水樹奈々さん演じる智恵内子。(C)NHK

ライターI(以下I):昨年の大河ドラマ『光る君へ』では、和歌の会が催されるなど、「和歌」が脚光を浴びました。そもそも紫式部の『源氏物語』からして、作中に795首の和歌が散りばめられている作品でした。

編集者A(以下A):『光る君へ』の舞台から『べらぼう』の舞台までおよそ800年の時が流れているのですが、庶民も文化を楽しむ時代になりました。劇中では、元木網(演・ジェームス小野田)などが催す狂歌の会の楽しそうな様子が展開されていました。その元木網の妻が智恵内子。「ちえのないし」と読みます。演じるのは大人気声優の水樹奈々さん。

I:米米CLUBファンならずとも、ミュージシャンにして希代のエンターテイナーであるジェームス小野田さんの大河ドラマ登場は注目の話題だと思いますが、その妻役が声優・歌手として活躍している水樹奈々さん。蔦重役の横浜流星さんとの絡みに期待が集まっていました。

A:狂歌を楽しむ会はとにかく楽しい場面になりました。大河ドラマならではのシーンでしたね。ということで、蔦重の次なる大きなステップのきっかけを作ったのが、狂歌師として著名な大田南畝(演・桐谷健太)でした。大田南畝は後に、蔦重の墓の碑文を書くほどに、これからの蔦重の人生を通して入魂の間柄になります。蔦重の墓は浅草にある正法寺にありますので、お参りに行かれたついでに南畝が書いた碑文もぜひ読んでもらいたいですね(墓は火災などで壊れてしまったため今は復元したもの)。

I:蔦重のお母さんのお墓の碑文も南畝が書いているんですよね。どれだけ親しかったかわかります。それにしても、桐谷さんの演技がほんとうに調子が良くて、思わずにんまりしちゃいますよね。さて、今回は、女性狂歌師として名を馳せた智恵内子役の水樹奈々さんの取材会が開かれました。歴史的人物としての知名度はそれほど高くないと思われる智恵内子のバックグラウンドまでご本人が解説くださるという貴重なお話になっています。まずは、大河ドラマ初出演の水樹さんがオファーを受けた時のお話からどうぞ。

マネージャーさんから「『べらぼう』に出てみませんか」といわれて、「えっ!?」と。これは何かのドッキリなのかなっていうぐらいびっくりしました。もう、青天の霹靂過ぎて。私、これまでほとんどドラマ出演をしたことがなかったんですね。デビューしたばかりの頃に、一度だけ特撮ドラマに出たことがあるんですけど、それ以来まったくドラマの仕事をしたことがなかったので、まさか自分にそんなオファーがあるとは思ってもいなかったんです。だから、思わず聞き返してしまって。「どういう経緯で私をご指名いただいたんでしょうか?」とお尋ねしました。今回演じさせていただいている智恵内子は、狂歌師という役柄。狂歌は当時、お江戸のポップカルチャーになっていったんですね。内子はそれを牽引する数少ない女性狂歌師のひとりということでした。歌というところと、言葉をしっかり伝えられる人をキャスティングしたいということだったようです。私自身、作詞をさせていただいたりしていることもあり、共通する部分もたくさんあるのではないかということでお話をいただいたと伺っています。実は今年は私の歌手デビュー25周年のタイミングでもあったので、また新たなチャレンジをするご縁なのかなと思いました。これはもう神様が行きなさいと背中を押してくださったのかもと思い、お受けしました。

I:大河ドラマ初出演というだけでなく、ドラマにもほとんど出演されたことがなかったとは、驚きです。

夫の元木網役のジェームス小野田さんと私という、音楽の活動をしているふたりが配役されたことにすごく意味を感じました。歌と言葉を伝えるというところで、俳優さんとは違った視点からアプローチする方をもしかしたら求めていたのかもしれないな、と感じました。ジェームスさんもすごく緊張されていて。狂歌を詠むシーンはすごく難しいので、ジェームスさんは何回もおうちで練習されてきたそうです。ジェームスさんの方がセリフ量が多いので、私は横で見ながら「あんた、しっかりね」と裏で支える強い奥さんの気持ちで側に寄り添っています。

A:なるほど、一般的な俳優さんじゃなくて、歌、言葉という観点からのキャスティングだったわけですね。声優さんらしさを出した演技というのも、あるんでしょうか。

声を演じる時もそうですが、「声を作る」っていうイメージではなく、そのキャラクターがどういうふうにしゃべるのかというイメージを膨らませていくところから入ります。私の場合、まずは骨格から見るんですね。このキャラクターの骨格だったこういう声帯をしていて、こういう音の響き方をして、こういうふうにしゃべるだろうなっていうふうに。そこから自分が導き出されたもので声を出します。なので、声色を調整するというより、そのキャラクターの身体から出る声の形、息遣い、話しのテンポなどを妄想しながら演じています。生身のお芝居では、自分の肉体がキャラクターなので、自分の動きに合わせて連動してくる音が正解なんだと考えています。お芝居の中で自然に出てくるものをそのまま出すようにしています。声と動きの連動は自分の中ではテーマになっていて。生身のお芝居に慣れていないこともあり声先行になりそうになってしまうので、そこをどういうふうに自分の動きと紐付けていくのかをまず考えました。それから佇まい。そこにいるだけで、そして目線の動きだけで、まばたきひとつで、全部に意味が出てしまうので、改めてその難しさを痛感しました。実は、テスト撮影の時、無意識のうちにパチパチまばたきをしてしまったんです。うわー、やってしまったと反省しました。本当に細部まで気をつけないといけないなと思いました。

I:歌手だからドラマの中で歌わせるとか、そういう話じゃないんですね。水樹さんが骨格から演じるキャラクターを分析するように、『べらぼう』制作陣は、水樹さんという骨格の中に智恵内子を見つけたのかもしれないですね。それにしても、初めてとは思えないほど、佇まいも含め様になっています。

監督さんや演出家の皆さんに、智恵内子についていろいろとお聞きしました。智恵内子は普段はお風呂屋さんの女将さんなんですが、夫の元木網とともに、狂歌を介して身分を超えていろいろな方と集まる会を主宰するんですね。そういう女性を演じるにあたって、最初にいわれたのは、「ツンツンな女将さんです」ということでした。「ツンデレではなく、ツンツンです」と。男性を立てて女性は一歩下がって、という時代ですが、実は裏では手綱はしっかり握っている女性。向上心があり、教養もあり、旦那さんと対等。かなり頭の切れるタイプのキャラクターです。年齢的に30代の中盤くらいで、お風呂屋さんを経営しているということでヤリ手でしっかりしつつも、旦那さんとユニークな歌を詠んだりしていて、ちゃめっ気のある部分もあるだろうなと思います。サークル活動のような狂歌の会を心から楽しんでいて、羽目を外している部分もあります。智恵内子の人物像や元木網との関係性が、ちょっとした仕草や表情でも出せるといいなぁと思っています。

狂歌って、今の文化のラップバトル!? 次ページに続きます

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