文/後藤雅洋
映画とジャズ、こうしてふたつ並べただけでじつに多様で豊かなイメージが沸き起こってきますね。その想いの中身はみなさんそれぞれでしょうが、映画とジャズには共通点があるのです。
それは、ともに20世紀を代表するアメリカ文化だったという事実です。
ジャズが始まったのは19世紀末とされていますが、「ジャズの父」と呼ばれたトランぺッター、ルイ・アームストロング、“ビ・バップ”の創始者、アルト・サックス奏者のチャーリー・パーカー、そしてジャズを世界に広めた人気トランぺッター、マイルス・ディヴィスといった「ジャズの巨人」たちが、「ジャズ」をアメリカ文化の象徴にまで押し上げたのは、20世紀の出来事でした。
そして映画も、その発祥はフランス人のリュミエール兄弟が19世紀末に発明したものですが、20世紀になってアメリカで商業映画が盛んに制作されるようになり、ハリウッド映画はアメリカを代表する文化産業となったのです。
こうしたいきさつもあって、映画とジャズは何かと結びつけて語られることが多いのですが、その切り口はさまざまです。本シリーズの第1弾『JAZZ100年』では、第12号「死刑台のエレベーター」で「映画とジャズの出会い」をテーマに、器楽ジャズにおける両者の多様な出会いの形について解説しました。そしてこの『ジャズ・ヴォーカル・コレクション』でも、第20号「映画のジャズ・ヴォーカル」で、「映画で使われていたジャズ」という視点から、さまざまなジャズ・ヴォーカルを紹介しました。
そして今回の「ムービー・テーマ・ジャズ・ヴォーカル」は、「名画の名曲」をジャズ・ヴォーカルで紹介しようという魅力的な企画です。別の言い方をすると、「名画発祥のスタンダード・ナンバー」ですね。
私自身も経験があるのですが、想い出と音楽は強く結びついているようです。懐メロを聴くと若かりしころの甘酸っぱい想い出が蘇ったりするのは、誰しもが体験していますよね。この、「想い出」と「音楽」のように、それぞれ別のものごとが記憶の中で結びついてしまうという現象は、よくあることのようです。
あまりに長すぎて完読したした人はごくわずかといわれるマルセル・プルーストの大著、『失われた時を求めて』に出てくる名場面、紅茶に浸したマドレーヌ菓子から過去の記憶が鮮やかに蘇る記述などは有名ですね。
映画音楽はこうした人間心理の特徴(犬や猫だって物音に反応して餌の時間を知ったりするのですが……)を利用し、画面の出来事をより印象的に観客に伝えるため音楽をじつに効果的に使っているのですね。とりわけ「名画」とされる作品はその使い方が優れているため、音楽を聴いただけで映画のシーンが鮮やかに蘇ってくるのです!