文/中村康宏
古来、痛風発作は「忙しく、責任感の強いひとに多く発症する」と言われてきました。例えば、ユリウス・シーザーやナポレオン、レオナルド・ダ・ヴィンチなどが痛風持ちであったことが知られています。
痛風に尿酸値が関係していることはよく知られており、尿酸値は低いほどよいと思われている方も多いでしょう。しかし近年の研究で、尿酸値は低すぎても体に良くないことがわかってきました。
そこで今回は体内における尿酸の役割と生活習慣との関係、そして尿酸値の上昇を抑えて痛風を防ぐ食生活のポイントについて解説いたします。
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実はこの痛風というのは「高尿酸血症」がもたらす症状のひとつです。この高尿酸血症は痛風発作だけでなく、痛風結節、尿路結石などに代表される尿酸沈着症を引き起こすことで知られています。
そもそも尿酸とは、遺伝子やエネルギー消費で使われる「プリン体」と呼ばれる物質が代謝されてできる物質です。体内に存在する尿酸のうち、80%は体内にあるプリン体を原料にしてつくられ、残り20%は食べ物から取り込まれるプリン体からつくられます。このうち食品に含まれるプリン体とは、内臓や魚卵など細胞数が多い食材や、乾燥により細胞が凝縮されている干物などに多く含まれています(※1)。
この尿酸については、「敵」というイメージの人も多いでしょう。実際、細胞の内においては活性酸素を生成する「酸化物質」としての役割があり、体に害をもたらす効果があります。しかし一方で尿酸には、細胞の外では活性酸素を弱める強力な「抗酸化物質」としての役割を持つことがわかっています(※2)。
「抗酸化力が弱い」と考えられる血中尿酸値が低いグループでは心臓病や運動後急性腎不全が多いという報告がある一方で、「抗酸化力が強い」と考えられる血中尿酸値が高いグループではパーキンソン病の発症頻度が低いという報告があり、これが尿酸の抗酸化作用を示唆していると考えられています(※3)。 また実験でも、体内で活性酸素が多くなると尿酸が多く分泌され、活性酸素を下げることが報告されています(※4)
つまり尿酸には、生体で発生する酸化ストレスを消去する効果があります。ということは、尿酸値は高すぎても低すぎても良くないのです。
それではなぜ尿酸値が高くなってしまうのでしょうか? 尿酸値が高くなる原因の多くは体質によるものといえますが、ほかに生活習慣も関連することが分かっています。
尿酸値の上昇を防ぐ生活上の注意としては、以下の4つがあげられます。
■1:太らないように標準体重を維持する
肥満度が高い人ほど、高尿酸血症や痛風の発症頻度が上昇することが明らかになっています。逆に、肥満を合併している高尿酸血症は、減量のみで改善することが期待できます(※5)。
■2:プリン体の多い食事を控え、抗酸化物質をたくさんとる
プリン体は旨み成分なので、それを含まない食材はほとんど存在しません。とくに、肉類、魚の干物、甲殻類、ビール、魚卵などには尿酸が多く含まれています。
一方で、大豆、チーズ、卵などには少なく、ビタミンCやポリフェノールなどの抗酸化物質を多く含む食材は、尿酸値を下げる役割を果たします(※7)。できるだけこういった食品を摂るようにしてください。
■3:尿をアルカリ性にする
尿がアルカリ性になると、尿酸が解けやすくなり、体外に排泄されやすくなります。尿をアルカリ性にするには、海藻や緑黄色野菜といった食品を多く摂取してください。
■4:ストレスを溜めない
ストレスが多い人ほど、尿酸値が上がることが報告されています。だからこそ、痛風を防ぐためには上手なストレスマネージメントが大切です。
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以上、体内における尿酸の役割と生活習慣との関係、そして痛風を防ぐ食生活のポイントを解説しました。尿酸には抗酸化物質としての働きもあるので、尿酸値についても高からず低からずの適正バランスを保つことが大切なのです。
尿酸値を適正にする生活習慣は、糖尿病、高血圧、がん、心血管疾患の予防のために推奨される食事と共通した点が多く、この方法を使えば生活習慣病の予防も併せて行えることになります。お伝えしたポイントを踏まえて、痛風に悩まされることのない健康な生活を手に入れて下さい。
【参考文献】
※1:Gout and Nucleic Acid Metabolism 2007; 31: 119-31.
※2;Nucleosides Nucleotides Nucleic Acids. 2008; 27: 608–19.
※3:Gout and Nucleic Acid Metabolism 2014; 38: 145.
※4:Free Rad. Biol. Med 1997; 22: 169-74.
※5:高尿酸血症・痛風の治療ガイドライン 第2版
※6:Scientific Reports2017; 7. Article number: 1266.
※7:Arthr & Rheum 2007: 57: 816-21.
※8:Nutr J 2010; 9: 45.
文/中村康宏
関西医科大学卒業。虎の門病院で勤務後New York University、St. John’s Universityへ留学。同公衆衛生修士課程(MPH:予防医学専攻)にて修学。同時にNORC New Yorkにて家庭医療、St. John’s Universityにて予防医学研究に従事。