取材・文/わたなべあや

「鞍馬天狗」など軽妙洒脱な大衆文学や童話、エッセイの作家として知られる大佛次郎(おさらぎ・じろう、1897-1973)。小学校1年生の時から家族で猫を飼っていて、それがきっかけで猫好きになったといいます。「猫は生涯の伴侶」と語り、生涯に500匹あまりの猫と暮らしていたというのですから、並大抵の猫好きではありません。

そんな大佛次郎にちなんで、横浜にある大佛次郎記念館では、毎年恒例となっている《大佛次郎×ねこ写真展》が開催されています(~2018年4月8日)。

大佛次郎夫妻と2匹のシャム猫(1941年頃)

本展では、3つのテーマに合わせて猫の写真が展示されています。

ひとつめのテーマは、大佛次郎の文章と猫の写真のコラボレーション。今年は、「鞍馬天狗(くらまてんぐ)」シリーズの『郎蜘蛛(じょろうぐも)』中から12のお題が出され、公募で集められた猫の写真から、その情景にぴったりの秀作が選ばれたそうです。

今回取り上げられた文章は、

「お願いでござりまする」

「お頼み申します」

「女はにわかに羞(はず)かしげに目を伏せた。」

「覆面の曲者は半町ばかりの距離を保って、二人の後をつけた」

「見上げたお心じゃ。失礼ながら感心致した」

……など12節。いまにも猫が喋り出しそうだったり、恥ずかしげに目を伏せたりするよう。豊かな表情の写真が見ものです。

「お願いでござりまする」のお題に対する優秀作がこちら。

*  *  *

ふたつめのテーマは、大佛家のシャム一族の写真です。

アバコの子孫と思われるシャム一族

次郎にはフランス人の友人いたのですが、その友人が香港の西貢(サイコン)で手に入れたシャム猫2匹を譲ってくれたそうです。この猫たちが、日本にはじめて持ち込まれたシャム猫なのではないかと言われています。

次郎は、この雄雌2匹の猫に、それぞれアバレ、アバコという名をつけました。アバレとアバコのことは「シャム一族」というエッセイにも書かれているのですが、大佛家では、アバコが産んだ子孫を少なくとも50匹は飼っていたといいます。

雄猫のアバレが早世したため、純粋なシャム猫はあまり育たなかったそうですが、アバコが外で産んだ猫も数に入れると、いったい何匹の子猫を産んだことやら。アバコの強い生命力が感じられます。

本展では、そんなアバレとアバコを始めとする、大佛家とシャム一族の穏やかな日常を垣間見ることができます。

*  *  *

そして3つめのテーマが、昨年も人気を博した一般公募のコーナーです。今年は210名、555点もの応募があったとのこと。笑える猫から、愛くるしくて抱きしめたくなる猫の写真まで、さまざまな猫に癒やされます。

こちらのコーナーではアンケートで一番人気の作品を選出するのですが、昨年選ばれたのは、仰向けになって四肢を伸ばしてくつろぐ猫の写真。ふてぶてしさと愛くるしさが感じられる姿は、猫ファンでなくても思わず一票を投じたくなるような写真です。今年の人気投票も楽しみですね。

昨年の一番人気賞!岩窪俊一さま作

この他、大佛次郎記念館には、陶器の猫の置物や絵画など猫にまつわるコレクションが50~60点展示されています。大佛次郎が愛用していた「猫の手あぶり」は、背中部分に炭を入れて暖をとるもの。使い込まれて飴色になった手あぶりは、次郎の往時を忍ばせます。

販売されている猫グッズも、他では入手することができないものばかりなので見逃せません。猫の手あぶりをミニチュアにした「手あぶり猫根付」や童話の「白猫白吉」に出てくる白吉の缶バッジ、コースター、絵葉書、付箋など猫をモチーフにした商品を購入できます。

手あぶり猫根付

枝垂れ桜や枝垂れ梅を好んだ大佛次郎にちなみ、大佛次郎記念館にも枝垂れ桜が植えられています。3月27日~4月8日に限り、館内の和室から月見台(テラス)の正面に枝垂れ桜が咲き誇るのを鑑賞することができます。一足早いお花見が楽しめます。

メインのテラスからは横浜の港を一望することができ、早春のお散歩コースにもおすすめ。館内の「ティールーム霧笛」では、大佛次郎の妻が考案したというチーズケーキも堪能できます。

【開催概要】
『大佛次郎×ねこ写真展2018』

会期:2018年3月20日(火)~4月8日(日)
会場:大佛次郎記念館
住所:横浜市中区山手町113
電話:045-622-5002
Webサイト:http://osaragi.yafjp.org/etc/3860/

※和室は、貸館利用の申込がある日は開放されません。大佛次郎記念館ホームページの「和室・会議室空き状況」からご確認ください。

取材・文/わたなべあや
1964年、大阪生まれ。大阪芸術大学文芸学科卒業。2015年からフリーランスライター。最新の医療情報からQOL(Quality of life)を高めるための予防医療情報まで幅広くお届けします。日本医学ジャーナリスト協会会員

 

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