文/鈴木拓也
人は年を重ねてゆくと、高音域の音が聞き取りにくくなる。これが、いわゆる耳の老化(老人性難聴)で、早い人だと50代には発症するという。たとえ本人は自覚しなくとも、「テレビの音をもっと下げて」、「声が大きい」と言われることが増えたら、聴覚が衰えている可能性がある。
聴覚は、いったん衰え始めるともう後戻りはきかないと考えている人は多いかもしれない。しかし、筋トレで筋力低下を抑えるのと同様、聴覚も鍛えて衰えを防ぐことができるとし、実際にそれを体験できるという本『1分で「聞こえ」
同書付属のCDをガイダンスに沿って聴き取るだけで、耳の老化を抑えることができるという。CDの内容は、「耳のベーシックトレーニング」と「耳の応用トレーニング」に分かれ、それぞれ「音を分離しよう」、「音の大きさを感じよう」といったテーマ別に、音源が収録されている。
※出版社のサイトで音源が公開されているので、イヤホンやヘッドホンで聴いてみていただきたい。
例えばベーシックトレーニングの Track 2 は「音の数を感じる」と題され、水滴の落ちる音が約1分間にわたり収録されて、その「低い水滴」だけを数えるよう指示がある。できれば指を使わず、頭の中だけで音を意識しながら数えるようにする。数えるのが難しければ、それぞれの音が現れる瞬間を意識するだけでも十分だという。
そして続く Track 3 は「ふたつの音を聞き分ける」トレーニング。こちらは別々の音が同時に現れるので、目立つほうの音を感じ取ることに専念する。慣れてきたら、目立つ音と目立たない音を同時に意識する。最終的に、両方の音を分けて聞ければ、耳の感度は飛躍的に上がるという。
こうした「耳トレ」は、ふだん音というものを特別意識していない我々にとって、案外難しいかもしれない。しかし、それを難儀に思わなくなれば、聴覚が良くなっている証拠で、継続する励みになる。
著者によれば、耳を鍛えることは、単に老人性難聴を予防・改善するのとは別に、様々なメリットがあるという。それには、「脳の活性化」、「身体の活性化」、「コミュニケーション力の向上」など多岐にわたり、創作意欲すら向上させることができるという。
本書の巻末には体験者の声が記されているが、「今まで気づかなかった虫の音、せせらぎ、風の音、葉っぱの音の美しさに感動した。心が明るくなった」(Hさん、65歳)など、その効果は人生の質そのものをアップさせる力があるようだ。聴覚の衰えに心当たりのある方は、耳トレにチャレンジしてみてはいかがだろう。
【今日の健康に良い1冊】
『1分で「聞こえ」が変わる耳トレ!』
(小松正史著、白澤卓二監修、本体1,500円+税、ヤマハミュージックメディア)
文/鈴木拓也
2016年に札幌の翻訳会社役員を退任後、函館へ移住しフリーライター兼翻訳者となる。江戸時代の随筆と現代ミステリ小説をこよなく愛する、健康オタクにして旅好き。