取材・文/関屋淳子
旅の大きな魅力といえば、旅先となる地域の「食」ですが、例えば米どころ・酒どころとして知られる新潟県で「地域の食」を楽しもうと思い立ったら、どこを訪ねればよいでしょうか?
今回は、新潟を旅するならぜひ訪ねていただきたい、いま旬な食の名店をご紹介しましょう。
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【新潟 旬の名店1】
Restaurant UOZEN
(レストランウオゼン)
新潟県三条市
新潟県のほぼ中央にある三条市と燕市は、鍛冶の伝統や鎚起(ついき)銅器など、歴史ある産業を受け継ぐものづくりの街です。そんな地で、実際に地場産業の食器やカトラリーを使い、自らの手で食材を調達し、見事なフレンチに仕立てているのが、「Restaurant UOZEN」オーナーシェフの井上和洋さんです。
井上さんはフレンチの名店「KIHACHI」などで修業を積み、東京都内で独立。新潟の三条に2013年に店を構えてからは、畑に野菜を植え、山に狩猟へ行き、海へ釣りに行く生活を送っています。
ソムリエの奥様の実家が料亭だったこともあり、店の外観は和風の趣。窓の外には田園が広がり、なんとも長閑です。
この日いただいたランチは、糸魚川の鮟鱇、新発田のクリーンポークなど、越後の旨みが凝縮されたものでした。
【Restaurant UOZEN】
新潟県三条市東大崎1-10-69-8
電話:0256-38-4179
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【新潟 旬の名店2】
懐石 秀石菴
(かいせき しゅうせきあん)
岩室温泉
燕三条から車で約30分、開湯300年の歴史を持つ岩室温泉に到着します。この温泉街に立つのが、東京・目白にあった茶懐石の名店「和幸」で修業したご兄弟が営まれている和食の店「懐石 秀石菴」です。
「和幸」のご主人・高橋一郎さんの端正な料理に憧れ、その門を叩いた料理人は多く、それぞれ独立し、各地で日本料理の神髄を伝えています。
この日いただいた夜の懐石コースでは、寺泊の甲箱蟹やアイナメの焼き物、サヨリとコハダのお造りなど、いずれも味わい豊か。奇をてらわぬまっとうな料理は体の隅々にまで滋味がゆきわたるようです。
冬はすっぽん、夏は越の丸茄子の田楽など、人気のメニューもあるとのこと。最良の食材を生かし切るという、料理の教えを体感できるお店です。
【懐石 秀石菴】
新潟県新潟市西浦区岩室温泉617
電話:0256-82-2009
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【新潟 旬の名店3】
登喜和 鮨
(ときわすし)
新発田市
新潟県北部の新発田市にある「登喜和 鮨」。父親とともに板場に立つ3代目の小林宏輔さんは、東京での修業の後、郷里に戻ってきました。
地元前の魚をそれぞれ適切な仕事を施し、新潟のコシヒカリと3種の酢をブレンドした酢飯で握る鮨は、口に入れるたびに、感動が押し寄せて来るようです。ヒラメなどは生きのまま仕入れ、店で神経締めをして1週間寝かせ、旨みを乗せるといいます。
佐渡の本アラ、岩船のイシモチなど、ここに来なければいただけない味ばかり。四季折々の新潟の旨し魚たちが最高の状態で目の前に並ぶさまは圧巻で、県外や海外から多くの食通がこの店を目指すというのも納得です。
アットホームな雰囲気で女性一人でも入りやすく、おまかせ握り5000円からというのも嬉しい限りです。
【登喜和 鮨】
新潟県新発田市中央町3-7-8
電話:0254-22-3358
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【新潟 旬の名店4】
こそば亭
妙高市
上越地方にある妙高市。ここに蕎麦好きならば一度は訪ねたい店「こそば亭」があります。この店ではほかでは味わえない大変珍しい在来種「こそば」を味わえるということで、かつて『サライ』本誌でも紹介されました。
妙高山麓は蕎麦の名産地として知られていますが、村の一角に、在来種の小粒の蕎麦が細々と栽培されていたといいます。これをご主人・市村晋也さんのお父様が農家で発見し、この希少な蕎麦をぜひ広めたいと栽培を促したといいます。3年前からは地元JAと協力し、この地域の特産にしようと盛り上げています。
こそばはじっくりと1時間以上かけて石臼で手回しで製粉し、全行程を手作業で供しています。土日10食限定の「手挽きざる蕎麦」は挽ぐるみでこしがあり、蕎麦の風味が豊かに香ります。蕎麦の核ともいえる味わいがしっかりしているので、つなぎに小麦粉を1割使っているのですが、まるで十割蕎麦のようなガツンとした風味で、喉越しもあり、これまで味わったことがない食感です。
通常メニューのざる蕎麦にはつなぎにオヤマボクチを使い、少し緑色がかった蕎麦。喉越しがよく爽やかで、こそばと食べ比べてみてください。
【こそば亭】
新潟県妙高市大字美守(ひだのもり)681-1
電話:025-572-8628
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【新潟 味な手みやげ】
かんずり
妙高市
最後にご紹介するのは、唐辛子を使った新潟独特の辛味調味料「かんずり」です。なかでも上越地方では、手前味噌ならぬ、手前かんずりが各家庭で作られていたそうです。「かんずり」をそのまま社名にする製造会社では、地元産の唐辛子、柚子、麹、塩のみを原料としています。
夏から秋、かんずり用に品種改良した20㎝ほどの大きい唐辛子を収穫し、塩漬けします。これを1月の大寒の日から雪さらしに。雪さらしをすることであくが抜け、辛味が柔らかくなるといいます。
真っ白な雪の上に真っ赤な絨毯のように広げられた唐辛子はまさに独特の景観。その後、唐辛子を粉砕し、麹と柚子、塩を加えて仕込みに入ります。
発酵・熟成期間は3年間で、2年目からは攪拌しながらじっくり寝かせます。そして瓶詰にして、熱処理で発酵を止め、1日約200本を出荷します。熱処理をしない「生かんずり」もあり、こちらは柚子の香りが爽やかです。
かんずりは麺類に入れたり、焼き鳥に添えたりととにかく万能調味料。マヨネーズと合わせて野菜スティックに付けて食べても美味。様々な料理に合わせてみたくなります。
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以上、今回は新潟を旅するならぜひ立ち寄りたい、いま旬な食の名店4軒と、外せない味の手みやげをご紹介しましたが、いかがでしたでしょうか。
旅の目的になるような美食の数々があなたを待っています。うまさぎっしりの新潟県へ、ぜひ足を運んでみてください。
取材・文/関屋淳子
桜と酒をこよなく愛する虎党。著書に『和歌・歌枕で巡る日本の景勝地』(ピエ・ブックス)、『ニッポンの産業遺産』(エイ出版)ほか。旅情報発信サイト「旅恋どっとこむ」(http://www.tabikoi.com)代表。