像にもウィーンフィルのニューイヤーコンサートが聞こえてくるのかもしれませんね。
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音楽の町、ウィーンの音楽家像探し散策、いかがだったでしょうか?
実際は、胸像や屋内も含めると、ここでは紹介できないほどたくさんの像がありますが、今回は屋外にあり、だれでも訪れることができるものをご紹介しました。
ウィーンは、音楽家の記念碑や、住居、ゆかりの地などが星の数ほどあります。ぜひゆっくり時間を取って、お好きな音楽家の足跡をたどってみてくださいね。
文・写真/御影実
オーストリア・ウィーン在住フォトライター。世界45カ国を旅し、『るるぶ』『ララチッタ』(JTB出版社)、阪急交通社など、数々の旅行メディアにオーストリアの情報を提供、寄稿。海外書き人クラブ(http://www.kaigaikakibito.com/)会員。