取材・文/池田充枝
イタリア・ルネサンスの巨匠、ミケランジェロ・ブオナローティ(1475-1564)は、彫刻、絵画、建築のすべての分野で名を成し「神のごとき」と称された万能の人でした。彼がシスティーナ礼拝堂に描いた《アダムの創造》と《最後の審判》の絵はあまりにも有名です。
しかし、彼自身は自らを語るとき「彫刻家」という肩書にこだわりました。20代前半に完成させたサン・ピエトロ大聖堂の《ピエタ》、フィレンツェ共和国の象徴とされる《ダヴィデ》はじめ、その卓越した技と美意識が表現された大型彫刻作品は、各地で至宝とされて手厚く守られています。
ところが、ミケランジェロが88年の生涯の中で残した大理石彫刻作品は約40点と少なく、これらの作品を中心に据えたミケランジェロの展覧会は日本では実現が極めて困難とされてきました。
そんな、日本ではめったにできないミケランジェロの大理石彫刻の展覧会《ミケランジェロと理想の身体》が、今まさに東京・上野の国立西洋美術館で開かれています(~9月24日まで)。
本展は、日本初公開となるミケランジェロ彫刻の傑作《ダヴィデ=アポロ》《若き洗礼者ヨハネ》の2点を核に、ギリシャ・ローマとルネサンス期の作品約70点の対比を通して、両時代の芸術家が創りあげた理想の身体美の表現に迫ります。
本展の見どころを国立西洋美術館の主任研究員、飯塚隆さんにうかがいました。
「ダヴィデ=アポロの魅力を最大限引き出すような展示空間を構成しました。この作品が最初に目に入るとき、何がどう見えているのか、まずご注目ください。
そして彫刻の全体像が視野に入ったところでいったん立ち止まり、みなさんが抱いていたダヴィデ=アポロのイメージと、実際に目にしている作品を比べて見てください。そして作品に引き寄せられるまま、周りをぐるりと回ってみましょう。
アングルによってダヴィデ=アポロの印象は変化します。ぜひ、自分自身のベストアングルを探してください。そこで何を感じるのか――たくましさだったり、穏やかさだったり、もの悲しさだったり、あるいは色っぽさだったり――によってダヴィデ=アポロのありようは変わります。
ダヴィデであるのか、それともアポロであるのかという問題以前に、こうした肉体の形に秘められた無限の可能性こそがこの作品の根幹なのです。そして人それぞれのダヴィデ=アポロを見出したとき、広々とした展示空間が、この作品にぴったりのサイズであることに気づくでしょう」
はるばる日本へやってきたミケランジェロの傑作彫刻を通して、彼が理想とした肉体美が圧倒的な迫力で目の前に迫ります。ぜひ会場でご鑑賞ください。
【開催要項】
ミケランジェロと理想の身体
会期:2018年6月19日(火)~9月24日(月・休)
会場:国立西洋美術館 企画展示室
住所:東京都台東区上野公園7-7
電話番号:03・5777・8600(ハローダイヤル)
美術館サイト:http://www.nmwa.go.jp/
展覧会サイト:https://artxhibition.jp/michelangelo2018/
開館時間:9時30分から17時30分まで、金・土曜日は21時まで(入館は閉館30分前まで)
休館日:月曜日(ただし7月16日、8月13日、9月17日、9月24日は開館)、7月17日(火)
取材・文/池田充枝