取材・文/池田充枝
英国の詩人でモダンデザインの父とも称されるウィリアム・モリス(1834~96)のデザインの世界を一堂に眺め渡せる展覧会《ウィリアム・モリス 原風景でたどるデザインの軌跡》が、豊橋市美術博物館で開かれています(~2018年3月25日まで)。
ウィリアム・モリスは、ロンドン近郊のウォルサムストウに生まれ、オックスフォード大学在学中に思想家ジョン・ラスキンの影響をうけて中世に憧れ、ラファエル前派の芸術家、ロセッティ、バーン=ジョーンズらと親交を深めました。
モリスは、当時の産業革命のもたらした芸術の機械化、量産化に反発し、純正な素材、誠実な手仕事の重要性を訴え、ロセッティ、バーン=ジョーンズらとモリス・マーシャル・フォークナー商会(のちに単独経営のモリス商会に改組)を設立しました。
生活と芸術の一致を理念としたモリス商会の活動は、1880年代、同じ考えをもつ工房やアトリエとともにアーツ・アンド・クラフツ運動と称される潮流を生みました。その理念はモダンデザインの源流として今も色褪せない魅力をもっています。
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本展では、モリスおよび仲間たちのデザインした家具、テキスタイル、書籍など約100点を展示するとともに、写真家、織作峰子が捉えたモリスゆかりの地を紹介します。見どころを豊橋市美術博物館の学芸員、細田樹里さんにうかがいました。
「本展は、初めて手掛けた壁紙《ひなぎく》《格子垣》《柘榴あるいは果実》、代表作《いちご泥棒》、晩年に立ち上げた私家版印刷工房「ケルムスコット・プレス」で発行された書籍などを一堂に展観し、モリスによるデザインの仕事がよく分かる展覧会です。
また、世界を旅しながら撮影する写真家、織作峰子さんが独自の視点で捉えた、モリスゆかりの地の写真約20点を合わせて紹介します。モリス著『ユートピアだより』扉絵にも用いられた「ケルムスコット・マナー」(モリスの旧宅)が現在も変わらずその姿を留めていることには、驚きと感動を覚え、あたかもモリスの生きる時代にタイムスリップしたかのような思いにかられます。
織作さんは本展のナビゲーターをつとめ、写真およびコメントで、19世紀イギリスへと私たちをいざないます。幼少時に遊び場となったロンドン郊外のエピングの森、友人たちと小舟で溯る旅に出たテムズ川など、モリスの身の回りにはいつも豊かな自然があり、創作活動に大きな影響を与えていることを、織作さんの写真や会場で流れる資料映像から強く実感いただけます。
デザイナー・詩人・作家・社会運動家など、多彩な分野で才能を開花させたモリス。本展では、デザイナーとしてのモリスに着目していますが、その原風景にふれ、展示作品を目にしていただくことで、これら異分野とのつながりも見え、あらためてモリスの魅力を発見する機会となることでしょう」
どこか懐かしい、けれど新鮮。そんなウィリアム・モリスのデザイン世界を、ぜひ会場で間近に体感ください。
【開催要項】
『ウィリアム・モリス 原風景でたどるデザインの原風景』
会期:2018年2月17日(土)~3月25日(日)
会場:豊橋市美術博物館
住所:愛知県豊橋市今橋町3-1(豊橋公園内)
電話番号:0532・51・2882
http://www.toyohashi-bihaku.jp/
開館時間:9時から17時まで
休館日:月曜日
取材・文/池田充枝