取材・文/坂口鈴香
「訪問診療」という医療サービスをご存知だろうか。知っている人でも、「昔の往診ですよね」「でも、自宅でしか利用できないんでしょ」という人は多い。
現在、高齢者ができるだけ住み慣れた地域で療養できるように在宅医療が推進されている。本来、医療機関で受けていた医療サービスを高齢者の住まいで提供するものが、在宅医療だ。
在宅医療には、「訪問診療」と「往診」とがある。「訪問診療」は「往診」とは別物だ。
「親の終の棲家をどう選ぶ? 要介護認定が必要なことさえ知らなかった~若年性認知症になった母」で登場した中野さんは、「(母親が入所している)特別養護老人ホーム(特養)では医療的なケアをしてくれないらしいので、今後が不安だ」と言っていたが、自宅以外の特養や有料老人ホーム、サービス付き高齢者向け住宅(サ高住)などの高齢者のための住まいでも、訪問診療や往診を受けることができる。
訪問診療とは
「訪問医療」とは、1週間から2週間に1回の割合で定期的、かつ計画的に医師が訪問し診療することをいう。訪問医は、24時間体制で在宅療養をサポートするので、急変時には緊急訪問したり、入院の手配をしたりと臨機応変な対応をしてくれる。
訪問医療を受けることができるのは自宅に限らない。特養や有料老人ホーム、サ高住などでも受けることができる。
どのような人が訪問診療を利用できるか
訪問医療を受けるのに、年齢や疾患の状況、程度について明確な基準はない。通院がむずかしいと判断されれば訪問医療を受けることは可能だ。
訪問診療の内容
診察の内容自体は外来診療と変わらない。全身状態を診察し、必要なら医療措置を行い、薬を処方する。入院治療が必要と見なされれば入院の調整も行う。
なお、薬は処方箋を持って薬局に行く必要があるが、希望すれば「薬剤師訪問サービス」を利用し、薬を配達してもらうこともできる。この場合、薬代のほか別途指導料が加算される。
訪問診療にかかる費用
定期的な訪問診療の場合、在宅医療の基本料金である在宅時医学総合管理料(施設の場合は施設入居時等医学総合管理料)、在宅患者訪問診療料(定期訪問時にかかる料金)などで、かかった医療費の1割から3割を自己負担する。また検査や処置、往診などを行った場合は、加算される。
往診とは
「往診」とは通院できない患者の要請に応じて、医師がその都度診療を行うことだ。基本的に、往診は臨時の手段である。
居宅療養管理指導とは
訪問診療と似ているサービスとして、居宅療養管理指導がある。これは通院することが困難な人を対象にし、医師や歯科医師、薬剤師などの専門職が訪問し、健康管理や指導を行う介護サービスだ。要介護1~5に認定されている人が月に2回(医師、歯科医師の場合)まで受けることができる。なお要支援1~2の人は、介護予防居宅療養管理指導を受けることができる。
居宅療養管理指導は自分の意思では利用することができず、医師などの指示が必要だ。また訪問診療とは違い、あくまでも健康管理上のアドバイスや指導を受けるもので、実際の治療は行わない。居宅療養管理指導と訪問診療を組み合わせて利用するのが一般的だ。
居宅療養管理指導費は、指導する専門職などで異なっており、1割から3割の自己負担割合に応じて支払う。
訪問医はどう選ぶ?
インターネットで検索しても、たくさんの医療機関がヒットして、どこを選べばよいのかわからないだろう。まずは、下記の機関に相談してみてほしい。
・かかりつけ医など通院している医師や医療機関
・地域包括支援センター、ケアマネジャー、訪問看護ステーション
・病院の医療連携室・相談室の医療ソーシャルワーカー
訪問診療だけでなく、往診をしてくれることが不可欠だ。急変などに備えて365日24時間の対応をする必要があるため、ある程度のマンパワーがないと体制的に難しいだろう。自宅から近い方がよいのはいうまでもない。
医師との相性もある。実際に付き合ってみないとわからない部分も少なくない。合わなければ、遠慮せずに変更しよう。
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今回は、訪問診療をはじめとした在宅医療について解説した。
施設に入っているから、訪問診療は無理と思っている人は少なくない。通院のたびに家族が仕事を休んで付き添うのが負担になっている人もいるだろう。そういう場合こそ、訪問診療を検討してほしいと思う。訪問診療と並行して別の病院を受診することも可能だ。
これからかかりつけ医を探そうと考えているなら、今後のことを考えて訪問診療もしてくれるかどうかを目安としてもいいだろう。
なお、介護サービスを利用限度額(※)いっぱいまで使っていても、訪問診療や往診は医療サービスであり、医療保険が適用されるので、介護保険とは別枠で使うことができる。介護保険が適用される居宅療養管理指導も、介護保険限度額の対象外となっている。
※要介護度によって、介護保険で利用できる1か月の上限額が決まっている
取材・文/坂口鈴香
終の棲家や高齢の親と家族の関係などに関する記事を中心に執筆する“終活ライター”。訪問した施設は100か所以上。20年ほど前に親を呼び寄せ、母を見送った経験から、人生の終末期や家族の思いなどについて探求している。