取材・文/関屋淳子
オーストリアの首都・ウィーンは芸術の都、音楽の都と称されます。サライ世代には人気の旅行先ですが、まだまだ知られていない素晴らしい食文化があります。
そこで3回にわたって、ウィーン商工会議所により「ウィーンプロダクツ」の称号を与えられた企業が、歴史や伝統製法を守りながら築いてきた、ウィーンならではの食の世界をご紹介します。
今回は、ウィーン近郊で養殖されている「エスカルゴ」についてご紹介します。
■エスカルゴは未来のフード
ウィーン市郊外、小麦畑が広がる地区の一角に、エスカルゴを養殖する農家『ググムク(Gugumuck)』があります。代表であるアンドレアスさんは、IBMのコンサルタントとして働いていましたが、フューチャーフードとしてのエスカルゴの可能性を信じ、実家でエスカルゴ養殖を始めたとのこと。
エスカルゴと言えばフランス料理と思いがちですが、もともと古代ローマ時代から食用とされ、当時の料理本『アピシウス』にもレシピが記載されていました。やがてキリスト教の断食の際の食として、ヨーロッパ全土に広まり、かつてはオーストリアでもよく食されていたと言います。
ウィーンにはエスカルゴ市場があり、修道院でも養殖が行われていました。しかし、エスカルゴは貧しい人々の食べ物、あるいはエスカルゴを食べるのは残酷だなどの風潮から、食用の習慣がなくなってしまいました。
アンドレアスさんによると、エスカルゴは、カルシウムの多い土地での栽培が適しており、ブドウ畑が多くミネラル豊富なウィーンの土地には最適であること、狭い土地でも養殖ができること、もともと生息しているエスカルゴなので病気に強く繁殖力があること、牛肉の2倍のたんぱく質がありながら低カロリーなので肉に代わるヘルシー食材になること……などなど、いいこと尽くめです。
養殖場を見学すると、畑の木の覆のなかで、ハーブやキャベツ、ニンジンなどを餌に大きく育つエスカルゴの姿が確認できました。覆の周りには、外敵からエスカルゴを守るための電気網が取り付けられています。
湿度を好むエスカルゴのために水をまき、殻を固くするためにカルシウムを与え、約3か月で出荷できるそうです。
収穫されたエスカルゴを、ガーリックバター&チーズなど3種類の焼き方でいただきました。プリプリの身は食べ応え抜群! 卵は魚卵のようでプチプチ、ハーブの香りが口の中で広がります。レバーはサザエの肝に似ていました。
『ググムク』では、エスカルゴのフルコースが楽しめるビストロも併設され、その美味しさを堪能できます。
今回は、ウィーン近郊で養殖されているエスカルゴについてご紹介しました。次回はウィーンの旨い酒をご紹介します。
取材協力/
ウィーン商工会議所
http://www.wienproducts.at/?lang=ja
オーストリア大使館商務部
http://www.advantageaustria.org/jp/
◎取材・文/関屋淳子
桜と酒をこよなく愛する虎党。著書に『和歌・歌枕で巡る日本の景勝地』(ピエ・ブックス)、『ニッポンの産業遺産』(エイ出版)ほか。旅情報発信サイト「旅恋どっとこむ」(http://www.tabikoi.com)代表。