甘酒を用いて味噌床を作り
魚は塩をして酒をくぐらせる

東京・神宮前にある『日本料理一凛』の店主・橋本幹造さん(47歳)は、京都の名店などで修業を積み、各地の魚料理にも詳しい。そんな橋本さんに習うのは、鯛を用いた西京漬けと松前漬けだ。

調理指導 橋本幹造さん (『日本料理 一凛』店主)

調理指導 橋本幹造さん (『日本料理 一凛』店主)

西京漬けは、関西地方などで作られている甘みの強い西京味噌を使った魚料理で、平安時代から食される代表的な京料理のひとつだ。

「美味しい魚をさらに美味しくし、味が落ちる魚も美味にするのが西京漬けです。店では魚を漬ける味噌床を半年以上寝かせ充分に発酵させますが、甘酒を使えば、すぐに使える味噌床を作れます」

橋本さんは、甘酒を用いる理由を次のように語る。

「甘酒は旨みのある発酵食品なので、寝かせた味噌床のようになるからです。さらに酒粕も加えることで、旨みと風味が増します」

西京漬けには、程よく脂が乗った鯛や鰆など白身魚が合うそうだ。

「美味しく作るコツは、魚の切り身に塩をまぶし、酒にくぐらせてから漬けること。魚の旨みを逃さず余分な水分だけ抜け、味噌床の旨みが染み込みやすくなります。最低3時間漬ければ食せます」

鯛の西京漬け

【材料(作りやすい分量)】

手前は鯛の皮付き半身(松前漬け共用)。奥左から液状酒粕100g、西京味噌200g、甘酒100g。

手前は鯛の皮付き半身(松前漬け共用)。奥左から液状酒粕100g、西京味噌200g、甘酒100g。

 

【手順】

鯛は厚さ約3cmに斜め切りする。1回分の漬ける量は約5切れ。味噌床は3~4回使える。

鯛は厚さ約3cmに斜め切りする。1回分の漬ける量は約5切れ。味噌床は3~4回使える。

切り身に塩(分量外)をまんべんなくまぶす。塩の量はたっぷりめにすりこむ。

切り身に塩(分量外)をまんべんなくまぶす。塩の量はたっぷりめにすりこむ。

5分ほどして切り身の表面に水分が浮いてきたら、日本酒(分量外)にくぐらせて塩を落とす。

5分ほどして切り身の表面に水分が浮いてきたら、日本酒(分量外)にくぐらせて塩を落とす。

チャック付きポリ袋に全ての材料を入れ袋ごと揉む。平らにし空気を抜きチャックを閉める。

チャック付きポリ袋に全ての材料を入れ袋ごと揉む。平らにし空気を抜きチャックを閉める。

冷蔵庫で3時間寝かせたら切り身を取り出し、キッチンペーパーなどで味噌を拭き取る。

冷蔵庫で3時間寝かせたら切り身を取り出し、キッチンペーパーなどで味噌を拭き取る。

魚焼きグリルで焼く場合は約5分強火でグリルを温める。火を消し、切り身を入れ、約5分置く。弱火で皮の見える側を約7分、裏を約5分焼く。焼き上がったら刷毛などで表面に味醂(分量外)を塗ると甘みが加わり、より美味しい。

魚焼きグリルで焼く場合は約5分強火でグリルを温める。火を消し、切り身を入れ、約5分置く。弱火で皮の見える側を約7分、裏を約5分焼く。焼き上がったら刷毛などで表面に味醂(分量外)を塗ると甘みが加わり、より美味しい。

西京漬けは焼いて食す。魚の旨みと味噌床の旨みが溶け合う。手前は食用菊の酢漬け。西京焼きには、酸味のあるあしらいが合う。

西京漬けは焼いて食す。魚の旨みと味噌床の旨みが溶け合う。手前は食用菊の酢漬け。西京焼きには、酸味のあるあしらいが合う。

刺身の残りでも具材になる

松前漬けは細切りの昆布と数の子やイカなどを醤油に漬け込んだ北海道の郷土料理で、江戸時代から食されてきた。

「納豆昆布や乾燥ふのりを使うと、切る手間が省けます。鯛や帆立貝なども具材になるので、それらの刺身が余った時は松前漬けにすれば、無駄になりません」

納豆昆布は粘り気のあるがごめ昆布と、旨みのある真昆布を細切りにした乾物だ。ふのりも海藻の一種で、松前漬けには乾物を使う。

「乾物は水で戻すと傷みやすいので、そのまま使います。日本酒を煮詰めてアルコール分を飛ばし、旨みだけを残したにきり酒を加えることで、味に深みが出ます」

約1時間漬け込めば食せ、冷蔵庫に保管すれば2~3日は美味しく食べることができる。

昆布は乾物のまま使い
にきり酒の旨みで味を深める

鯛の松前漬け

【材料(作りやすい分量)】

手前は鯛の皮付き半身(西京漬け共用)。奥は左が乾燥ふのり5g、右が納豆昆布30g、中央は醤油大さじ2、にきり酒大さじ2(倍量の日本酒を煮詰めて作る)

手前は鯛の皮付き半身(西京漬け共用)。奥は左が乾燥ふのり5g、右が納豆昆布30g、中央は醤油大さじ2、にきり酒大さじ2(倍量の日本酒を煮詰めて作る)

 

【手順】

鯛の皮を取り除いて、約3mm幅に5〜8枚斜め切りする。市販の鯛の刺身を用いてもよい

鯛の皮を取り除いて、約3mm幅に5〜8枚斜め切りする。市販の鯛の刺身を用いてもよい。

切り身に醤油を2〜3滴垂らして指で揉む。魚の旨みを引き出すための作業だ。

切り身に醤油を2〜3滴垂らして指で揉む。魚の旨みを引き出すための作業だ。

容器に切り身以外の材料を入れ、手で海藻類をほぐしながら混ぜる。切り身を加え、混ぜ合わせる。

容器に切り身以外の材料を入れ、手で海藻類をほぐしながら混ぜる。切り身を加え、混ぜ合わせる。

チャック付きポリ袋に全ての材料を入れる。平らにし空気を抜きチャックを閉じて冷蔵庫に入れる。

チャック付きポリ袋に全ての材料を入れる。平らにし空気を抜きチャックを閉じて冷蔵庫に入れる。

松前漬けは用いる魚介によって、様々な味を楽しめる便利な一品だ。やや鮮度が落ちる魚介でも、松前漬けにすれば美味しく食べられる。

松前漬けは用いる魚介によって、様々な味を楽しめる便利な一品だ。やや鮮度が落ちる魚介でも、松前漬けにすれば美味しく食べられる。

 

 

日本料理 一凛

●日本料理 一凛
東京都渋谷区神宮前2-19-5 AZUMA BUIL2階
電話 03・6410・7355
昼は12時30分~13時入店、15時閉店。夜は18時~20時入店、22時閉店。
来店日の1か月前から1週間前までに要予約。
日曜、祝日は4名以上での予約のみ。キャンセル料あり 
休業日 不定 38席。
料金 コース料理のみ、1万5000円、2万円 
カウンター席8、テーブル席2(各4名)、個室1(8名、予約は4名以上)。

※この記事は『サライ』2018年12月号の「魚料理大全」特集より転載しました。本文中の年齢・肩書き等は掲載時のものです(取材・文/諸井里見 撮影/宮地工)。

 

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