取材・文/関屋淳子
大分県の北西端、中津市と玖珠(くす)町にまたがる広大な景勝地・耶馬渓(やばけい)。この歴史や文化を語るストーリー「やばけい遊覧~大地に描いた山水絵巻の道をゆく~」が平成29年、文化庁の日本遺産に認定されました。
およそ200年前に、思想家の頼山陽が名付けた「耶馬渓」。この天下の奇勝を取り巻く歴史的魅力と地域の文化をご紹介します。今回は、羅漢寺(らかんじ)、古羅漢(ふるらかん)、そして青の洞門など、耶馬溪の信仰と歴史を感じられるスポットについてご紹介します。
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山国川が溶岩台地を深く浸食してつくり出した奇岩の渓谷、耶馬渓。石柱の断崖や岩窟、巨石などが大パノラマをつくり、その深く神秘な地形は伝説と祈りの場所になりました。
羅漢山の中腹に位置する岩窟の寺院・羅漢寺は、日本各地にある羅漢寺の総本山で、山門も本堂も岩壁に埋め込むように建てられています。
羅漢寺へは旧参道を少し歩いてみましょう。苔むした石畳や路傍の小さなお地蔵様が趣ある佇まいをつくり出しています。
山門へは急坂の参道とリフトがありますが、よほど健脚な方でなければ、リフトで山門へ向かうのをおすすめします。
山門手前には千体地蔵があり、山門の先には室町時代に彫られた五百羅漢が安置されている岩屋があります。
岩屋の入り口には願い事を記した多くのしゃもじが飾られています。願いを掬う(すくう)ということから、まるで神社の絵馬のようです。
岩屋のなかは神聖な空気が流れ心身が引き締まるよう。五百羅漢の喜怒哀楽のお顔は誰かに似ているようでもあり、豊かな表情の奥には何かを語りかけてくれるようで、いつまでも対峙したくなります。羅漢寺には約3700体の石仏があるということ、人々の大きな祈りの力を感じます。
本堂は昭和18年に焼失し、その後再興されたものです。2階部分に上がることができ、ここからの眺めも清々しい限りです。本来は境内より先は撮影禁止ですが、今回は特別許可をいただき、撮影しています。
羅漢寺の対岸に、ごつごつと盛り上がる峰があり、古羅漢の景と呼ばれる景勝地とその探勝道があります。羅漢寺とともに古来、修禅の道場であったところで、探勝道は急な階段もありながら、森林浴も楽しめ、上るたびに視界が開けてきます。
途中には石仏や磨崖仏などがあり、岩窟には昔の堂宇が残り、石造観音菩薩坐像が祀られています。岩が空洞になっている部分があり、これは自然に風化したもの。橋のように見えることから天人橋と呼ばれています。
ここからの眺めは絶景の一言。多くの文人たちもここからの眺めを楽しんだそうです。
また鎖を伝って岩を辿ることができますが(スリル満点です!)、くれぐれも歩きやすい靴で上ってください。
羅漢寺から下った山国川沿いには、屏風のように折れ連なる岩壁・競秀峰があり、この岩壁沿いの道から、川に落ちる人を救うために江戸時代に造られたトンネル・青の洞門があります。
青の洞門は、羅漢寺の禅海和尚が村人とともに30年の歳月をかけ掘り上げました。岩の窓からの光で無数のノミの跡がくっきり。執念のあとを感じます。
この一帯は、当地出身の福沢諭吉が景観を守るために土地を買い、開発を守ったとのこと。約1㎞にわたり岩峰が続きます。
近くには8連の日本一長い石垣のアーチ橋「オランダ橋」もありますので、こちらもお見逃しなく。
以上、今回は耶馬溪の周辺にある羅漢寺(らかんじ)、古羅漢(ふるらかん)、そして青の洞門などをご紹介しました。次回は、耶馬渓探勝の基点となる中津市をご紹介します。お楽しみに。
※日本遺産「やばけい遊覧」についての問い合わせ先:
中津市教育委員会文化財室(電話:0979-22-1111)
取材・文/関屋淳子
桜と酒をこよなく愛する虎党。著書に『和歌・歌枕で巡る日本の景勝地』(ピエ・ブックス)、『ニッポンの産業遺産』(エイ出版)ほか。旅情報発信サイト「旅恋どっとこむ」(http://www.tabikoi.com)代表。
撮影/yOU(河崎夕子) www.youk-photo.com