取材・文/渡辺陽
平日は、仕事が忙しくてゆっくり眠れない。土日にしっかり寝だめしているから、月曜日の朝はスッキリ迎えられるはずなのに、なぜかだるくてしかたない。そんなあなたに朗報! 日頃の睡眠負債を上手に返して、月曜の朝をすがすがしく迎える方法があるんです。快眠セラピストの三橋美穂(以下、三橋)さんに教えていただきました。
――土日が休みの場合、土曜は早起きして活動して、日曜はゆっくり寝たほうがいいのでしょうか。
三橋 「日頃忙しくて睡眠負債がたまってしまう方の場合、その負債を早めに返すことが大切です。睡眠不足のまま走り続けても何もいいことはないからです。たとえば6時間睡眠の日が2週間続くと、普通の人は脳が2晩徹夜したのと同じ状態になってもうろうとしてしまいます。一週間寝不足のまま仕事をして、土日の休みを利用して長時間眠っても、それは単に睡眠負債を返したというだけのこと。体内時計が狂ったままでは疲れが取れず、仕事の効率を上げることができません」
――休日に睡眠時間を長くするだけでは、体内時計の調整ができないのですね。
三橋 「土日にたっぷり寝たのに、かえって疲労感が強くなるのは、朝寝坊のせいで体内時計が乱れてしまうからです。これは、時差が大きい海外へ渡航したときに起こる『時差ボケ』と同じ状態になるのです。
土日が休みの方の場合、土曜にいろいろ予定を入れて、日曜は月曜に備えて、一日中寝て過ごそうという方もいるでしょう。しかし、睡眠負債は、『土曜日』に返すことが基本です。重要なのは、土曜日の朝の起床時間を、いつもより1時間以上遅らせないようにすることです。いつも午前6時に起きているのなら、午前7時には起床します。午前7時になったら、とにかく一度起きて朝日を浴び、朝ごはんを食べて体内時計をリセットしましょう。
それでも眠り足りないと感じたら、『午前中のうちに』もう一度眠るといいでしょう。午前中に眠ると、その日の夜の眠つきが悪くならないので、できるだけ午前中に眠ります。金曜日の就寝時間を1時間早めて、起床時間を1時間遅らせるという方法なら、睡眠の軸がブレないのでベストです。23時に寝て、7時に起きるという方法です」
――土曜の午前中に眠るのと午後に眠るのには、違いがあるのでしょうか。
三橋 「たとえば、金曜日の0時に眠って土曜日の午前7時に起床したとします。いったん起きて、また午前中に2時間眠ったら、いつもより3時間長い睡眠が取れたことになります。しかし、午前中に眠らないで、土曜日の14時から2時間昼寝をすると、睡眠負債は返せても夜0時になっても眠くならず、体内時計が乱れてしまうのです。いつもよりたくさん眠って睡眠負債を返すだけでなく、土日のうちに体内時計を正常なコンディションに戻して、活力を養うのが上手な睡眠負債の返し方です」
――朝日を浴びるといいというのは、なぜなのでしょうか。
三橋 「朝日を30分以上浴びると睡眠ホルモン『メラトニン』の分泌が止まり、『セロトニン』という物質が増えてきます。必ず外で浴びる必要はなく、室内でも、雨戸やカーテンを開け、陽当りのいい明るい窓際1m以内にいるようにしましょう。秋冬は日照時間が少なくなり、曇りや雨のが増えるので、室内の照明を明るくするようにします。
セロトニンが分泌されると、気持が明るくなり、やる気が高まり、さらにはマスタークロックと呼ばれる脳の奥深くにある体内時計の親時計を調整することができます。やがて夜になるとセロトニンはメラトニンに変わるので、眠りやすくなるのです」
――日曜はどんなふうに過ごせばいいのでしょうか。
三橋 「土曜日と同様に過ごして、体内時計を乱さないように、上手く睡眠負債を返済してください。」
三橋美穂(快眠セラピスト・睡眠環境プランナー)
寝具メーカーの研究開発部長を経て、2003年に独立。これまでの20年間に、1万人以上の眠りの悩みを解決してきており、特に枕は頭を触っただけで、どんな枕が合うかわかるほど精通。全国での講演や執筆活動のほか、寝具や快眠グッズのプロデュース、ホテルの客室コーディネートなども手がける。著書に『驚くほど眠りの質がよくなる睡眠メソッド100』(かんき出版)『CDを聞いて ゆったり深~く眠れる本』(PHP研究所)ほか多数。http://sleepeace.com/
取材・文/渡辺陽(わたなべ・よう)
大阪芸術大学文芸学科卒業。「難しいことを分かりやすく」伝える医療ライター。医学ジャーナリスト協会会員。小学館サライ.jp、文春オンライン、朝日新聞社telling、Sippo、神戸新聞デイリースポーツなどで執筆。