取材・文/池田充枝
戯画や漫画を「鳥羽絵」と称しますが、狭義には18世紀に大坂を中心に流行した軽妙な筆致の戯画(滑稽な絵または風刺的な絵、ざれ絵と同義)をさします。描かれる人物は、目が小さく、鼻が低く、極端に手足が細長いという特徴をもち、その名は国宝「鳥獣人物戯画」の筆者、鳥羽僧正覚猷(とばそうじょうかくゆう)に由来するものとされます。
そんな鳥羽絵から北斎・国芳・暁斎まで、江戸時代の戯画の代表作が一堂に会した展覧会《江戸の戯画-鳥羽絵から北斎・国芳・暁斎まで》が大阪市立美術館で開かれています(~2018年6月10日まで)。
鳥羽絵は、18世紀の大坂で鳥羽絵本として出版され、その人気は近代にまで及びました。また、上方にとどまらず、江戸の浮世絵などにも影響を与えています。鳥羽絵を洗練させたとされる大坂の「耳鳥斎(にちょうさい)」はもちろん、鳥羽絵本の影響を受けたと考えられる江戸の「北斎」や「国芳」、そしてその流れをくむ「暁斎」など、時代や地域により変化しながらも、笑いの感覚は脈々と受け継がれてきました。
本展は、鳥羽絵の流れを追いながら江戸時代の戯画のエッセンスを展観します。出品作品は約280件。歌川国芳の「金魚づくしシリーズ」全9図(前期展示)が初めて揃うのが見どころの一つです。
本展の見どころを、大阪市立美術館の主任学芸員、秋田達也さんにうかがいました。
「本展の見どころは、もちろん歌川国芳「金魚づくし」9図の勢揃いにありますが、その他にも葛飾北斎や河鍋暁斎などによる見ごたえのある戯画が多く展示されます。
なかでも、18世紀後半の大坂で戯画を描いて活躍した耳鳥斎の「地獄図巻」は、ぜひ見ていただきたいものの一つです。今でこそ忘れられてしまっていますが、耳鳥斎の人気は高かったようで、その人気は近年にまで及んだと考えられています。「地獄図巻」は、その耳鳥斎を代表する作品の一つです。
得意とするゆるく味のある画風で描かれた鬼や亡者たちを見ていると、それだけでも十分に可笑しいのですが、大根をくわえさせられる役者や串にさされて焼かれる川魚屋など、現生での職業や趣味に合わせて様々な地獄が考えられているところが機知にとんでいて滑稽です。当時評判となったのか同様の作品が数点残されています。
本展は、江戸時代の戯画を漫然と紹介するのではなく、18世紀の大坂で人気となった鳥羽絵や耳鳥斎の戯画が、のちの絵師たち、とくに江戸の浮世絵師たちにどのような影響をあたえたのかを紹介したいと考えています。北斎・国芳・暁斎といった一流の絵師たちの戯画を楽しみつつ、そのような視点からもご覧いただければ、さらに興味深く本展を鑑賞することができるでしょう。笑いを文化として培ってきた浪花の地で、ぜひ多彩な戯画の世界をお楽しみください」
ベルギーから里帰りしたものを含む「金魚ずくし」全9図が揃うのは世界初です。お見逃しなく!
【開催要項】
特別展「江戸の戯画-鳥羽絵から北斎・国芳・暁斎まで」
会期:前期2018年4月17日(火)~5月13日(日)
後期2018年5月15日(火)~6月10日(日)
会場:大阪市立美術館
住所:大阪市天王寺区茶臼山町1-82
電話番号:06・4301・7285(大阪市総合コールセンター)
http://www.osaka-art-museum.jp/sp evt/edonogiga/
開館時間:9時30分から17時まで(入館は16時30分まで)
休館日:月曜日(ただし4月30日は開館)5月1日も開館
取材・文/池田充枝