文・絵/牧野良幸
『ゴジラ』は1954年(昭和29年)に公開されたゴジラ映画の第1作。ここで初めてゴジラが地球上に出現した。監督は本多猪四郎。音楽は伊福部 昭。そして特撮はもちろん円谷英二だ。
僕は1958年生まれなので『ゴジラ』を映画館では観ていない。僕が怪獣映画を観に行くようになるのは60年代になってからだ。『モスラ』(1961年)や『海底軍艦』(1963年)といった東宝の特撮映画は幼少の記憶として今も残っている。
そしてやっぱりゴジラだ。ゴジラとモスラが対決する『ゴジラ対モスラ』(1964年)、鮮烈なキング・ギドラと対決する『三大怪獣 地球最大の決戦』(1964年)。このあたりまでが僕を心底から恐怖に陥れたゴジラ映画であったろう。
続く『ゴジラ・エビラ・モスラ 南海の大決闘』(1966年)は子供心にも娯楽映画と捉えていたし、『怪獣島の決戦 ゴジラの息子』(1967年)にいたっては、当時小学三年生にもかかわらず「子供だましだな」と、これで“ゴジラ卒業”を確信した次第。今振り返ればゴジラに震えた年月はそんなに長くなかった。
子供の成長はそれだけ早いということなのだろう。逆に気になりだしたのは、まだ観たことのない第1作『ゴジラ』だった。小学生の高学年ともなると級友とこんな会話をしていたのである。
「ゴジラはやはり最初の『ゴジラ』が一番らしいよ」
「第1作は白黒なんだって」
「怪獣同士の戦いじゃないところがシブい!」
しかしビデオもないあの時代、地方の子供が『ゴジラ』を観る機会などなかった。僕が『ゴジラ』を本当にしっかりと観たのは、実に21世紀。2001年にDVDを手に入れてからである。
『ゴジラ』は噂どおり面白い映画だった。最初こそ資料的な意味で観たり、ルーツ探しの気持ちで観たかもしれないが、何度も観るうちにゴジラ・シリーズで一番面白いのは、やはりこの第1作と思うようになった。
よく「処女作に作家の総てが入っている」と言われるが、『ゴジラ』もまさしくゴジラ・シリーズのすべてが入っている。尾びれを光らせて熱線をはくゴジラ。逃げまとう群衆。果敢に出撃する自衛隊。ゴジラ映画のお約束的な場面は全部『ゴジラ』にある。そして伊福部 昭のおどろおどろしい音楽も。
さらに年月は過ぎて2018年の今、僕は『ゴジラ』をもはや怪獣映画としてではなく、本多猪四郎監督の“面白すぎる日本映画”として観ている。
『ゴジラ』と同じ1954年公開の黒澤明『七人の侍』に、サムライ役で出演した志村喬が古生物学者として登場しているギャップを楽しんだり、初のゴジラ・ヒロインである河内桃子の可愛さに鼻の下を伸ばしたり、この映画はゴジラ以外にも見どころ満載なのだ。
『ゴジラ』は初の怪獣特撮映画であると同時に、日本映画の黄金期に生まれた名作映画でもあったのだ。
『ゴジラ』
■製作年:1954年
■製作・配給:東宝
■白黒/97分
■キャスト/宝田明、河内桃子、平田昭彦、志村喬 ほか
■スタッフ/監督: 本多猪四郎(本編)、円谷英二(特撮)、原作:香山滋、脚本:村田武雄、本多猪四郎 音楽:伊福部昭
文・絵/牧野良幸
1958年 愛知県岡崎市生まれ。イラストレーター、版画家。音楽や映画のイラストエッセイも手がける。著書に『僕の音盤青春記』『オーディオ小僧のいい音おかわり』(音楽出版社)などがある。ホームページ http://mackie.jp