文/中村康宏

前回の記事『「疲労物質=乳酸」はもう古い|「疲れ」はどこから来るのか』で疲労には末梢性疲労と呼ばれる「カラダの疲れ」と中枢性疲労と呼ばれる「脳の疲れ」が存在することを解説しました。その両者は表裏一体の関係ですが、それぞれ、疲れを感じるメカニズムは異なり、それに応じた対処法も異なります。そこで今回は「カラダの疲れ」と「脳の疲れ」両者のケアの仕方について解説したいと思います。

■カラダの疲れは身体を休める事が大切!短い休息は疲労の蓄積につながります!

まず、睡眠と休息の違いをご存知でしょうか?脳が眠っている状態の「睡眠」と、単に活動を止めているだけで眠っていない状態の「休息」は異なるのです。睡眠は体内時計の影響を受けますが、休息はその影響を受けず、休息の量はカラダの疲労度に比例関係にあります。つまり、寝る、または、横になってカラダを休める時間が短いとカラダの疲労は蓄積していきます。(*1)

しかし、休息だけではなく、6時間以上の睡眠時間と良い睡眠を取る事が必要です。なぜなら、脳が眠っている状態の睡眠中に、カラダの修復を促すホルモン「成長ホルモン」と、その成長ホルモンの分泌を促したり強い抗酸化作用をもつホルモン「メラトニン」が分泌されるからです。

成長ホルモン:成長ホルモンは脳の下垂体という所から分泌されるホルモンで、その名の通り、身体の各器官に働きかけて成長を促したり傷ついた組織を修復したりする作用があります。この成長ホルモンの分泌は加齢に伴って減少することが知られています。思春期にピークを迎えた後、成人期には50%以下、70歳代では30%以下の分泌量となってしまいます。(*2)成長ホルモンが低下すると、疲れやすさ・スタミナ低下・集中力低下・気力低下・認知機能低下・筋肉量の減少・内臓脂肪の蓄積を認めるようになります。まさにこれは加齢で認められる症状に類似しており、加齢に伴う成長ホルモン分泌低下の事実と併せて、成長ホルモンの疲労回復効果・アンチエイジング効果に今注目が集まっているのです。(*3)成長ホルモンを分泌させる最も重要なことは「寝る事」です。快眠を得るためには、

(1)習慣的に同じ時間に寝るようにする
(2)眠る前に気持ちを落ち着かせる(後述の「自律神経」参照)
(3)眠る前に明るい光に晒されないようにする(後述の「メラトニン」参照)

の三点に注意するようにしましょう。

●メラトニン:メラトニンは、強力な抗酸化力をもつ「アンチエイジングホルモン」として今注目を集めています。メラトニンには体内時計のリズムを司り、睡眠を促して体を休ませ、成長ホルモンの分泌を促す役割があります。上記のような成長ホルモンの効果を十分発揮させるには、メラトニンをきちんと分泌させることが重要です。メラトニンの分泌を促すためには、寝る前は明るい光を浴びないようにすることがポイントです。これは、メラトニンは明るい光によって分泌が阻害されてしまうためです。睡眠時は室内を暗くし、スマートフォンやPCの画面も極力見ないようにすることが重要です。また、メラトニンの材料となる「トリプトファン」と呼ばれるアミノ酸が多く含まれる赤肉、大豆、アーモンド、ブロッコリーを多く含む食べ物を摂取することもメラトニン分泌を促す効果があると言われています。逆に、メラトニンの分泌を妨げるカフェインは寝る前には摂らないようにしましょう。(*3)

■カラダを修復するための材料である「栄養」も重要

タンパク質:タンパク質はカラダ、特に筋肉の疲労回復の原料となるため、疲れたときのタンパク質補給は必須です。特に糖質との摂取割合が重要で、筋疲労の回復には糖質:タンパク質=3- 4 : 1 の割合を含んだ栄養 補給を行うことで筋グリコーゲンの貯蔵を促し、運動後に筋肉が壊れるのを防ぎ疲労回復を促進することが報告されています。(*4)

炭水化物:低糖質ダイエットが流行っていますが、やりすぎは禁物です。炭水化物(糖質)が不足している状態だと、筋肉を分解することでエネルギーが作り出されます。そのため筋肉量が減り、筋肉合成量も低下します。さらに、筋グリコーゲンの蓄えが少なくなることが筋肉疲労の原因言われています。(*5)疲れにくいカラダを作るためには糖分が必要です! 逆に、疲れやすさを自覚している人は間違った糖質制限をしていませんか?

●アミノ酸:アミノ酸はすぐに吸収され、エネルギー代謝や疲労回復に効果的という報告がなされています。例えば、アミノ酸の一種である「タウリン」摂取の効果として、抗酸化作用の他に、筋疲労の軽減に対しても有効であるとされています。(*6)また、スポーツで頻用される「分岐鎖アミノ酸(BCAA)」は筋肉で直接分解される必須アミノ酸で、筋肉でのエネルギー源になるとともに筋肉を作り筋肉の分解を防ぐ作用があるとされています。そのため、BCAAの積極的な摂取は疲労回復促進に対して有効に作用 する可能性があると考えられています。(*7)

●電解質(ミネラル):汗などでナトリウムなどが失われると熱中症のような症状に陥り倦怠感をはじめとする諸症状が全身で起こります。また、マグネシウムは血中から筋細胞や脂肪細胞に取り込まれてエネルギー産生のために利用されますが、マグネシウムが消費されて血中濃度が低くなるとエネルギーを生み出すのに支障を来たし、パフォーマンスが落ちてしまいます。(※8)。

■脳の疲れをとるキーワードは「抗酸化」「睡眠」「リラックス」!

脳の疲れの原因の一つは酸化ストレスであり、自律神経やホルモンバランスに悪影響を及ぼし、疲労や生活習慣病など様々な病気をもたらします。酸化ストレスが自律神経に影響を及ぼすとともに自律神経も脳内の酸化ストレス発生に寄与します。疲れを感じるメカニズムは複雑で難しいですが、酸化ストレス、自律神経、ホルモン分泌(前述)などの様々な角度からアプローチして行く事が脳の疲れ対策には重要です。

酸化ストレス:酸化ストレスを抑えるには十分な睡眠時間の確保はもちろんですが、酸化ストレスを処理するためにビタミンCなどの抗酸化物質を多く摂取することが重要です。ストレス社会の今日において、脳の疲れを取るために抗酸化物質が使われ、肌や免疫に使われるビタミンCが不足しがちです。野菜やサプリメントを積極的に摂るようにしましょう。

自律神経:自律神経のバランスを整えることは、寝つきを良くする、脳の疲れを取る、成長ホルモンやメラトニンなどの働きを向上させる、などに欠かせない要素のひとつです。(*9)オススメは、寝る前の半身浴です。半身浴は気持ちを鎮める働きをする副交感神経が優位になります。さらに、入眠は体内の熱を放散する時に起こることがわかっているため、体温を高めておくとスッと眠りにつくことができます。特に、冷え性の人は意識して寝る前に半身浴するようにしましょう。

以上、疲れの取り方について解説しました。脳の疲れもカラダの疲れも「睡眠」「食事」「リラックス」が重要な要素なのですね。また、疲れている、だるい、よく眠れない、、これらの症状は掴み所のない「プチ不調」ですが、放置してうつ病や生活習慣病にならないようにする事が大切です。これら3つのキーワードからあなたのライフスタイルを見直してみてはいかがでしょうか。

【参考文献】
1.Hum Neurobiol 1982; 1: 195-204
2.Science 1997;278:419-424
3.Clin Interv Aging 2008;3:121-129
4.NUTRIENT TIMING, Basic Health Publications, Inc, USA, 47-66, 2004.
5.乳酸を活かしたスポーツトレーニング 講談社
6.J Orthop Sci 2003: 8; 415-9
7.J Nutr 2004: 136; 529S-32S
8.臨床スポーツ医学 1990: 7; 1417
9.Cell 2008 ; 134 : 317-328


文/中村康宏
医師。顧問ドクター。アメリカ公衆衛生学修士。関西医科大学卒業後、虎の門病院で勤務。病気発症予防・増悪予防の必要性を痛感し、アメリカ・ニューヨークへ留学。現地クリニックで予防医療の最前線を学びながら、大学院で公衆衛生修士号を修得。帰国後は、日本初のアメリカ抗加齢学会施設認定を受けた「虎の門中村康宏クリニック」を開業し、院長を務め、未病治療・健康増進のための医療を提供。

 

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