取材・文/池田充枝
風景画の巨匠ジョゼフ・マロード・ウィリアム・ターナー(1775-1851)の、日本初出品を含む約180点が一堂に会する展覧会が北九州市立美術館本館で開かれています(〜2018年2月4日まで)
ターナーはロンドンに生まれ、10代で地誌的水彩画家として出発しました。若いころからその才能を発揮し、20代の若さでイギリス美術の最高権威、ロイヤル・アカデミーの正会員となりました。
当時のイギリスは産業革命が進展して、大英帝国として繁栄を謳歌していました。この時代に、富裕層の子女の教養のひとつとして水彩画が大いに発展を遂げ、イギリスの「国民的美術」とまで言われるようになりました。もともと油彩画の習作用や地誌的な記録用に用いられた水彩画が、公的な展覧会に出品されるまでの地位を確立したのです。
一方で「グランド・ツアー」の流行とともに風景画への需要が高まっていました。そんな時代背景のなかで、ターナーは、イギリス国内はもとよりフランス、スイス、イタリア、ドイツなどヨーロッパ各地を旅行してたくさんの風景画を描き、高い評価を得ました。
またターナーは版画の出版物も残しています。版画にする際は、スケッチの忠実な再現にこだわり、彫版師に試し刷りの段階で細かく注文をつけ、納得いくまで何度も彫り直しをさせていたそうです。1826年に出版した『イングランド南海岸のピクチャレスな景観』は、ターナーの傑作版画のひとつです。
本展は、ターナーの画業と芸術の全貌を、イギリス各地と日本国内の美術館から選りすぐって集めた約180点の作品で紹介。最新の知見をもとにターナー芸術を再考し、その核心と魅力に迫ります。
見どころを、北九州市立美術館の学芸員、河村朱音さんにうかがいました。
「このたび北九州市立美術館本館は大規模改修工事による約2年の休館を経て、11月3日にリニューアル・オープンしました。装いを新たに、記念の特別展では、イギリスを代表する風景画家ターナーの作品をご紹介します。
ターナーは、イギリスで最も偉大な画家であり、風景画の歴史においても最も独創的な画家のひとりです。卓越した技法により、嵐の海景、崇高な山、穏やかな田園風景など、自然の多様な表情を描くとともに、古代の美を呼び覚ます歴史風景画にも取り組みました。また、詩集の挿絵や地誌に関する出版物など多くの優れた版画も残しています。
本展は、スコットランド国立美術館群をはじめとするイギリス各地と日本国内の美術館から選りすぐった、すべてがターナーの作品で構成されます。総点数約180点のうち、油彩画、水彩画50点が日本初出品となる、日本では一堂に展観する機会の少ないターナーの画業と芸術の全貌を存分に堪能できる貴重な展覧会です。最新の知見をもとに、4つの章を辿りながらその核心と魅力に迫ります」
居ながらにして風光明媚な地を旅することのできる傑作風景画の数々を堪能しに、ぜひ足をお運びください。
【開催要項】
『英国最大の巨匠 ターナー 風景の詩 Turner and the Poetics of Landscape』
■会期:2017年11月3日(金・祝)~2018年2月4日(日)
■会場:北九州市立美術館本館
■住所:北九州市戸畑区西鞘ヶ谷町21-1
■電話番号:093・882・7777
■ウェブサイト:http://turner-kitakyu.com
■開館時間:9時30分から17時30分まで(入館は17時まで)
■休館日:月曜(ただし月曜が祝日・振替休日の場合は開館し、翌火曜が休館)、年末年始(12月29日~1月3日)
取材・文/池田充枝