取材・文/糸井賢一(いといけんいち)
ただの乗り物なのに、不思議と人の心を魅了する自動車とオートバイ。ここでは自動車やオートバイを溺愛することでオーナーさんの歩んだ、彩りある軌跡をご紹介します。
今回、お話をうかがったのは東京都青梅市にお住まいの会社員、小林和年さん(50歳)です。家業を継ぐべく建設業に勤めるも、自身にあわないと退職。製造業をはじめ、いくつかの企業に勤めた後、今の職場に就職します。42歳の時、友人の紹介により今の奥様と出会い、1年の交際を経て結婚。現在に至ります。
クルマに興味のなかった少年時代。フェアレディZを見かけ、心を奪われる
東京都の西側に位置する、緑の多い青梅市内にて産声をあげた和年さん。子どもの頃は戦車や『宇宙戦艦ヤマト』、『機動戦士ガンダム』といった、ミリタリー色の強いプラモデル作りに熱をあげていました。さほどクルマに興味を抱くことはなく、多くの子どもたちを熱狂させたスーパーカーブームにも、『サーキットの狼』のプラモデルや、ボールペンのノック機能を用い、机の上から互いを落とし合う「スーパーカー消しゴム遊び」で、間接的に触れる程度でした。
そんな和年さんに転機が訪れたのは、中学生になってから。1983年にデビューした日産の三代目『フェアレディZ(Z31型)』を一目見るや視線が釘付けとなり、翌年に追加されたTバールーフ仕様で、すっかり心を奪われます。
「理想のグレードは『300ZX』。理想の仕様はマニュアル(トランスミッション)の2シーター、Tバールーフでした。ディーラーに行ってカタログをもらい、『Zを買ったら、あのエアロを付けよう』とか、一人で想像していました。今にして思えば、よくあのセールスは中学生にカタログをくれたと感心します」
ご実家は建設に関わる事務所を経営され、
高校在学中に普通自動車免許を取得した和年さん。卒業後、収入を得るようになったこともあってクルマの購入を検討します。
「もちろん一番欲しいのは300ZXですが、やはり高価すぎて、アルバイトの若造にはとても手が出せませんでした。Z31には排気量が2リッターのグレードもありましたが、同じ2リッターなら七代目『スカイライン(R31型)』の方が、ずっとスポーツカーとして先進的で魅力的でした。ほぼ同じ時期に施されたマイナーチェンジにより、その差がますます広がったこともあって、R31のスポーツクーペ『GTS-X』を購入しました」
20歳を迎えるころ。自身が建設や経営には向いていないことを悟った和年さんは、家業に関わることをあきらめ、大手家電企業に正社員として就職。パーソナルコンピューターを製作する部署へと配属されます。
そして就職から1年を過ぎたある日。ちょっとした気の緩みから単独事故を起こしてしまいます。幸い、和年さんに大きな怪我はなく、また誰も巻き込むことはなかったのですが、ガードレールにぶつかったGTS-Xの修復は難しく、廃車を余儀なくされます。
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