【ビジネスの極意】労働時間の問題だけではない|本当の働き方改革とは何か?

働き方改革というと、時短勤務やノー残業デー、といった労働時間の短縮が取り上げられることが多い。だが、労働時間を短縮することだけが、働き方改革なのだろうか?

マネジメント課題解決のためのメディアプラットホーム「識学総研」より、本当の働き方改革について考察してみよう。

* * *

労働時間を短縮することが本当の働き方改革なのか?

日本政府が推奨する働き方改革の狙いとは

日本では少子高齢化により人口が減少し、2013年に12,730万人だったのが2060年には8,674万人まで大きく減少することが予測されています。[1]

そこで政府は労働者が多様な働き方をすることが出来る社会を実現させるため、長時間労働の是正、多様で柔軟な働き方、雇用形態に関わらない公正な待遇の確保を目指し、働き方改革を打ち出しています。[2]

日本の労働時間は長いのか

しかし、本当に日本の労働時間は長いのでしょうか。

経済開発協力機構の調査によると2017年の日本の年間労働時間は1,710時間でした。[3]ドイツの1,356時間に比べれば長時間労働になりますが、世界平均1,725時間と比べると一見平均並みの労働時間と言えます。

ただしこれには日本特有の“サービス残業”のようなものはカウントされていません。裁量労働制が国会で議論された時にデータの不備が散見されましたが、実際の日本の年間労働時間は1,710時間よりずっと高いのではないかという印象があります。

2018年の土日祝日は合計117日。年末年始休暇が3日、お盆休みを3日とすると休日総合計は123日、勤務日は242日となります。

仮に日本の年間労働時間を1,710時間とすると、242日働いた時の1日あたりの労働時間は7.1時間です。

通常の勤務時間が午前9時から午後5時の8時間として、昼食やその他の休み時間で1時間近くになることを考えると、日本人の殆どの人は残業をしていないことになってしまいます。

会社によっては完全週休二日制でないなど勤務形態が様々ですから、こうした単純な計算にはならないかも知れませんが、年間労働時間1,710時間というのは現状と合わないような印象があります。

そこで少し修正をしてみましょう。

仮に1日1.5時間の残業があるとすると、1年間242日勤務として年間労働時間は363時間増加します。(月30時間の残業)これを経済開発協力機構が発表している年間労働時間1,710時間に加算すると2,073時間となります。

これは労働時間ランキング第3位韓国の2,024時間と同じレベルです。残業なしというより、月30時間の残業の方が実態に近いと感じるのではないでしょうか?そうなると、第3位の韓国と肩を並べる日本の労働時間は長いと考えて良さそうです。

日本の労働時間が長くなってしまう要因

それでは何故日本の労働時間は長くなってしまうのでしょうか?主な原因としては下記が考えられます。

・社員が増えないのに仕事量は増加している。
・上司が帰らないと部下が先に帰れない雰囲気がある。
・サービス残業が普通に行われている。
・残業代は生活費を稼ぐために必要であり、給与の一部として考えられている。
・ムダがあっても改善されない問題先送りの社風がある。
・ブラック企業と呼ばれるような会社でも転職を考えない。

人口減少が加速する日本では新規採用も年々難しくなり、今後も労働人口が減ることになりますから、仕事量を減らさない限り残業は増加し続けます。

そうした事態にありながら、日本では最初から最後まで一言も発言しない人が多数参加するような会議が未だに減らない傾向があります。

ひどい場合には参加者は内職しながら他の仕事をしています。本当であれば極力無駄を排除した上で、どの仕事を減らすのか決めなければなりません。

しかし私の経験からですが、日本では失敗を恐れるためか決定権者が決断をせずに先送りする傾向が強いように感じます。何も決められなければ、何時までも残業を減らすことは出来ません。

無駄も排除せず、人員も増加せず、仕事量だけは増えて行くような状況では、サービス残業でもしなければ仕事が回って行きません。

しかし本当に仕事をしているのであれば、本来は堂々と残業代を請求すべきなのです。また人員増加がなければ仕事が回らないのであれば、会社側に要求することも必要でしょう。
それを拒絶して残業代を払わない会社だったり、従業員の健康に関心を払わないような会社であれば、早く見切りをつけて転職すべきだと思うのですが、なぜか日本ではそういう会社にさえも残る傾向があるように思います。

例えば、先日もクイズに正解したら有給休暇が取れるとしたマネージャーのいる会社がニュースで出てましたが、多くの社員が残っているのは不思議な現象です。[4]
もし自分がその会社に勤務していたら即刻辞めるでしょうし、またそうした考えの人が大勢であれば、従業員がいなくなってしまい会社は機能せずに倒産しているはずです。ブラック企業でも従業員が残ってくれるのであれば、会社としても改善に取り組む必要性を感じなくなってしまいます。

また自分の仕事が終わっても帰れないのであれば、誰も効率を上げて仕事しようとは考えませんから、生産性が上がる事もなく残業も減りません。

また残業代が生活費の一部になり、それを出来るだけ多く稼ごうとすれば、作業効率を上げるより長く会社にいることが重要となるので残業が減ることはありません。

労働時間を短縮するだけの問題点

長時間労働=ブラック企業=悪という図式が作られることもあり、コンプライアンスの観点から日本の企業は労働時間の短縮を進めています。

しかし問題解決の決定を先送りにしたままで仕事量を減らすことなく、また無駄を減らす努力をすることなく労働時間だけを短縮しようとすれば、全く仕事が回らないか、仕事の質が大幅に低下してしまいます。それでは海外競合企業と競争して生き残って行くことは不可能です。

競合企業と戦いながら会社からは残業規制による労働時間短縮の要求が来れば、必然的にサービス残業は増えて行きますので、実際の労働時間は殆ど変わらないか、あるいはサービス残業として見えない部分が増えて来るので制限がなくなってしまう可能性も否定出来ません。

やがては仕事量の多さに耐えきれなくなり、健康や精神状態を害する人が多数出て来るため、更に労働人口が減る悪循環に陥ってしまいます。

一億総活躍社会といって女性の活用を訴えていますが、女性にサービス残業や長時間労働を強要していては、子育てに対する懸念から更に出生率も下がってしまうと予測されます。これでは何時まで経っても悪循環から逃れられません。

労働に対する日本と欧米との意識の違い

実際に欧米系4社に勤務し、また5年間の北米勤務経験、また取引先企業などを見て来た経験からすると、欧米では日本に比べて、長時間労働の問題があまり取り上げられません。

日本では長時間労働による過労死という言葉がありますが、過労死にあたる英語はなくKAROSHIが英語として使われています。
今年の9月27日のニュースでも三菱電機株式会社の過労死の問題が取り上げられていました。[5]
日本ではこうした長時間労働に関する記事が取り上げられるのも数多く目にします。

一方で欧米では労働者が権利を主張してストライキやデモをするニュースは良く見るのですが、長時間労働を問題としたニュースを見ることはありません。
数社の外資系で働いて来た経験があり、またアメリカ駐在もしましたが、欧米人と話をする時に長時間労働が話題になったことはありませんでした。

労働時間が長くなる日本と比較して、なぜ欧米企業では長時間労働が問題となり難いのでしょうか?それには日本との考え方の違いがあるように思います。

欧米では決裁権が規定されているのでマネージャーの判断が早く、従業員側も判断出来ないマネージャーに対しては降格を求めますので、判断をしないマネージャーは残れません。
マネージャーを含めて従業員が、何も決断をせずに時間を浪費するのは無駄であるという意識が高いように感じます。

付加価値を生まないことに対しても、日本より敏感です。会議は欧米でも頻繁に開催されますが、全く発言しないような人は意味がないとみなされ、会議に呼ばれなくなります。

また上司がいるからと言って会社に残るだけなのは付加価値を生まない行為ですから、誰も評価してくれません。
従って自分の仕事が終われば早く帰宅出来ますので、如何に効率をあげて短時間で仕事を終わらせるかを考えるようになって来ます。

欧米のホワイトカラーは基本的に年俸制ですから残業代という概念がありません。自分の仕事が終わらなければ残って仕事をしますし、終われば早く帰ることもあります。労働時間で考えるのではなく、仕事の成果で考える習慣が身に付いているようでした。

欧米の会社では、ブラック企業化することも比較的少ないように思います。長時間労働を強要するような会社には優秀な人は残りません。

もし自分の勤務している会社がブラック企業だと思えば、躊躇なく転職して行きます。会社側も優秀な人材は繋ぎとめておきたいため、労働環境には非常に配慮するという好循環を生んでいるようです。

本当の働き方改革とは?

労働時間や環境から言えば、プロ野球選手、芸能人などはブラック企業にいるようなものかも知れません。しかし彼らからは長時間労働であっても不満は聞かれません。それは彼らが労働に対して、労働時間を軸に考えているのではなく、労働の内容と成果で考えるプロフェッショナルだからだと思うのです。

会社が長時間労働を強制するのは問題ですが、本来働き方は労働者本人が決めるべきものなのではないでしょうか?

日本のサラリーマンもプロフェッショナルとして自分の能力を高め専門性を追求して行けば、生産性も上がりますから結果的に労働時間も短縮されます。

プロフェッショナルとして実績を出せれば、早く帰ることに周囲も文句を言えなくなりますので、早く仕事を終わらせて帰宅するモチベーションも高くなります。

能力が高くなれば転職も有利になるのでブラック企業に残る必要はなくなります。企業側も優秀な人に辞められては困るので、ブラック企業では生き残っていけませんから、結果として長時間労働を強制することもなくなり、ブラック企業も姿を消して行くでしょう。

一億総活躍社会を実現するのであれば、企業がコンプライアンスだけを気にして労働時間短縮を叫ぶのではなく、労働者一人一人の意識が変わらなければ労働時間は有効な形では減少しません。

それを無理やり法制度で推し進めれば、日本企業として競争力が減るだけです。競争力が減少すれば販売価格を高く維持出来ないので、今よりも雇用を減らす必要が出て来ますが、そうなると一人当たりの仕事量は増えるので労働時間は増える方向になります。

労働時間を減らせるかどうかは労働時間そのものを短縮することに焦点を当てるのではなく、どうやって仕事の効率を上げるか、付加価値を高くするか考えることで、結果として労働時間が減らせるという、労働者側の働き方の意識改革がなくては何も変わらないのです。

付加価値創出は個人の働き方によるのではなく、ビジネスモデルによるのではないかという意見もあります。確かにビジネスモデルが優れていれば、ビジネスの成長や利益増加に有利なのは間違いありません。

しかし誰がやっても成功するような優れたビジネスモデルというのは数多く存在しません。またビジネス自体は結局人が行う訳ですから、その働く人達の仕事の付加価値が高くなくては、ビジネスの価値は高くなりません。

例えばトヨタ自動車が業績を伸ばしているのは、JIT(ジャスト・イン・タイム)などのビジネスモデルの付加価値が高いことが寄与しているのかも知れません。
しかし私が取引き経験から見たトヨタ自動車の成功の秘密は、そこで働いている人達が常に危機感を持ち、時間x効率x成果を高めるための努力を続けている従業員の意識の高さだと思うのです。
労働時間を長くすれば誰にでも出来ることを、如何に効率よく短い時間でやれるようにするか。
そうした訓練を積み上げた結果、トヨタ自動車の社員の付加価値は非常に高まり、どこに行っても通用する人材となっているのです。

【参照】
[1]http://www5.cao.go.jp/keizai-shimon/kaigi/special/future/sentaku/s2_1.html内閣府 人口・経済・地域社会の将来像
[2]https://www.kantei.go.jp/jp/content/20180706gaiyou.pdf内閣府 働き方改革 概要
[3]https://data.oecd.org/emp/hours-worked.htmOECDDataHoursWorked 経済開発協力機構 労働時間
[4]http://www.news24.jp/articles/2018/08/20/06401841.html日テレNEW24 “クイズ正解で有給休暇”支店長を処分へ
[5]https://news.yahoo.co.jp/pickup/6298150三菱電機株式会社 Yahoo!JapanNews

* * *

いかがだっただろうか。働き方改革とは、単に労働時間を短縮させるだけではなく、労働の質を向上させなければならない、ということであり、そのためには、いかに労働に対する意識を高めるか、ということがポイントのようだ。

引用:識学総研 https://souken.shikigaku.jp/

 

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